書き残し
いままでこれまで一度も見たことのないような奇妙な夢。顔が渦巻いたなにかが私に指を向けてそう言っていた。
起きてすぐは汗だくだった。悪夢で済めば良いが昨日の出来事からして悪夢ではきっと済まされないのだろう。
あの後、激しい頭痛に苛まれながら私は帰路に着いた。いつもの帰り道のはずだった。
怒鳴り合う夫婦。道端に煙草と痰を投げ捨てる老人。子どもの頬を何度も叩く母親。見える範囲に見えない悪意がばら撒かれていた。日常のようでどこかずれた日常だった。分断された現実の一部を塗り替えて見せられていた気分だった。
コップ一杯の水を飲んで気持ちを落ち着かせる。これほど精神を乱されたことなど初めてだった。
昨日のことを整理しよう。本当は昨日の方が良かったのだろう。なにせおそらくこれには期限があるはずだ。死するまでの期限が。
昨日の人物は最後まで名乗りはしなかった。
まるでマンションでの出来事が自分に起こったことかのように話していたが、あれはあの人物に起こったことではないような気がした。あの人物は言っていた。『誰も彼らのことを覚えていません』。だが、あの人物は覚えていた。
記憶の受け渡しが可能なのか。あの人物も俺と同じようにこの話を聞かされたのか。それはどちらでもいい。ただこれは伝染する類なのは間違いない。拡散するのか、それとも一人一人を渡り歩いていくのかまでは分からなかったが。
行こう。
ただ私には一人、協力してくれるであろう心当たりのある人物がいる。
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