第4話 五月晴れの日の出産

その夜、陽仁がマンションに

帰っても、部屋の灯りは消えたままだ。


「穂乃香、ただいま

穂乃香?穂乃香‼」


部屋に穂乃香の姿は無かった。

何時もなら明るい声で


お帰り、と言ってくれるはずなのに。


ゴロンと横になった。

スマホがピカピカと光る


「穂乃香か!」

バタッと起き上がり

陽仁はスマホに飛びつく・・

オープン画面を見る。


「課長遊びにいきませんかぁ?」

LINEの送り主は佳奈だった。


「え?今から?」


「明日土曜日ですよ

奥さんにバレたし、

もういいでしょう。」


「バレたって?

ああ、俺と佳奈が昼飯食った事?」



「え?

私課長と付き合っている

つもりですよ。」



「え?ちょっと待って、待って

それ違うよね

それなら幾多や他の御局様なんか

何人付き合ってるか

わからないよ。

昼飯何回も誘われてるし」


「そ、そんなぁ!

土曜日映画キャンセル

したままですよ。

私、課長に身を捧げようと

さそったんですぅ酷い‼」



「俺、困るよ

そんなんだったなら

行かなくてよかったよ。」



「奥さんにバレて

ビビってるんですか?

そんなちっちゃい男だったん

ですね、最低‼」



「俺は佳奈に対して

恋愛感情は無かった・・」

いやそれは嘘だ!!


本当は佳奈の事は好きだ。

真っ直ぐな感情剥き出しで

突っ込んでこられたら避けよう

がない。

体の関係こそ阻止するが

可愛い、愛おしいと少なからず

思っていた。



土曜日だってあのまま映画に

行っていたら破滅へと

進んだに違いない。


子供がこんな馬鹿な父親を

止めてくれたのだろう。




「じゃあ月曜日オフィスでね!」

ブチ‼

俺はスッキリした気持ちで

電話を切った。


しばらくするとまた電話が鳴った。

「おう、陽仁元気にしてる・・

らしいな!」



「おう、

勇人か元気なんかね━━よ‼」

勇人は俺の友人で嫁とも同級生

勇人の嫁の茉菜と穂乃香は

親友だった。


「お前、彼女いるってホントか?」

勇人のひさしぶりの電話の

内容に唖然とする。


「な、ナニ??

居ないよ!」



「いやいや、今日穂乃香を実家に

返す作戦、彼女と立ててた

らしいじゃん、聞いてるぞ

穂乃香、呆れていたぞ

ヤッパリ浮気癖はなおらなかった

ってナ!!」


「は?」


「明日離婚届出すらしいぞ

い━━━━のか?」



:「離婚・・届?

ご誤解、誤解、穂乃香を止めてくれ

確かに確かに里帰り出産の話は

したよ、したけど穂乃香の事

思ってだから・・


穂乃香がソコにいるなら止めてくれ‼」



「お前懲りないなぁ

あんなに浮気しねーえとか言ってて

女癖なおらねーのな‼

病院行け、病院‼頭見て貰え!!」



「違うって勇人、穂乃香の

誤解なんだよ。」



「まあ穂乃香も、会いたく無いって

言ってるし距離置くのもいいんじゃね。


子供の顔見れたら良いな‼


お気の毒サマ

じゃあな、彼女の事は

心配するな‼」


「まて、まて、ホントの誤解

なんだってバ‼」



「迎えに行くから

保護しといてくれ‼」



それから車に乗ろうとしたら

佳奈の姿を見つけた。

思い詰めたような暗い影を

落としてジッと俺を見ていた。



「か、佳奈」


「陽仁さん。」

佳奈は駆け寄り抱きついた。


「やめ、やめてくれ‼」

佳奈を引き剥がし

ハアハアハアハアかなりの体力‼

投げ飛ばす訳にも行かず

天を仰ぎ見る!



「佳奈、ごめんな、

俺は佳奈とは生きれない!

嫁を愛し・・ん?てるよな?

