第30話 デッドリーヴェノムスライム

『俺は清純派スライムだ! 触手プレイとか一度もしたことないわ! この触手は攻撃用だ! ……ともかく、俺をさんざんコケにしてくれたお前たちはここで死ね!』


 十数本を超える太い触手が、私たちめがけて一斉に放たれた。


 ――ヒュンッ! と、触手が空気を切り裂きながら迫る。

 触手が地面に叩きつけられ、土煙が舞った。


「あっぶな!」


「距離が開いてないと躱すのは厳しいですね……!」


 私は余裕で躱せるけど、レベルが200に到達したばかりの二人だと厳しいみたいね。

 仕方ないか。100近いレベル差があるんだし。


「二人は後ろに下がりなさい。前衛は私だけでやるわ」


『ほう。一瞬で骨すら残さずに溶ける腐食性の高い俺の猛毒にどう抗う? 耐えたところで強力な呪いが降りかかるぞ?』


 私は毒自体には耐性がある。ダンジョン生活時代に散々苦しめられたからね。

 だけど、腐食とか呪いには耐性がない。

 だから、こいつの体に触れるわけにはいかない。


 まっ、私なら余裕で耐えれるだろうけど、痛いのは嫌だからね。

 今回は殴るわけにはいかないわ。

 とはいえ、私は魔法が使えないから、こいつに対する打点はない……こともない。


『ハハハ! もがけ! 苦しめ! 死ぬ寸前まで死に物狂いで抗って見せろ!』


 スライムが触手を連続で振ってくる。

 飛び散った粘体の飛沫が、周囲の木々を溶かす。


「確か【無限収納】の中に……あった。この状況を切り開けるアイテム」


 私の【無限収納】の中には、魔物のドロップ品や宝箱から手に入れた武器が大量に入っている。

 けど、そのほとんどは死蔵されている。

 自分で殴ったほうが強いからね。


 でも、この状況なら――。


「これを使いなさい! 魔力を装填そうてんして撃つのよ!」


 私は【無限収納】から取り出した三mほどもあるソレを、二人に向かって投げ渡す。


 この世界の技術では作りようのない、機械チックな超文明兵器。

 人類未踏の最凶ダンジョンだからこそ入手できた、“超電磁魔力砲レールガン”という武器を。


「何これカッコいい!」


「よくわからないけど、なんかすごそうな見た目してますね」


 この超電磁魔力砲レールガンという武器は、一発撃つのに使用者の全魔力を消費し、さらに撃てるようになるまで時間がかかる。

 けど、その分威力は折り紙付きよ。

 いわゆるロマン武器ってやつね。



「ここぞという時にブチかましてやりなさい! 【血操術】――ブラッドアーマー」


 私は自分の腕に血をまとう。

 肘の辺りまでしっかりと。


 そして、スライムに肉薄。


「歯を食いしばりなさい!」


『歯を食いしばるのはお前のほうだ!』


 スライムが振るってきた触手に向かってパンチを放つ。


 血をまとった拳がスライムの触手に触れた瞬間、触手とスライムの体の一部が弾け飛んだ。


 私の腕は血で覆ってるから、ダメージはないわ。

 そのためのブラッドアーマーだからね。


「案外ゴリ押しで行けるものなのね。やっぱり拳こそ最強だわ」


『何が起きた……!?』


 スライムは何が起きたのか理解できていない様子。

 簡単よ。


「パンチで衝撃波を発生させた。ただそれだけよ」


『衝撃波だと!? どれだけの威力でパンチを放てば、衝撃波だけで俺の体を消し飛ばせるんだ……!?』


 パンチで衝撃波を出すなんて余裕よ。

 ちなみにこれは【斬撃波】みたいに魔力を衝撃波に変えて飛ばしてるんじゃなくて、ただ単にパンチの威力が高すぎて衝撃波が出てるって感じ。

 この衝撃波を一点に集中させれば、その威力はすごいことになる。


『くっ……! お前はなんなんだ?』


「最強の吸血鬼を舐めないでもらいたいわ」


 私は連続でパンチを繰り出す。


『ォ……オオ……!』


 スライムの体がどんどん消し飛んでいく。


『オオオ!』


 スライムが乱雑に触手を振り回して反撃してくる。


 私はその触手を消し飛ばす!


