第41話 最強吸血鬼vs最凶吸血鬼
「待たせたわね。ここからは私が直々に相手してやるわ」
リリスが握りこぶしを作りながら魔王を睨む。
「……なぜ、貴様は心が折れない? 大事な人間が死んだというのに。自分が
魔王がリリスに問いかける。
魔王は信じられないという表情をしていた。
「師匠は笑って私を応援してくれたのよ。なら、それに応えないわけにはいかないでしょ!」
言い終わるとともに、リリスが床を蹴る。
神速の勢いで迫るリリス。
彼女に向かって魔王が魔法を紡ぐ。
「【空間分割】」
魔王の目の前の空間に複雑な亀裂が入る。
「空間が裂ければ、そこにあるものも裂ける。それが摂理だ」
リリスは魔王の攻撃によって左腕を失いながらも、その眼前に到達!
右拳で連打を放つ!
「ステータスで負けてても、こんだけ殴ればちょっとは効くでしょ!」
リリスの連撃が魔王の体に直撃するが。
魔王はダメージを喰らった様子を見せるどころか、その場から全く動かなかった。
「無駄だ。貴様の攻撃は私に届かない」
リリスはなおも攻撃するが、状況は全く変わらない。
(明らかにおかしいわ。私のステータスが半減されているとはいえ、それでもダメージが入らないなんてことはあり得ない。何かカラクリがあるはず……!)
リリスは連撃を放ちながら、もう一度【鑑定】を発動。
魔王のステータスを見ていくが。
――それらしきスキルは見つけることができなかった。
(そもそも、なんでコイツは
魔力0。
それが意味するのは、魔力を持っていないということ。
魔法は魔力を使って発動する。
つまり、魔力がないと使えない――はずなのだ。
魔力はあるけど魔法を使うことができないリリスでも、【斬撃波】やアスモデウスの編み出した魔拳のような方法で魔力を使うことはできる。
だが、魔力がなければ、それすらもできないのだ。
「私に攻撃が届かないのが、そんなにも不思議か?」
「聞いたらご丁寧に教えてくれるのかしら? 気になるに決まってんでしょうが!」
「なら教えてやろう。冥途の土産というやつだ。それに、教えたところで貴様に対策手段がないことは確認済みだしな」
騙すつもりのなさそうな魔王を見て一瞬驚いたリリスだったが、攻撃の手は止めない。
そんな彼女に向かって、魔王が告げる。
ダメージを受けないカラクリについて。
「“次元魔法”だよ」
「次元魔法……?」
次元魔法。
それは太古の昔に失われた魔法にして、この世界における最高位の魔法。
空間魔法よりも遥か高みに位置し、神が使っていたとされる魔法だ。
「超次元のエネルギーを内包する“無限”が、私の周囲を覆っているのだ。貴様程度の攻撃では、“無限”を突破することはできない」
ついに魔王が動いた。
リリスを上回る速度で肉薄し、リリスの鳩尾を殴り飛ばす。
「がはっ……」
魔王の攻撃をまともに受けたリリスが、血を吐きながら吹き飛び。
魔王城の壁に激突して止まった。
(とんでもない威力ね……!)
リリスが血の混じった咳を出しながら、ゆっくりと立ち上がる。
そのまま魔王を鋭い目で睨みつけようとして――。
「諦めろ」
魔王の拳がリリスの頬を撃ち抜く。
「がっ……」
リリスはまたも吹き飛ばされるが、床に足をつけて減速。
二本の長いラインを引いたところで止まった。
「師匠に言われて私を倒そうとしているだけの貴様と違って、私は復讐を果たすべく今この場にいるのだ! 貴様では絶対に私に勝つことはできない!」
魔王のその言葉を聞いて、リリスは。
ペッと口の中の血を吐き捨てた。
「上等よ。ここに来たのもアンタと戦うのも全部自分で決めたことなんだから、後悔なんてしてないわ。アンタがどれだけ強かろうが、いつまでも後ろばっか向いてるやつに負ける気はないわよ。――最強の吸血鬼を見くびるんじゃないわよ!」
リリスが叫ぶ。
その意志の強さに魔王はほんの一瞬気圧されたが、すぐに動いた。
「何があろうと勝つのは私だ!」
先ほどまでよりも圧倒的な速さで。
リリスが反応するよりも先に殴り飛ばす!
「貴様はステータスもスキルも技術も何一つ私には届かない!」
吹き飛ぶリリスよりも早く進路先へ移動した魔王が、リリスを真下へ叩きつける。
リリスが轟音を立てながら、魔王城の床を突き破って最下層へ叩き落とされた。
だが、魔王の連撃はそれだけでは終わらない。
さらに速度を上げて最下層まで先回りした魔王が、膝蹴りをリリスに叩き込む。
(……強い……! 懐かしい死の気配が迫ってくる……。だけど、それでも――)
「すぐに血液ストックを尽きさせて、再生できなくしてやる!」
吸血鬼の超再生力でかろうじて命をつないでいるリリス。
そんな彼女に容赦なく魔王の攻撃が炸裂していく。
リリスは攻撃をまともに喰らい続けながらも、強い意志を込めて言葉を放つ。
「最強っていうのはね……ただ強いから最強じゃないのよ……!」
「だからなんだというのだ!?」
攻撃の炸裂音や破壊音が響き渡る。
アリアやクララ、皇女には、何が起こっているのかわからない。
二人の姿を捕らえることすらできず、ただリリスの勝ちを祈るしかない。
「最強っていうのは……理不尽な運命とかを正面からぶっ壊せるから最強なのよ! 私はこんなところでバッドエンドを迎えるつもりはないわ!」
魔王の昇撃により、魔王城を突き破って吹き飛ばされたリリス。
そんな彼女のもとに、数匹の
(こんな状況なのに……いや、こんな状況だからこそ! 今ならいける! 絶対に届くわ! あの境地に!)
リリスはコウモリを――最凶ダンジョンを脱出した時に【蝙蝠化】スキルで生み出したコウモリを取り込んで。
正確には、そのコウモリたちが持つ血液ストックを取り込み。
ギリギリで命をつないだ。
「奇跡的に命をつないでも無駄だ!」
リリスの真上に移動した魔王が、思いっきり真下に叩きつけてくる。
右腕を真上に掲げてガードしたリリスだったが、防ぎきることは到底かなわない。
――と、魔王は思っていた。
「【
それはアスモデウスが使っていた受け流しの極意。
この
だが、ダメージは流せても叩きつけられた勢いは止められない。
だからもう一度使う!
「【
魔王城最上階――アリアとクララが捕まっているところ――の床に激突する瞬間、その勢いや衝撃を受け流す!
見事、床をぶち破ることなく着地して体勢を整えたリリスは――。
――どんなに逆境だろうと諦めず、その再生力を
何百、何千回と地獄を乗り越えて。
格上との戦いを何百、何千回と乗り越えてきた
「領域掌握――【
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