と、兎に角今日はパスパス」


何とか佳奈を振り切って

車を走らせるのに成功


「あれ、俺って・・穂乃香を

愛してるのか?


必要としてるだけか?

コンビニでエンジンを止めて

考える。


このまま穂乃香を止めなければ

俺は独身?


またイチから恋愛をして遊べるし

自由じゃないか


なんで気づか無かったのか?

穂乃香との生活に縛られず

生きて行けるし特定の彼女を

作らなければずっと自由だ



悪魔の囁きと言うのは

脳ミソの中から聞こえてくる。



俺は車をUタ━━━━ンさせて

マンションに戻った。

最悪な夫と呼ばれる見返りに

自由を手にいれる事を選んだ。




それから2週間がたった。

離婚届は無事受理されたらしい。

穂乃香と縁が切れてホッとする

そんな自分がいる。

父親なんて荷が重い‼

なりたくて、なったんじゃない!


子供は苦手だし・・・嫌いだ


責任も重い、正直逃げ出したく

なっていた。


泣くし💩するし・・・

手に負えない!無理、

子供特に赤ちゃん何て苦手!!



「先輩どういう事ですか?

離婚したんですって

まさかあの前田佳奈と

デキたんですか?」


穂乃香ひいきの幾多篤志は


俺を責めるように食いついてくる

「いや、それは無い

俺はフリ━━━になったんだ‼

せっかく手に入れた自由

なんで彼女作るんだ?」



「また激太りしないで下さいよ!

先輩奥さんと復縁なんて

無いんですか!

絶対後悔しますって‼」



「だから、せっかく独身に

戻れたんだ、なんで元サヤに

なるんだよ!」



「後悔しないでくださいね‼」


「なんで後悔するんだ?」


「赤ちゃんも産まれるんですよ!

どうして、こんな時なんですか?

奥さん可哀想とか無いんですか?」



いや可哀想になるのは、

俺だからそう言いたかったが

篤志は

子供好き、街で会う子供見て

「可愛い!」


赤ちゃんだと堪らず寄って行ったり

もする。

ど━━━━してあんなになれるのか?

理解出来ない。


「奥さん、きっと泣いてますよ。」


「穂乃香とはもう関係ないよ‼」

俺はキッパリ未練も無い事を

つげる。






前田佳奈とは関係無いと先輩は

言いながら

一日中一緒にいるのはなんでだ?

俺、幾多篤志は先輩の、元嫁穂乃香が気になっていた。


先輩をチラッと見る。

何も気にした様子も見えずバリバリ

と仕事をこなしていて

変わらずのモテ男ぶり。



別に先輩の家庭の事だし

俺が気にする事じゃない

・・・でも気になる‼



幾多篤志、営業課へ移動


会社のエレベーターの入口3階の

前に移動命令がでていた。


坂口陽仁、事務課へ移動・・・


「え?俺が華の営業部?

先輩は地味な事務?」



は?なんで?

ザワザワと皆が見守る中、課長は

拳を震わせていた。


一応肩書きは・・あ、アレ係長?

降格ポカ──ン先輩が?

なんで?


企画部の俺らはビツクリ‼

課長にかける言葉も無い‼


課長は上に直談判

「もはや今迄がおかしかった

コレが普通」

と押し返された。


どうやら人事部のミスでは無かった

らしい。



夏も近づく八十八夜を迎えた五月

少し汗ばみながら得意先を回る。

今日は仕事終われば直帰

久しぶりに同期と飲むか!


そんな事を考えながら

歩く。


フッとした気持ちの隙間が空くと

つい先輩の元嫁さんの事を

考える、そろそろ臨月じゃ

無かったか?


今、何処に住んでいるんだろう

慰謝料請求も無かったらしく

生活は、出産は?金銭面は大丈夫

なんだろうか?


