第10話 いつも通りが重要
先日のエッチ未遂事件(仮)から約半月。
未遂というより俺がヘタレたんだけど。
あれからすぐというのもなんだかがっついてるみたいだし。
でも、覚悟してくれてるのにずっと待たせるのも違う。
もう二月の初旬だ。
言ってみてもいい頃合いだろうか。
「
隣を歩く
知らず知らず表情が堅くなっていたらしい。
「ええとさ。こないだ俺がヘタレた件あったよな」
言葉選びが情けないけど通じるだろう。
「別にヘタレとか思ってないよ」
微笑んで温かい視線を向けてくる。
なんだか前に増して百合がいい娘になった気がする。
「でも、俺が緊張したせいでこないだは……」
申し訳ない気持ちで言い募ろうとしたら。
「ストップ、修ちゃん。私はそんな事思ってないから」
「しかしだな。俺に責任があるのは明らかなわけで」
百合は気持ちを慮って言ってくれてるんだろうけど。
「私も少し言葉が足りなかったから言っておこうと思うの」
「わかった。聞くよ」
「実はね、私もこないだは結構いっぱいいっぱいだったの」
百合からの意外な告白は不思議と腑に落ちた。
そうだ。される側の百合だけが余裕なんて事もないはず。
「そうか。色々納得したよ」
「あとね。修ちゃんはきっとすっごく私の事想ってくれてる」
「そ、そりゃあそのつもりだけど」
「ううん。修ちゃんが思っている以上に気を遣ってくれてるよ」
「そうか?」
「こないだも、私を痛くするんじゃって緊張しちゃったんだよね?」
どうだろう。上手く出来るかというのを気にしていたけど。
その中に俺が気持ちよくなりたいはあんまりなくて。
確かに百合の事ばっかり考えていた。
「そうかもしれないな」
「だからね。はっきり言っておくね。痛くても私は大丈夫」
「でも、痛くない方がいいだろ?」
「私は修ちゃんと一緒になりたいの。少し痛くても我慢出来るよ」
俺は少し驚いていた。
これだけ百合が主張をはっきり口にするのは珍しい。
逆に百合の気持ちを俺が汲み取れていなかったからか。
「そっか」
「私は大丈夫だから。修ちゃんは自分が気持ちよくなりたいでいいよ」
「しかしだな。それは男の都合を押し付け過ぎで俺としては……」
「私が押し付けてもいいって言ってるから受け取って欲しい」
あくまで百合は笑顔で、気持ちを受け取って欲しいと。
その言葉にかかえていた不安が一気に消えていく気がした。
そうか。俺は大事にするあまり、傷つけたくない気持ちが強すぎたんだ。
「そうだな。じゃあさ。今日か明日、いいか?」
俺も性欲を満たしたいより、愛したいという気持ちが強かった。
でも、それは百合も同じだったんだと。
「急に?」
言いながらも、目が笑っていた。
「もちろん、がっつくつもりはないけど」
「いいよ。今日、しよっか。ゴムはある?」
「こないだ失敗したからな。買ってある」
「じゃあ大丈夫だね」
にっこりと笑った百合に思わず見惚れてしまう。
ただ奔放なだけじゃなくて、本当に情が強い。
「そうだな、大丈夫だな」
だから、俺も笑って返事を返す。
「じゃあ、また後でね」
「ああ、また後で」
教室の前で分かれて、Aクラに入る。
「おはよう、
「おっす。なんか、やけにすっきりした顔だな」
そこまでわかりやすく表情に出ていたらしい。
ここのところ、その事をよく考えてたからなあ。
「まあ、悩みごとが解消されたっていうのかな」
「ひょっとして
ドンピシャだった。川村は結構物をよく見ているのかもしれない。
「ま、そんなとこだ」
「喧嘩でもしてたのか?」
「いや、ちょっとした悩みだ」
言葉を濁すが。
(なあ。ひょっとしてエッチなことか?)
ああもう。やっぱり食いついて来た。
(黙秘権を行使する)
(堀川さんがさせてくれなかったのか)
普通だとそういう発想になるか。
(そういうのじゃなくて逆)
(逆?)
