13
真っ白な砂漠に立つ少女の後ろ姿が見えた。絵の具みたいにドロドロとした真っ白な雨が降り注いでいる。滝のように降り注ぐ雨は、砂漠の渇きを加速させているようだった。砂に染み込むとチョークみたいに固くなり、タバコの灰のように脆く崩れ、粒子に戻る。
少女は、この雨がどこから降るのかと空を見上げる。すると、無数の顔から降り注いでいることに気がつく。その顔は、三つか四つの顔が混じり合って、一つの石のようになっている。真っ黒な顔の塊。
不意に雨が止む。顔にこびりつく白い雨を払い、また空に浮かぶ顔を見ると、無数の顔たちは皆、少女を見ている。
少女の空洞だったはずの目には、黒い眼球に白い虹彩が張り付いている。大きく目を見開いて、空の顔たちと同じく真っ白な涙を流した。そして声にならない声を叫び出す。
「————————、ご飯、できたよー」
瞼が開いた。どうやら少し眠ってしまったらしい。手には目と髪のない人形が握られている。気持ちの悪い夢だったが、とてもわかりやすい夢だった。高耶と取った星と、若葉さんと夢咲さんの真っ白な服装に影響されてあんな夢を見たんだろう。
焼けた肉の匂いだ。焦げ目が付くくらいにに火を通しているんだろう。部屋を出ると、少しだけ煙たい。
今日は珍しく父がすでに帰ってきていた。家族四人で机を囲む。
いただきますをして、大きな皿に乗せられたハンバーグを小皿にとる。黒くなった焦げ目に、ソースとケチャップをかけ口に運んだ。その香ばしさは、他のなににも変えがたい。夢咲さんたちは、焦げのない料理しか食べないのだろうか。気になることは色々あるが、次、会う時に聞けばいいだろう。
「あれ、味変だった?」
母が誰に言うでもなくいう。焼酎を炭酸で割り、少しだけ酔っている父が、これもまた誰に言うでもなくいう。
「とても、美味しいよ」
短く切りそろえた髪を触りながら喋るのは父の癖だ。そしていつものように、なににでもわさび醤油をつける父は、もちろんハンバーグにもつけ、美味しそうに食べている。
「ほんと? ならいいんだけど」
そう言ってから母もハンバーグに口をつけた。
弟はすでに半分以上を食べきっていた。が、突然に箸を止め、コップの水を飲み干し父に向かって静かに言った。
「父さん、その、なんでもわさび醤油をかけるの、俺もやっていい?」
「もちろん、いいよ」
父が差し出す小皿に、弟が一口に切ったハンバーグをつけ、そのまま口に運ぶ。
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