第7章 高校三年生の夏と俺たち
第17話 夏、到来
「あじぃーーーー」
雲ひとつ無い、空、空、空な7月中旬。
まだ朝も早いのに気温は30℃を突破。
ニュースでも熱中症に注意とアナウンサーが言っていた。
(
まだ電気がついていない。
それも無理はないか。
暑くて部屋から出ずに眠っていたいだろう。
雲ひとつ無い快晴に心の中で文句を言いながら見慣れたボタンを押す。
「百合、起きてます?」
暑くてつい端的な聞き方になってしまう。
「まだお布団の中。暑いでしょ、早くお入りなさい」
「助かります」
十年前くらいはもうちょっとマシだった気がする。
異常気象というやつだろうか?
二階のリビングに上がると冷たい空気が身体を冷やしてくれる。
「あの子ったら。
もはやため息しかでない。
「また妙な悪戯しかけてきそうですね」
「あの子も本当に仕方がないんだから」
「百合はそういう娘ですから」
「本当、百合が修二君みたいないい子とくっついてくれて良かったわー」
「あ、はい。それは、その。ありがとうございます」
俺自身彼女がただ大好きなだけなのだ。
そう褒められるとどう反応をかえせばいいのかわからなくて照れる。
「じゃあ、百合を起こして来ますね」
「はい。以前みたいにイチャイチャしてても大丈夫だからね」
おばさんが何やら悪い笑みを浮かべている。
「……」
しないともするとも言えず、俺は黙ってスルー。
百合が起こしに来て欲しいということは、たぶん何かを仕掛けているはず。
以前のように、急に抱きついてこようとしたり。
あるいは布団に引きずり込まれそうになった事もあった。
(ま、いいか)
たまには罠にかかってやるのも彼氏の務め。
カツ、カツ、と階段を上りながら、少し考える。
「おーい、百合ー。起きろー。朝だぞー」
コンコンとドアをノックしながら呼びかけるけど、返事はなし。
予想通りだ。
「じゃあ、入るからなー」
前はもう一度呼びかけていたけど、狸寝入りなら遠慮は不要。
見渡せば奥にベッド、勉強机、化粧台。
右側にデスクトップパソコン。
高三になってから、将来のためにと買った奴だ。
最近はプログラミング教育という奴が流行っているのだ。
「おーい、百合ー。百合りーん。起きろー」
その声に一瞬、ぷ、と空気が漏れる音が聞こえる。
百合りーんに、反応したらしい。
しかし、布団の膨らみ方がいつもと違うな。
そういえば、与助を見かけなかったけど、もしかして。
近づくと、ふにゃーと与助の鳴き声が聞こえてくる。
なるほど、今日は百合と一緒におねむだったか。
一緒に丸まって寝ている要素を想像すると自然と笑みがこぼれていた。
「そろそろ起きないと遅刻するぞー」
ふにゃとやっぱり与助が鳴くけど、百合は無反応。
例によって寝息が妙に規則的だから、狸寝入りだろう。
「仕方ない……」
掛け布団をまくりあげると……やっぱりガバっと百合が起き上がって来た。
その手はもう食らった……と反射的に逆に抱きつくと、唇にちゅ、と冷たい感触。
「んう……」
俺の様子に構った様子も無く、唇を押し付けて来る。
さすがに予想外だったけど、それならこっちもとキスをし返す。
しまいには何度もお互いキスをした後。
ふなー、と与助の鳴き声に我に返ったのだった。
枕元の与助はふてぶてしい表情で俺たちを見上げていたのだった。
「お母さん、ご飯おかわり!」
「体重はもう気にしてないのか?」
「いいの。その分運動で汗かいて消費するから」
「まあ、それならいいが……」
どことなく釈然としないものを感じたけどまあいいか。
そして、いつもの、でもクソ暑い登校風景。
「まだ八時台なのに30℃オーバーとか反則だろ」
「さすがに、私も与助も参るよ」
「部屋、クーラーがんがんに効いてたもんな」
今の百合は夏服。
白と紺の半袖セーラー服だけど、とても似合う。
一瞬、あの胸のリボンを解いたらなんて考えてしまう。
いやいや、朝から何考えてるんだ俺は。
「うん?どしたの、修ちゃん」
「いや……相変わらず似合ってるなーって」
「リボンに視線が行ってたのは?」
じーと睨みつけて来る。
「リボンも可愛らしいなって」
「修ちゃん、私は嘘は嫌いだよ?」
もうすっかりばれているらしい。
「えとその。怒るなよ?」
一応、予防線を貼っておく。
「修ちゃんが考えたことは想像つくけど。大丈夫」
「ちょっとリボンを解いてみたいなと」
「修ちゃんのエッチ」
胸元を隠すような仕草をされてしまう。
「だから、言いたくなかったんだけど」
「でも、そっかー。修ちゃんは制服プレイをご所望かー」
「いやいや、人聞き悪いな。プレイとか」
「じゃあ、したくないの?」
「まあ、どちらかといえば」
「なら私も……いいよ?あ、TPOはわきまえて欲しいけど」
「よりによって百合にTPOを説かれるとは思わなかったな」
初体験以来、何度か身体を重ねているが、場所は俺の部屋か百合の部屋のどっちかだ。お互いの両親に声を聞かれては敵わないので、両親が居ない隙を見計らうことが多い。
「しかし、今年の夏は受験勉強一色で終わりそうだよなー」
「受験生だから仕方ないよ。合格するまでの辛抱!」
「そうだな。ま、時々息抜きしながら頑張るか」
「あ、それと。合格したら……プロポーズ期待してるからね?」
キラキラとした目で見つめられてしまう。
「それはもちろん。でも、お互い志望校に合格しないとな」
一緒に居たいというお互いの意向もあって、志望校は同じ。
自転車で通える範囲にあるので、実家から通うことも出来る。
とはいえ、それなりに難関大学として知られている。
油断は禁物だ。
大学生活をいい機会にアパートを二人で借りる案もあった。
ただ、百合が与助の面倒を最後まで見たいので没に。
俺も与助が知らない内に亡くなってたらショックだし。
「修ちゃんは、受かったら何のサークルに入りたい?」
「うーん……ちょっと待てよ……」
少し考える。入るサークルも百合と一緒だろう。
とすると、共通の趣味であるゲーム?
「なんか、ゲームとか部員で出来るサークルがあればいいな」
「修ちゃんらしい答えだね」
「百合は違うのか?」
「私は修ちゃんと一緒に居られれば……どこでも、いい、よ?」
少し照れながらもこういう台詞を言ってくれるのがやっぱり可愛い。
「それなら、まあ。俺も。百合と同じサークルなら」
「そっか。ありがと」
暑いだけじゃなくて、身体が熱くなってくる。
時間が経てば経つほどバカップルになっている気がする。
バカップルの夏、なんて言葉が思い浮かんだ。
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