第24話 百合をお泊りに誘ってみた
少し肌寒く、見上げれば曇り空の11月。
「あ、あのさ。さっきは悪かった」
向き直って頭を下げる。
「
「登校控えてたわけだし。やっぱり俺のほうが」
原因は先程の朝の一件だ。
どうにも雰囲気が盛り上がって。
しかもベッドの上で抱きしめ合いながらキス。
恥ずかしいやら申し訳ないやら嬉しいやら。
「とにかく。ああいうのは、時間があるときに、な?」
「うん。やっぱり朝は良くなかったよね」
百合も思い出しているんだろう。
はにかみながらもニヤニヤしている。
これだけなら問題はないのだ。
いや、多少問題だけど、時と場所を考えようというだけ。
あの時盛り上がった雰囲気を引きずってるのが最大の問題。
「えーと、あのさ。いや……」
このお誘いをするのはどうにも躊躇がある。
もちろん、無理な誘いではないけど露骨過ぎる。
「な、なに?」
首を少し俺の方を向けて。
落ち着かない様子で問いかけてくる。
「えーと。他意はないからな?別にさ」
どうにも歯切れが悪くなってしまう。
それもそのはず。こういうのは朝言うことじゃない。
「うーんと。先に私から言って、いい?」
ああ。これ、同じ事を考えてるパターンだ。
「ああ。言ってみてくれ」
「今日……修ちゃんとこお泊り行っていい?」
「……」
やっぱりか。俺も言おうか迷っていた言葉。
学校ではなんとか我慢するとして。
今日は一夜を共に過ごしたい気持ちなのだ。
それもこれも朝の一件が悪い。
「あ、その。おばさんの許可がないと無理だよね」
「ちょっと聞いてみる」
母さんに対してメッセージを出す。
【今日、百合をうちに泊めて大丈夫?】
今朝のあの一件を見ているのだ。
きっと、これだけで伝わるだろう。
【朝の続きでもしたくなったの?】
そして、我が母もまたいやらしい返事を。
【当たらずと言えども遠からずだな】
当たっちゃってるんだけど。
【別に来客用の部屋あるからいけるけど】
母さんの回答にほっと一息。
【百合ちゃんとこのご両親の許可もとっときなさいよ?】
そりゃそうなるか。
【それは当然。でも、こう。いいのか?】
我ながらなんとも曖昧な言葉だ。
【孫ができちゃうかもしれないって?】
遠回しに夜エッチするだろと言われてる。
【いや、孫は出来ないと思うけど】
そこの一線は守るつもりだ。
【それは残念。とにかく、ご両親の許可さえあればOKよ】
【助かる】
母さんとのやり取りを終えて顔を上げると。
「駄目……だった?」
少し心配そうな顔の百合。
「全然大丈夫。百合の両親さえ許可するならだって」
理解があり過ぎるのもいいのか悪いのか。
「じゃあ、私も聞いてみる。たぶん大丈夫だろうけど」
今度は百合の方が何やらタップして打ち込んでいる。
おばさんなら喜んで許可しそうだよなあ。
おじさんも百合には甘いから。
「大丈夫だって。お泊まり遠慮してたでしょ?て言われちゃった」
「そこは戸惑いあったよな」
付き合ってから一度だけホテルで外泊はしたことがある。
ただ、よく見知っているとはいえ彼女を自宅に泊める。
もしくは彼女の家に泊まるというのは非常に言いづらい。
親にしてみればどうにも微妙な気持ちになるだろう。
「でも、良かったかも。今夜はお別れしたくなかったし」
なんとも男殺しな。
「同じく。学校では抑えるにしてもな」
これまで何度も夜を一緒に過ごしたいと思ったことはあった。
ただ、お互いの家に遊びに行くより微妙にハードルが高かったのだ。
「あ。エッチなこととか無理にはしないからな」
宣言する事が意識してる証なのに。何を言ってるんだか。
「別に。私は抱かれたいと思ってるよ?」
「……」
そこで「エッチ」だの何だの否定してくれればいいのに。
百合は無駄に素直なんだから。
「といっても、雰囲気が盛り上がってならともかく……」
何とも言い訳めいていると感じる。
「ストレートに言って欲しいな。わかってるでしょ?」
確かにそうだよな。
愛情を囁くことは出来ても未だにこっちは照れが来る。
「じゃあ、そういうのも込みで。泊まりに来てくれるか?」
朝から何を話しているんだろうと自嘲する。
「うん。お泊りは色々気合い入れるから♪」
そしてようやくいつもの調子を取り戻したらしい百合。
「気合いって何だよ。気合いって」
言いつつもどういう方向か想像がつくのだけど。
「たとえば、パジャマとか?」
こいつは誘惑でもする気か。
「……百合に任せる」
逃げてみる。
「一応、そういうネグリジェも買ってあるんだけど」
「百合さんや。いつの間に?」
「以前のお泊りの時に色々考えたんだよ?」
「そりゃそうか」
それじゃあ、うーん。
「何持ってるか知らんけど。あんまりお色気ださない方向で」
「ちょっと可愛い系の服を脱がすの好きだもんね?」
「だー。もう、桃色の話やめようぜ」
頭を振って強引に想像するのを止める。
「別に思ったまま言ってくれていいんだよ?」
「だからなんでお前はそういうことを……」
「修ちゃんの好みの格好したいのは当たり前じゃない?」
「じゃあ。水玉模様のがあっただろ?それで」
「了解です!」
ふう。
「一応言っておくけどな。エロ関係の事あんまり言わないのは」
「大事にしたいからだよね。わかってる」
「……」
「でも、私はもっと求められた方が嬉しいよ?」
「わかったよ。あとは放課後相談な」
考えてみると初体験以来、百合とエッチな事をするのは月に二回程度。
がっつき過ぎないようにというのもあった。
ただ、百合はもっと求めて欲しいという気持ちはあるんだろう。
「ネット記事に影響され過ぎてるのかもな、俺」
「がっつくと嫌われるみたいな?」
「それもだけど。性欲って男と女は違うだろ?」
「男の子になったことはないけど、そうなのかな」
「百合が男の娘だったら困るわ!」
「私は修ちゃんが女の娘になったら面白いけど」
何を想像したのかやけに楽しそうだ。
「とにかく、キスまでは良くても、それ以上はブレーキかかるんだよ」
我ながら何とも妙にプラトニックなところがある。
「わかってる。今夜は色々お話しよ?久しぶりに昔の事とか」
「昔っていうと、中学の頃?」
「それもだけど。小学校の頃とか。色々思い出あったでしょ」
「いいな、それ。授業の間に色々思い出してみるか」
「うんうん。私もちょっと思い出してみる」
あー、そういえば小学校の頃なら。
親がデジカメで撮った電子データとかあるはず。
その辺も見せてもらえばいいか。
「しかし……お泊りが常習化してきたら、半同棲になりそうだよな」
「そ、そだね」
「受験の前は程々にしような。それで落ちるとか笑えない」
「うん。程々にしよう?」
いつもより強く腕を組みながら登校路をゆったりと歩いたのだった。
寒いはずなのに、身体全体がどうにも熱い。
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