【1000字小説】短ッッッ!!!
八木耳木兎(やぎ みみずく)
【1000字小説】短ッッッ!!!
しんどい。
もう何時間も座席に座っている気分だ。
気を紛らわすためのコーラとポップコーンももうない。
かと言って、途中退席も俺の主義に反する。全編観なければ、観終えたことにはならないからだ。
いつ終わるんだ、この映画―――
その映画は公開の二か月ほど前に、ミニシアター系列での上映が決定していた。
この映画監督の過去作には、俺にもお気に入りのものが何作かある。
またメインの俳優陣はオスカー候補にも選ばれた実力派ばかりで、観る前の期待値は否応にも上がっていた。
今思えば、豪華な俳優陣なのにシネコンではなくミニシアターで上映している、という時点で色々察するべきだった。
まずストーリーに起伏がない。
各登場人物のキャラクター像も掴めない。
必要最低限の設定すら説明してくれないので、キャラクターに興味を持てないまま花が続く。
それだけならまだよくあることだ。キャラクターやストーリーに難があっても、映像美だけで楽しませてくれる映画なんていくらでもある。
だがそれに加えて、肝心の映像も、難解で挿入意図が不明で、アクションや恋愛のようにこちらの感覚を刺激してくれない場面ばかり。
元々表現主義的な作風で知られる映画監督だったが、今作では本当の意味で山も谷もない、ただ解像度の低い登場人物たちの、解像度の低い行動様式を連続して見せられることになった。
気が付いたら俺は、「終わってくれ、早く終わってくれ……」と、祈るように手を握りながら涙目で画面を見つめていた。
しかしいつまで経っても、一向に結末に入る気配すら見せない。
というかストーリーの全体像が読めないため、商業大作なら大体わかる【あ、そろそろオチだな】とわかる空気が全くつかめないのだ。
パッ……と非常口の誘導灯がついて映画の終わりが示されたころには、徹夜での残業を終えた気分にさせられていた。
俺はいちいち映画の上映時間を細かく確認するタイプではない。
映画に没入することが目的で入るのだから、実際の上映時間などの知識は映画にのめりこむのには不要なのだ。
しかし今日見たこの映画は、体感時間で言えば少なくとも五時間以上。
上映時間が体感通りであれば、スウェーデンの映画監督・イングマール・ベルイマンが手掛けた三一一分の映画【ファニーとアレクサンデル】に匹敵する。
俺はほんの少しの興味の元。
映画ポータルサイトを開き。
映画の名前を検索し。
その映画の上映時間を確認した。
【八八分】
【1000字小説】短ッッッ!!! 八木耳木兎(やぎ みみずく) @soshina2012
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