第27話 最強悪魔との別れ

 武闘大会から数日後。

 私たちはクララの優勝祝いということで、アスモデウスの作った鮭料理フルコースを堪能したりして羽を伸ばしていた。

 ちなみに料理のバリエーションは前回から増やされていたから、全然飽きることなく食べられたわよ。

 もちろん味は最高級。相変わらずアスモデウスの料理の腕前は素晴らしかったわ。


 そんなこんなで、目的だったお金はがっぽり手に入れることができた。

 今、バハムートンの街は例の街の人たち昏睡事件の調査が行われているけど、真相を知っている私たちはどこ吹く風って感じで。



『そこで砂糖を混ぜるのだ。ポイントは横着していっぺんに入れないこと。料理は多少雑でもなんとかなるが、お菓子作りは楽をしようとすればすべておじゃんになると心しておけ!』

「ラジャー!」

『本当にわかっているのか不安だ』



 アスモデウスがアリアに憑依するのは今日まで。

 そんな最後の一日に何をしているのかというと。


 私たちはアスモデウスからお菓子作りを教えてもらっていた。

 今回作っているのは、ケーキとクッキーの二つよ。


 エプロンをつけたアスモデウスが細かく指示を出す。

 ホントにこの悪魔は多芸ね。

 もはや、この悪魔に不可能なんてないんじゃないかって思えてきたわ。


『そこ! だまにならないように気をつけながら混ぜる!』


「もっとですか?」


『もっとだ!』


「ラジャー!」


 アスモデウスの指示を聞きながら、アリアはクッキーを。

 クララと私はケーキを作る。


 作るのって結構大変だけど、意外と楽しいわね。


 そんな感じでせっせと作業をしながら、雑談していると。

 話題がアスモデウスについてへと変わった。


「アスモデウスってなんで死んだんですか?」


「それは気になるわね」


「よしおが死ぬところが想像できない!」


 アリアの言う通りだわ。

 強さを極めたこの悪魔が簡単に死ぬなんて、想像ができないもの。



『すい臓がんでなんの面白みもなくあっけなく死んだが?』



「あ、病死したんですね」


『うむ。いくら強さを極めたといっても、病気は気合ではどうにもならなかった。今の我輩なら、自身の細胞をコントロールすることでがんくらい簡単に治せるがな』


「それはそれでおかしいと思いますよ?」


「それ以前に、悪魔って細胞あるのね」


 この悪魔の頭のネジの外れ具合(誉め言葉よ?)を再確認できたところで、またまたクララが疑問を投げかけた。


「すい臓がんは治せなかったんですか? 生前がSランク冒険者なら、エリクサーの一本くらい持っててもおかしくないと思いますけど」


 エリクサーっていうのは、一番等級が高いポーションのことね。

 回復魔法やポーションじゃケガは治せても病気は治せないけど、エリクサーだけは特別。

 どんなケガも病気も一発で完治させたうえで、寿命を延ばす効果まであるわ。


 ちなみにエリクサーなら、ダンジョン生活時代に私も五本くらい持ってたわよ。

 四本は魔物との戦闘で死にかけた時に使って、残りの一本は脱水症状で死にかけた時に飲んだわね。

 最後のはもったいないって思うかもしれないだろうけど、そのおかげでなんとか延命して水をドロップする魔物を倒すことができたわ。

 だから後悔はしてないわよ。


『エリクサーは我輩が昔攻略したダンジョンで手に入れたことがあったが、我輩のすい臓がんが発覚する前に使ってしまったな』


「その口ぶりだと、当時のパーティー仲間とかに使ったんですか?」


「よしお、そのエリクサー誰に使ったの?」

『才能がないだとか言われて虐げられ続けていた王女を国から誘拐した時に使ったな』


「悪魔とは思えない聖人っぷりね」


 ……惜しいわね。

 ときどき煽ってくるウザさがなければ、もっとモテるでしょうに。


「もしかしてよしおが言ってた好きな女性って、そのお姫様のこと?」

『フフフ。それはどうだろうな?』


「すっごく気になります! アリア!」


「任せて! よしおの頭の中を覗き……見れない!?」

保護魔法プロテクトを使ったからな』

「何それズルい!」



 そんな風に話していたら、クッキーの生地とケーキのスポンジづくりは終わった。

 ハート形や星形などクッキーの生地をそれぞれ好きなようにカットした後。


『焼くのは我輩に任せるがいい』


「絶対に焦がさないでくださいよ!」


『安心するがいい。我輩の悪魔火魔法デビル・ファイアはお菓子作り専用の魔法だ。絶対に焦がすことなく、ちょうどよい火加減で生地の中まで火を通すことができるぞ』


「ホントに多才ね」



 アスモデウスの言った通り、焼き終わったクッキーは香ばしい匂いを放っていた。

 ケーキのスポンジはふわふわに仕上がり、どこも焦げていない。

 スポンジにクリームを塗って、カットしたフルーツを思い思いに乗せてお菓子作りは終了した。


 最後にケーキをカットして、クッキーと一緒に皿に盛りつけ。

 私たちはすぐに食べ始めた。



「すごい! このクッキー中までサクサクでめちゃくちゃおいしいです!」


「ケーキのクリームが甘くておいしい!」


「ふわふわのスポンジにクリームの甘さがマッチしてるわね」


『うむ。上出来であるな。初めてのお菓子作りでここまでできたのは素晴らしい。練習を重ねれば、もっと上を目指せるはずだ。精進するがいい』

「精進します、よしお先生!」


 アリアから黒いオーラが出てきた。

 黒いオーラが形を変え、黒髪オールバックの高身長イケメンへと姿を変えた。


「もしかしてアスモデウスですか?」


『うむ。これが我輩の姿だ』


「めちゃくちゃイケメンじゃないの」


「すごくモテそう!」

『確かに生前はモテていたが、我輩にはもう心に決めた相手がいるのでな。そんなことに興味はない』


「ぜひそこを詳しく教えてください!」


 恋バナ大好きなクララがアスモデウスにずいっと詰め寄る。

 アスモデウスはそんなクララを無視して話を切り出した。



『……契約終了だ。今日まで世話になったな』


 アスモデウスが憑依を解除したからうすうす察してはいたけど、やっぱりお別れのようね。


「こっちも世話になったわ。二人に修行をつけてくれたり、料理やお菓子作りを教えてくれてありがとね」


「感謝してますよ、アスモデウス」


「アリアも感謝してる!」

『我輩にとっても有意義な時間であった。汝らと一緒にいれて良かったと思っている。我輩の教えたことを胸に、これからも精進するように』


 アスモデウスの足元に魔法陣が現れる。

 魔法陣から白い光が漏れ出る。


 アスモデウスがアリアのほうを向いてから。


『アリアよ。汝にはたくさん振り回されたが、意外と悪くなかったな』

「女の子に憑依できたのがそんなにうれしかったのか! 変態め!」

『そういうとこだぞ』


 アスモデウスが呆れたように言い放つ。

 魔法陣からあふれる光が強くなり、アスモデウスの体が光の粒子に変わりだした。


 アスモデウスは最後に私のほうを見てから。



『最後に我輩からのアドバイスだ。我輩は【未来眼】という魔眼が使えるのだが』



 【未来眼】というのは聞いたことがある。

 クララの【万能眼】のような魔眼の一種で、断片的にだが未来を見ることができるらしい。

 アスモデウスがわざわざ言うくらいだし、近い未来に何か起こったりするのかしら?



『“レイメス湖”に行くがいい』



 アスモデウスはそれだけ言い残して、完全に消えてなくなった。

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