第9話 緊張しまくりだった私

 帰ってきて夕ご飯を食べてお風呂に入って。

 気がついたらもうすぐ寝る時間だ。


「理解ある彼女みたいな物言いをしちゃったけど、でも……」


 布団にごろんとしてつぶやく。

 私も緊張でいっぱいいっぱいだった。

 覚悟は決めていたけどとても鼓動が激しかった。

 

 だから、修ちゃんが止まってくれてほっとした自分がいる。

 少し自己嫌悪。

 痛いのは覚悟している。

 でも、いっぱいいっぱいでの初体験は嫌だった。


「エッチな事って……本当に大変なんだなあ」


 白い天井の壁を見ながらぼんやりとつぶやく。

 

 もちろん、私だってエッチの心構えについては調査済み。

 力を入れすぎると痛いからリラックスして、とか。

 それでも痛みが強かったら彼氏に言って中断してもらうとか。

 本当に色々なアドバイスが載っていた。


 別にそのままでいいんじゃない?そう思う私もいる。

 でも、修ちゃんもしたいかもしれないし。

 それに、私だって慣れたら気持ちよくなれるならしてみたい。

 あとは恋人としてエッチをずっと避けてるのも違う気がする。

 付き合って二ヶ月。まだまだ私たちは恋人初心者だ。

 

(ああ、でも。首筋があんなに感じるのは予想外)


 最初にされたときは何かぞわわっとする感覚があった。

 くすぐったいような気持ちいいような不思議な感覚。

 修ちゃんのせいで雰囲気が変わったのは間違いない。


(私ってどこが感じるかとかもわかってないんだ)


 第二次性徴が始まって多少は身体を触ってみたこともある。

 でも気持ちいいという感覚は得られなくてそれっきりだった。


(私も偉そうに言えないなあ)


 クラスの友達にでも相談した方がいいんだろうか。

 彼氏と体験を済ませてる人も何人か知っている。

 でもエッチの相談なんて恥ずかしい。 

 ゆうちゃんはまだ恋人いないし相談出来ないか。


 結局、最初の一回は緊張するのを我慢するだけなのかも。

 でも我慢というのはよくないかもしれない。

 修ちゃんは優しくしようとしてくれてるわけだし。

 でも、アソコとか胸を触って欲しいとか言うの?

 恥ずかし過ぎる。とても言える気がしない。


「うーーーーーー」


 知らず知らずの内にうめき声が漏れている。

 理性が制御出来ないなんて久しぶりの事だ。

 

「もう少し勉強しよう!」


 女の子の心構えを書いたページだけというのが良くない。

 男の子も緊張すると出来なくなるんだし、いいムードでしたい。

 

『初体験 ムード』

『初体験 気持ちよくしてあげる方法』

『初体験 痛くならない方法』

『初体験 彼氏が迫って来たら』


 寝っ転がりながらスマホで色々検索してしまう。

 私はなんでこんなこと検索してるんだろう。


 修ちゃんと付き合ってもう二ヶ月。

 交際にも慣れて初々しさとは無縁だと思っていた。

 でも、初体験というだけで必死になっている私がいる。


 老夫婦とかなんとか言われてたけど私達も普通の恋人。

 そんな事を実感して少しほっとしていた。


 検索して出てきたことをまとめると。


①相手に理解してもらう


 それについては心配していない。

 修ちゃんも私を痛がらせるのが嫌で緊張してたわけだし。

 色々考えてくれているのは長年の付き合いでわかる。


②焦らない


 焦るなんていうことはない

 むしろお互い気遣いあう事になっちゃう。

 私は修ちゃんに気持ちよくなって欲しい。

 修ちゃんもきっと同じように思ってる。

 とにかく、出来るだけ落ち着かないと。

 心しておこう。


③演技はしない


 さすがに演技はするつもりはない。

 下手に気持ちがいい演技をしてもバレる。

 そうなった時の方が気まずい。


④下着に気を遣う


 勝負下着という奴らしい。

 こないだは普段穿いてる上下とも水色のだった。

 男の子は白の下着が好きらしいけど。


(でも、白は露骨に狙ってる感じがする)


 そもそもこんな話題を修ちゃんと話すことがない。

 どんな色だろうがこだわらない気もする。

 やっぱり私達の間で意識し過ぎるのも良くないか。

 ちょっとかわいい感じの下着は買っておこうかな。


 結局のところ、準備出来ることなんて限られている。


 ここまで考えて全部そういうのは「一般論」だって気がつく。

 修ちゃんは修ちゃん。どうしてあげたら喜んでくれるか。

 どうしたら彼が緊張しないでいられるか。

 それを考えないと。


 あ、そうか。一つ言うのを忘れていたことがあった。

 最初から痛がらせないようにとか。

 気持ちよくしてあげたいとか。

 そこまで気を遣わないでいいんだよって。


 だって、私はただ好きな人と一緒になりたいだけ。

 多少は痛いのは覚悟してるから、大丈夫だって。

 それを言ってあげないと。


 普段はあんまり言わなくても通じるからつい忘れていたこと。

 言葉できちんと相手の不安を解きほぐしてあげること。

 それが重要なんだ。

 きっと、長年の付き合いでもそれは変わらない。


 そう考えると不思議と不安は消えていた。


(でも、次はいつ迫ってくるのかな)


 昨日はお部屋デートの延長線上だった。

 修ちゃんは間を置かないのはがっついてると考えてそうだ。

 一週間以上は先だろうなー。


(なんだか眠くなってきた)


 一通り考えて腹が据わったからかな。

 別に急ぐことはないし、ゆっくり、ゆっくり。

 これから私達二人の人生の中でちょっとだけの事。

 そこまでおおげさに構えることなんてない。

 不思議と穏やかな気持ちになってきた。


 こうして私は意識を手放したのだった。

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