第29話 湖の化け物
みんなで釣り大会をした後。
私たちは釣った魚を焼いて食べた。
アスモデウスがおすすめしてただけあって、キングサーモンはすごくおいしかったわ。
「私が釣った怪魚は……うん、微妙ですね」
「あまり味がしない……」
「結構パサパサしてるわね」
他にもいろいろな種類の魚がいたけど、今日食べた中ではぶっちぎりでキングサーモンの圧勝だったわ。
脂が乗ってて旨みがすごいのなんのって。
他の魚なんて、キングサーモンの足元にも及ばなかったわ。
そんなこんなで夜ご飯を食べた後は、みんなで森の探索へ。
「見て! コーカサスオオクワガタ捕まえた!」
「フッ。私はヘラクロスオオクワガタですッ!」
「おー!」
「フッ。甘いわね」
「姉貴は何捕まえたんですか?」
「気になる!」
「じゃじゃーん! ニジイロカブト捕まえたわよ! この体の煌めき具合が美しいでしょ?」
「すごい! カッコいい!」
「名前通り虹色に光ってますね。というか、姉貴ってこういう虫は平気なんですか?」
「カッコいい奴ならむしろウエルカムよ」
キャンプ生活一日目を満喫した私たちは、テントの中で毛布にくるまって就寝。
――とはいかず。
「お姉様お姉様」
「何かしら? 大体想像はつくけど」
「ひさしぶりに吸血えっちしよ」
アリアが頬を赤らめながら迫ってくる。
「いいわよ」
私がそう答えると、アリアは「やったー!」と叫びながらあっという間に裸になった。
「五秒もかからなかったですよ。過去一番の速さですね」
「お姉様、お願い」
アリアがもじもじしながら首を差し出してくる。
私はアリアの透き通るように白い首筋に、優しく牙を突き立てた。
「んっ、このお姉様の八重歯が突き刺さる瞬間が気持ちいい」
チューチューと音を立てながら、ゆっくりと血を吸う。
血の甘い香りが鼻孔をくすぐり、フレーバーな味わいが口の中に広がっていく。
たっぷりと味わいながら、ゆっくり飲みこんでいく。
「んっ、やっぱり、お姉様最高。あんっ、すごく気持ちいい」
アリアが喘ぐ。
私はアリアの体の前に腕を回して、そして――。
アリアとの一週間ぶりのえっちを堪能してから、私たちは眠りについた。
すぐに深い眠りに落ちて、ぐっすりと眠れていたんだけど……。
「何かが近づいてきたわね」
遠くから禍々しい異様な気配がやってくるのを感じ取ったことで、私は目を覚ました。
私の胸に顔を挟んで爆睡していたアリアと、私の背中側でお行儀よく眠っていたクララを起こす。
「ふぁ~、天国に到達した気分だった」
「現世に帰ってきなさい」
「毒液風呂に浸かる夢見てました。幸せでした」
「はいはい。現実ではやらないようにね」
二人が目をこすりながら起き上がる。
「敵襲よ。なかなかにヤバそうなのが近づいてきてるわ」
「よしおが言ってたやつかな?」
「どうせそうでしょう。というか、なんでどいつもこいつも夜中にやってくるんですかぁ。ドラゴンといい今回の奴といい」
「さあ、私たちの安眠を妨害したやつをブッ飛ばしに行くわよ! あ、その前にアリアは服着なさい」
「はーい」
私は二人を連れて気配の主の元へと向かった。
せっかくぐっすり眠れてたのに、こんな時間にやってくるのは許せないわ。
朝方ならまだしも、まだ深夜じゃない。
寝始めてから体感で二時間くらいしか経ってないから、めちゃくちゃ眠いわ。
さっさとブッ飛ばして今度こそ安眠しましょ。
湖の外周に沿って移動してから、森の中を走る。
気配の主はどうやら、レイメス湖を目指しているみたい。
だから、レイメス湖にたどり着く前に私たちで倒す。
どう考えてもまともな相手じゃなさそうだからね。
少しの間森の中を疾走していると、大きく開けた場所に出た。
「ちょうどいいわね。ここで迎え撃ちましょ」
「「ラジャー!」」
待つこと数分。
ソレは周囲の木々をなぎ倒しながら現れた。
巨大な液状の怪物。
体が禍々しい紫色の粘体で構成されているスライムの化け物が。
「禍々しい気配からもしかしてとは思っていたけど、毒と呪いの塊みたいな存在ね。どう考えてもまともじゃないわね」
「これじゃ、殴れないじゃん」
「面倒ですね」
スライムが私たちの前までやって来て、その場で止まって私たちを見下ろす。
そして、話しかけてきた。
『なんだお前らは?』
「人に名前を聞く前にまずは自分が名乗りなさい。非常識スライム!」
「そーだそーだ! 触手プレイ好きの変態スライム!」
『スライムに常識は必要ないだろ。あと、そこの頭トチ狂ってる女。人を見かけで判断してはいけませんって教えられなかったのか? 常識だろ?』
「常識なんて必要ないとか言ってるやつが常識を説かないでください」
『俺は常識がなくていいんだよ。でも、お前らは常識を持て』
「自己中か!」
スライムがゴポゴポと音を立てながら、巨大な体を横に伸ばしていく。
スライムの体に呑み込まれた木々や草が、一瞬で腐って跡形もなくなった。
「アンタこそ誰かのもとに遊びに行くのは朝の十時を過ぎてからって教えられなかったのかしら? こんな夜中にやってくるとか迷惑なのよ。良い子は寝てる時間でしょうが! 私たちはそれはもうぐっすりと眠ってたわよ!」
『お前ん家に来た覚えはないわ! 俺はデッドリーヴェノムスライムだ。主人の命令でこの湖を汚染しに来た悪いスライムだよ! だから夜中だろうが関係ないわ! 帝国の水源や水産資源の要であるこの湖や運河を俺の猛毒と呪いで汚染したら、さぞかし大きな被害が出るのだろうなぁ』
スライムがここに来た目的をペラペラと語る。
こいつの言う主人ってやつは、一億連敗のベルフェゴールの
このスライムは驚異のレベル300越え。
このレベルの化け物を何体も従えられるような奴が、この世界にそうそういるはずがない。
だから、同一人物説は結構濃厚ね。
……そういえば、温泉旅行の時の炎竜王も誰かに命令されてやって来たんだったかしら?
まっ、よくわからないけど、いつかそいつもブッ飛ばしてやりたいわね。
『……と、俺がここに来た目的を包み隠さず教えてやったわけだが、それを知ったお前たちはどうする? シッポ巻いて逃げるのか?』
「私たちにシッポは生えてないよ」
『そういう意味じゃない、あんぽんたん! ……それとも、何かの間違いが起こることを期待して
スライムの体から、何本もの触手が伸び始める。
『どちらを選ぶにせよ、俺のすべきことは決まっている』
「私たちに触手プレイするんでしょ! いっぱい触手生やしたし」
『俺は清純派スライムだ! 触手プレイとか一度もしたことないわ! この触手は攻撃用だ! ……ともかく、俺をさんざんコケにしてくれたお前たちはここで死ね!』
十数本を超える太い触手が、私たちめがけて一斉に放たれた。
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