記録 日記(手帳)




五月六日

今日から日記を書いていこうと思う。

というのも美智子に書けって言われたからだ。

美智子は僕に趣味がないことを知っている。

でも僕に趣味がないのは、勉強で忙しいからだ。

と、そんな言い訳なんて美智子に通じるはずもない。

ああ、多分この日記を読むのは、僕だけか、もし読んだとしても美智子くらいだろうけど、僕と美智子の説明は一応しておく。

僕は一重 慎吾 ひとえしんごだ。

一重家の一人っ子で今は十七歳。高校生だ。

美智子は、東野宮 美智子 ひがしのみや みちこ。

僕と同じ歳で、同じ高校に通っている。

幼馴染で、最近付き合い始めた。昔から仲は良かったけど

もう二人ともかなり大人になったということだ。

と、僕たちの自己紹介はここまでにしておこう。

日記の量も結構良い感じになった。

これで美智子に見られても怒られることはないはずだ。





八月二十日

暑い。猛暑だ。

これまで色んな日記を書いてきたが、今日は少し疑問を書こうと思う。

美智子とは家が近い。そのお陰で父と母と美智子が、仲が良いのも助かる。

ただ最近、父と母と美智子が僕に隠れてなにかを話し合っているように思う。

気の所為だとも思う。考えすぎだとも思う。

美智子は、昔から家に上がって、僕より先に帰っていたなんてこともあった。

でも、なにか妙だ。

美智子のことは疑いたくはないけれど少し探ってみようと思う。





九月十九日

やっぱりまだこそこそしている。




五月三日

高校三年生になったばかりだけど僕の進路はもう決まっている。

大学進学じゃなくて就職だ。

別に家は貧乏ではないし、大学への進学も望むならできただろう。

でも僕は就職して、美智子と二人で一緒に暮らしたかった。




八月十日

今日は最高の気分だ。

というのもずっと三人がこそこそしていた理由が分かった。ただそれが分かったからじゃない。

こそこそしていた訳も僕の気分を良くすることに大きく影響している。

父と母と美智子は僕との結婚について話していたらしい。




十月十六日

最悪だ。

眠れなくなってしまったからこれを書こうと思う。

午前二時頃、僕は尿意で目が覚めた。

それ自体はごく稀にあることだから別に良い。でも今日は違った。

トイレに向かおうと部屋から出て、しばらく廊下を歩くと物音がした。

こんな時間だ。身構えないはずがない。

だけど、僕の目と耳は少しずつ覚醒していったようでその音の正体に気が付いてしまった。

この先に関しては書こうかどうか真剣に迷ったが、

簡単に言えば男女の営みだ。

最悪な気分だ。




十二月一日

美智子の体調が悪い。

心配だ。

一週間過ぎても体調が良くならないのなら

病院に連れていくことにした。




十二月八日

正直、驚いている。

美智子が妊娠していた。

とても喜ばしいことだけど、父親になる覚悟はまだできていなかった。

でも、ここでは言い訳させてほしい。

僕は確かに避妊していたし、失敗した様子もなかった。

よし。言い訳終わり。

父親としてこれから頑張らなくちゃ。




二月五日

就職先の先輩たちは親切な人が多くて、良いところだった。

家から遠いところが不便だけど、卒業してしばらくしたら

近くで美智子と悟と三人で暮らすんだ。




三月一日

父さんと喧嘩した。

家を出ることは許さないと言われた。

母さんも父さんの味方だ。

美智子のお腹も大きくなってきたし、

産まれるまでの間だけのことなら分かる。

でも一生此処にいろと言われた。

ふざけるな。僕はなんとしてでも此処を出ていく。




八月十日

役場に婚姻届を提出した。

結婚式をしたいけど、二人には頼りたくない。

この家から出た後、お金を貯めて結婚式を挙げるつもりだ。




九月一日

忙しくてここ最近日記を書けていなかった。

毎日書いていたことを抜かすなんて今までなかったし、

日記のことを忘れていたわけでではない。

とうとう、悟が生まれた。

忘れもしない。八月十六日。

感動しかなかった。

一生を賭けて二人を幸せにしようと改めて誓う。




九月二十二日

ここ最近、人の視線を感じることが多くなった気がする。

ずっと誰かに見られているような感じだ。

今思い出せば、悟が生まれた直後ぐらいに始まったような気がする。

あの時は忙しくて気のせいだと思っていたけど、

確かに誰かに見られている。




一月三日

役職を任されることにもなった。

かなり長い残業もしたし、

やればやるだけ僕の評価も上がっていたとのことだった。

異例の若さらしい。

幸か不幸か趣味や他に打ち込んでいることもないから

お金がかなり貯まった。

そろそろ次に計画に移る頃合いだ。




八月十三日

住む場所を見つけた。

職場からもほど近く、家族連れしか住んでいないマンションだ。

二人にばれることもないだろう。

ばれたとしても此処から出たことがない二人が追いかけてくることは

ないと思う。




十一月三十日

ようやく落ち着いた。

計画とはままならないもので、一か月も遅れてしまった。

とはいえ、もう安住の地だ。

504号室。

しばらく此処で幸せに暮らせるだろう。




六月十四日

此処はとても良いところだ。

防音も防犯もしっかりしているし、住人は僕たち似たような頃合いの人たちばかりで

とても仲良くしてくださる。

ただその分、値段は張る。僕の給料で十分間に合うけれど、

もう少し貯金に回すお金を増やしたいから、

残業を増やそうと思う。




八月六日

昇格した。会社には僕と年齢が近い人が周りにはいない。

部下も年上ばかりで、少しやりにくさが目立ってきた。

けれど給料もその分上がってるし、まだ我慢できるだろう。




十二月二十五日

最近、ちゃんと家に帰れていない。

でも美智子も悟も僕を励ましてくれる。

我ながらとても良い家族を持ったと思う。





  月   日

なぜこれを書こうと思ったのか自分でもよく分かっていない。

おそらく自分が自分で恐ろしくなったのでないかと思う。

自分の本性が、自分の中に眠るなにかが恐ろしくて、怖くて。

だからこれを書き残そうと思ったのだと思う。


僕は人を殺した。殺したのは大学生の男。

あいつは美智子と寝ていた。

関係はあの大学生が引っ越してきた直後から続いていたらしい。

もう思い出したくもない。

発覚した原因は単純だった。美智子が妊娠した。

でも僕はここ最近、美智子としていない。

だから妊娠することもあり得なかった。

美智子を問い詰めると、悪びれる様子もなくそのことを話した。

誰と寝て、誰の子かすら話した。

でも美智子のことだけは殺すことができなった。

どうしてもできなかった。


この子が生まれる前に此処から引き払おう。

僕があいつを殺したこともいずればれる。

だとすればもう帰る場所はあの家しかない。

帰りたくはなかったけれど、今回ばかりはもう仕方がない。

初めからこうなることが決まっていたようで本当に

気分が滅入る。





 月   日

よりにもよってこの瞬間にこの事実を僕に知らせることはなかったはずだ。

悟が僕の子じゃないなんて信じられない。

実の親さえも僕の味方ではない。

裏切者

裏切者裏切者裏切者裏切者裏切者裏切者裏切者

裏切者裏切者裏切者裏切者裏切者裏切者裏切者

裏切者裏切者





 月   日

全て終わった。

今度こそ四人で幸せに暮らす。

可愛い美智子に二人の可愛い赤ん坊。

二人とも僕の子どもだ。



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