(これ以上は勘弁してくれ)
(了解。ところで、やけに食いつきがいいけど……)
(ああ、最近、彼女が出来てな)
照れくさそうにぽりぽりと頬をかいている。
その顔はなんだかとても幸せそうで。
友人の幸せそうな顔を見るのは気分がいい。
(そっか。おめでとさん)
(お前に言われると複雑な気分だな)
なんだか微妙な表情をされてしまった。
授業中、俺は一つの事を考えていた。
百合の言葉で気持ちは落ち着いた。
とはいえ、俺にも男の見栄がある。
だから、放課後の事を色々考えていた。
思えばこないだはこういう手順でしなければならないと。
そんな感じでがんじがらめになっていた。
でも、百合と俺の関係はそうじゃなかったはず。
本当に嫌だったら言ってくれるし、信じてもいいはず。
なら、俺が出来ることは-
放課後。俺の部屋にて協力型アクションゲームをプレイ中。
かの有名な無双シリーズ最新作だ。
俺は
百合は
レーザーで俺の手が届かない相手からの攻撃を防ぐ。
しかし、諸葛亮がレーザーって今更ながら凄い。
「なんかさ。今日はやたらサポートを意識してないか?」
些細な動きの違いだけど、そんな感じがする。
「わかる?」
「そりゃもう」
「じゃあ、なんで私が諸葛亮を選んだかも?」
「ん?」
考えてみると劉備と諸葛亮は理想的な君臣とされている。
その歴史を知った上でなら。
「少し遠回し過ぎるだろ」
言いたいことはなんとなくわかった。
「伝わったらいいでしょ?」
少しイタズラめいた笑み。
それから、しばらくの間無双ゲームをプレイした後。
「やっぱりこの体勢好きだよな、お前」
先日と同じように背中から抱きしめる体勢だ。
「こうしたら甘えてる感じがするの」
声色が甘ったるくて、妙にクラクラする。
「あのさ。改めて言うけど、大好き。百合」
最近言ってなかった言葉。でも、やっぱり実感する。
奔放だけど心の機微に繊細で。
でも自分を殺して遠慮するわけでもない。
そんな心のあり方が好きだった。
「うん。私も大好きだよ。修二」
そういえば、百合からも最近聞いてない気がする。
「たまにはちゃんと言葉にして言い合うのもいいよな」
「うん。たまにはそうしよ?」
ちゅ、っと軽い口づけを何度も繰り返していく。
その間に背中を撫でたり頭をなでたり。
あるいは、首筋にキスの雨を降らせたり。
次第に興奮が高まっていく。
「百合。今日は大丈夫なんだよな?」
「うん。大丈夫、遠慮しないで」
「そうだな、遠慮はしないから」
「でも、少しは優しくしてね?」
「わかってる」
「うん」
ちょっと緊張がほぐれた気がした。
その後もお互い身体の色々なところを触りあう。
お互いだんだん息が荒くなってきて。
興奮しているのを感じる。
「百合。じゃあ、これからするな?」
「うん……」
敷いた布団に押し倒して見つめ合う。
「今度こそ、されちゃうんだね」
その割に堅いところは微塵もなくて。
「なんかリラックスしてるよな」
思えばこないだは百合も結構緊張していた。
「修ちゃんが相手だから。緊張する必要ないでしょ?」
「そうか。俺も大丈夫そう」
「なら良かった」
うまく行かなくても受け止めてくれるとわかって。
興奮してても、不思議と安心感があった。
試しに胸に触れてみる。
「ふふ。こないだは滅茶苦茶緊張してたよね」
「どんな感じだ?」
「少しくすぐったいかも。でも、嫌じゃないから続けて?」
「ああ」
今度は少し力を入れて揉んでみる。
「修ちゃんに胸揉まれちゃった」
「恋人になる前に言ってたよな」
ふと、その時の景色を思い出す。
そういえば、あの時の百合は全然嫌そうじゃなかった。
「そう。だから、ちょっと不思議な気分」
少しずつ話し合いながら行為を進めていく。
それは、思い描いていた何かとは違うけど。
不思議としっくり来る感じだった。
繰り返して、少しずつお互いの気持ちを高めて行き。
お互い裸の状態で向き合っている。
「さ、さすがにちょっと恥ずかしい。電気、消して?」
「あ、悪い」
リモコンに手を伸ばして消灯する。
「じゃあ、するな……」
「うん……」
こうして行為に耽った俺たちだった。
◇◇◇◇
「なんか凄く充実感あるな」
行為を終えて服を着替えて布団の中で一言。
「うん。少し痛かったけど、同じ気持ち」
少し股を動かしづらそうだ。
まあ、考えてみると当然か。
「悪い」
「言ったでしょ。覚悟してるからって」
「ありがとな、百合」
そんな彼女が愛しくなって髪をかきあげてみる。
いつものように髪留めがないから、触り心地もまた違う。
「私もありがとね。あんまり痛くなかったから」
チュっと唇に軽い口づけをされる。
「ま、そのくらいは男として当然な」
お返しに口づけをする。
結局、気持ち良くしてあげなきゃ。
痛くしないようにしなきゃ。
そんな焦りが問題だったんだ。
「あ。でも、今度からはもっと気持ちよくなりたい」
「その辺は俺も勉強するから」
「逆に勉強されちゃうと困っちゃう気もするよ」
「気持ちよくなって悪いことないだろ?」
「だって、エッチにはまっちゃったら……」
「百合がそんな事気にするなんて。ま、大丈夫だろ」
「とにかく、勉強はしなくていいからね?」
「そこまで念を押さなくても」
「修ちゃんは言い出したら本気で勉強してくるから」
「信用ないな」
「信用してるから言ってるの」
そんな「らしくない」ピロートーク。
初体験を終えてもやっぱり俺たちは俺たちなのだった。
☆☆☆☆第4章あとがき☆☆☆☆
男女の交際につきものの初体験。
二人して、珍しく初々しい感じで悩むのでした。
初体験を終えて、ちょっと変化する二人ですが、応援コメントや
もっと先読みたい:★★★
まあまあかな:★★
この先に期待:★
くらいの温度感で応援してくださるととっても嬉しいです。
次の第5章は、バレンタインデーに関するエピソードです。
砂糖大増量ですので、お楽しみいただけると嬉しいです。
☆☆☆☆☆☆☆☆
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