『お前を取り込んで跡形もなく一瞬で消化してやる!』


 スライムがその巨体で跳びかかってくる。


『死ねぇぇえ!』


 私めがけて落下してくるスライム。

 私は天に向かってパンチを放ち、その半身を消し飛ばす。


『ぐぼおおお!?』


 すぐにその場を飛び退くと、最初の三分の一ほどの大きさになったスライムが音を立てて墜落した。


『ぐっ……! ここで死ぬわけには……!』


 スライムは生命力が高い。

 それは目の前のこいつも同じようで。


 必死に体を動かそうとしているが、私が与えたダメージが思ったよりも多かったみたいね。

 その場から動けずに必死にもがいている。


 ここで私が消し飛ばしてもいいけど、とどめはアリアとクララに譲るわ。

 経験値的なこともあるけど、あの二人はまだこいつに一発ブチかましてないからね。



 刹那、二人のほうから超魔力反応。


「装填が終わったみたいね」


『な、なんだ……?』


 私は驚くスライムを無視して、アリアとクララのそばに移動した。

 ちらりと二人の手元にある超電磁魔力砲レールガンを見る。

 超電磁魔力砲レールガンの側面にある魔力の装填量を示すゲージが最大まで溜まって、虹色の煌めく光を発していた。


「さあ、ブチかましてやりなさい!」


 全ての魔力を吸われて疲労した様子の二人だったけど、私のその言葉で元気を取り戻した。


「ええ! 深夜徘徊する悪いスライムにはお仕置きしてやりますよ!」


「たくさんの人に触手プレイした罪を償え!」


『それは冤罪だぁぁあ!』


 超電磁魔力砲レールガンがより一層煌めく。

 銃口の先に虹色の光が集まっていき。



 ――ピュンッ! と。一筋の光がスライムの体を貫いた。

 刹那、光が膨れ上がり、巨大な虹色の光線と化す。

 光線はスライムだけじゃなく、射線上のすべてのものを呑み込みながら突き進んでいく。


 少し遅れて轟音が響き渡り、爆風が押し寄せる。

 超電磁魔力砲レールガンがシュウウウウという音を立てながら、すべての魔力を吐きつくした。

 魔力装填ゲージがゼロになり、カラフルな光が消える。


 超電磁魔力砲レールガンの光線が突き進んだほうを見れば……。


「……ちょっと、威力が高すぎたわね」


「そうですね……。ちょっとこの武器は封印したほうがいいかもです」


「楽しかったしカッコよかったから、この超電磁魔力砲レールガンってやつまた使いたい!」


「いつかね。いつか……」



 超電磁魔力砲レールガンの光線が突き進んだ痕には、何もなかった。

 木々や植物は消し飛び、地面は抉り取られている。


 地表が溶けたマグマみたいになってるんだけど。

 めっちゃ煙出てるんですけど。



『ぁ……ぁ……』


 ふと、小さな声が聞こえてきた。

 間違いなくスライムの声だ。

 けど、死にかけているみたいね。

 声が弱弱しいわ。


 スライムはすぐに見つかった。

 抉り取られた地面の上に、拳ほどの大きさの紫色の粘体の塊が落ちていた。


『ちくしょう……。一度くらい触手プレイしてみたかった……』


「見かけ通りじゃん」


『俺を倒したくらいでいい気になるなよ……。近々、帝都で面白いことが起きるぜ……』


 スライムはそれだけ言うと、邪悪に笑ってから息絶えた。



「ふぅ。討伐完了ね」


「この猛毒の塊は私が有効活用してあげましょう」


 クララがスライムの残骸を採取する。


「お姉様」


「何?」


「眠い」


「はいはい、しょうがないわね。抱っこしてあげるわ。クララも帰るわよ」


「はーい。ちょうど採取終わりましたよ」


 私たちは超電磁魔力砲レールガンの惨状については見なかったことにして、テントに戻って今度こそ深い眠りについた。

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