あんなに尽くしてくれる彼女を

重かった、自由が無い、とか言って

臨月の彼女を放り出し

遊び放題の先輩には人事の

扱いは、天罰が下ったとしか

思えない。


あの日

時計を見ると17:00

篤志はバスを待っていた、すると

お腹の大きい女性がバス停の

椅子に座った。


まばらなバス待ちの人に混じり

俺も気にすることなく並んでいた


お腹を抑えていて

顔もよく見えない。



バスが着いて俺も乗り込んたが

彼女は立ち上がりもしなかった。


「お手回りにお気をつけ下さい。」


バスが走り出したが

気になった俺は、


「すみません💦

降ります、降ります!」


人の迷惑を返りみず降りて

元いたバス停へと走り出した。


-` ̗ パッ ̖ ´-と見たら彼女は体を

固くして苦しそうにしていて

慌てて駆け寄って声をかけた


「大丈夫で・・・アレ」

彼女を見た俺は


「・・・・・」


「ねえ穂乃香さんでしょう?💦」

彼女はびっくりして苦しそうに

俺を見た。


「ㅇ_ㅇあ💦幾多さん?」

一時期苦しそうにしていたが

痛みが引いたのか穂乃香はすまな

そうな顔をして


「すみません、声かけてもらった

けど急いで帰らないと」

そう言うとスタスタとあるきだした。


「送りますよ!

陣痛始まったんでしょう。」


「そうなんです、入院の用意は

してあるので其れを取りに

行かないと!」


「え?1人で・・

お母さんとか知り合いとかは」


「私、両親居ないんで

伯父と伯母に育てられたんです。」


「連絡しましょう。」


「生まれてからでいいです。

それに旦那しか入れないし

旦那いませんし」


何となくほっておけなくて

彼女の後をついて行った。


「遠慮しないでください!

僕が付き添います。」



「そんな駄目ですよ」


「今日は、直帰ですし

明日は休みですし暇なんですよ」



「え?あ、アイタタ、

キタコレ!!」


彼女のマンションはセキュリティが

しっかりしていて結構いい

マンションだった。


「部屋に着くと用意してあった

入院グッズを持ってタクシーに

乗り込み病院へと向かった。」


「あの、先輩には、知らせなくて

いいんですか?」



「い、いい、

あの人は家族を・・捨て・・たん

ですから慰謝料請求しない代わり

娘にハハアハア合わせない約束なんです。

イタタタタ


捨てた父親に、合わせた・・く

ない━━━━━━━━━ィイィターイ」


タクシーが着くと車椅子に乗せられ看護師さん達がドヤドヤと出て来て


「陣痛何分おきですか?」


「あ、え?えと10分です」

俺はドギマギしながら答えた。



穂乃香はすぐ内診され分娩室

へと運ばれた。


「旦那さんは確か立ち会いでしたね

でも今は、ウイルスのまん延防止

の為立ち会いは御遠慮して

もらってます。

別室でお待ちくださいね。」


ドッカリ貫禄満点な看護婦長さんは

ニコニコして待つのも楽しい

ものですよ。

そう言っていた。


ああは言ったものの先輩には

知らせるべきだと思い

何回も連絡したが出なかった!


最後だと思い掛けた電話には

見覚えのある声がした。


「もう、幾多さん着信多すぎ」


「前田か?

先輩出してくれ急用なんだよ」


「ねえねぇ幾多さんから」

佳奈は陽仁に携帯を渡そうと

したが


”うるさいなぁ、眠いんだ

切れ切れ”✖


「ねえ?聞こえた?

じゃあね━━━━バイ~バ~イ」

ブチッ

佳奈は陽仁に言われたとおり

電話を切った。



「なんて男だ

1人前にして貰った恩はあるが

今は部署違い

今、俺は棚田部長の下につき

仕事をしている。


穂乃香さんと夫婦だった頃の

坂口陽仁はこんな、薄情な

ダメ男じゃなかった!

今彼女が臨月だって知らない訳

が無い、何時も気にしているべき

じゃないか、なんて薄情な奴だ‼」

(●`з´●)💢


幾多篤志は彼を見限る時期を

知った。


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