第20話 アスモデウスの手料理
気合たっぷりな様子の二人に向かって、
『うむ。二人とも気合充分なようだな。その意気だ。では、景気づけとして我輩が手料理を振舞おうではないか』
アスモデウスがそんな提案をしてきた。
「「「手料理……?」」」
私たちの声がきれいにハモる。
悪魔って料理を作るものなの?
まともなもの出来なさそうなんだけど。
私がそんなことを考えていると、思ったことはズバッというタイプのアリアが真っ先に口を開いた。
「アスモデウスって料理できなさそう!」
『失敬な。人間時代の趣味の一つが料理だったのだ』
「そう。それならよかったわ」
「安心しましたよ」
私たちがホッと安心していると、
『何がだ?』
不思議に思ったアスモデウスが問いかけてきた。
「なんか悪魔の料理ってイメージすると、おどろおどろしい色と見た目の肉塊の寄せ集めみたいなのを作りそうだなって思ってね」
「私もです。元が人間のアスモデウスなら大丈夫だと信じてますよ」
私とクララの意見は一致していた。
やっぱりそう思うわよね。
『我輩が作るのは、ちゃんとした人間の料理だ。そんな他の悪魔が作るような料理は出さないから安心するがよい』
「他の悪魔に料理を作らせたら、私たちのイメージ通りのものが出来上がるのね……」
「やっぱり私たちのイメージ通りじゃないですか」
『我輩は例外だ。
アスモデウスは魔法で作ったエプロンを装着して、上機嫌で宿のキッチンを借りに行った。
そんなアスモデウスを見送った私たち。
暇つぶしにチェスの練習をして待つこと一時間半ちょっと。
アスモデウスが戻って来た。
『我輩にハンデありのチェスで負けたのがそんなに悔しかったのかな?』
戻ってくるなり、関口一番でそんなことを言ってきたアスモデウス。
「そ、そんなわけないじゃない! 私はクララにチェスを教えてあげていただけよ!」
私はチェスを楽しんでいただけよ!
「姉貴」
「何よ?」
「ツンデレなところもいいと思います!」
「うん。ツンデレなお姉様かわいい!」
「ツンデレなんかじゃないわよ!」
私たちがそんなやり取りをしている間に、アスモデウスが魔法で豪華なテーブルと椅子を作り出す。
『我輩の自信作だ。たっぷり堪能するといい』
「よしおの自信作だよ!」
『だからよしおと呼ぶのはやめろと……』
アスモデウスがブツブツとアリアに文句を言いながら、手際よくテーブルに皿を並べていく。
作ってすぐに【収納】に仕舞っておいたから、料理はどれも出来立てほやほやの状態で。
食欲をそそる匂いが部屋の中に漂い始める。
ぐうぅぅぅ~……。
私たちのお腹が鳴った。
『まずは我輩の大好物である鮭のおにぎりだ。そして鮭のムニエル。鮭の包み焼き。これは人間時代に東の国で食べた、握った酢飯に魚の刺身を乗せたスシという料理だ。もちろん乗せてあるのはサーモンだ。いろいろなバリエーションを用意したから楽しむがいい。それからこちらは鮭の……』
皿を並べながら、饒舌に料理の紹介をするアスモデウス。
静かに説明を聞きながら料理を見ていたけど、
「鮭大好き好き君ですか、あなたは!」
「鮭以外の料理を作れない呪いでも掛けられてんの? すごくおいしそうだけれども」
我慢できずに二人でツッコミを入れた。
鮭料理しかないじゃない!
『そんなことを言わず、食べてみるがいい。汝らも鮭の魅力がわかるであろう』
「鮭の狂信者がいますよ」
「気をつけなさい、あれは邪教よ」
「お姉様とクララもこっちに来たらいいよ!」
「なん……だと……? アリアが邪教のとりこに……!」
「くッ……! 洗脳されてしまったのね……!」
『フハハハハ。アリアは味見の段階で堕とした』
私たちは一通りふざけた後、おとなしく席について料理を食べ始めた。
匂いだけでわかる。
どれも絶品だわ。
『鮭おにぎりが美味であるな』
「うむ。美味である」
『こら。我輩の口調を真似るでない』
アリア(アスモデウス)は、もちろん鮭おにぎりを堪能し。
「この包み焼きっていうのすごくおいしいですよ! 野菜の旨みや惜しげもなく使った調味料の味が鮭に染み込んでて絶品です!」
クララは鮭の包み焼きにハマったようで。
「このスシって料理も絶品ね。刺身とお米の組み合わせがこんなにもおいしいだなんて。特に炙りチーズサーモンがおいしいわ」
私はいろいろなスシを食べ比べていた。
炙ることによってとろけたチーズがサーモンに絡まった、炙りチーズサーモンってのが特に気に入ったわ。
サーモンが舌の上で崩れて、旨みが口の中に広がっていく。
そこへチーズの濃厚な旨みが押し寄せてくるのよ。
ホントに最高だわ。
次点はオニオンサーモンね。
サーモンがおいしいのはもちろん、玉ねぎのシャキッとした食感とピリッとした辛さがアクセントになってるわ。
この組み合わせは結構クセになるわね。
『ハハハ。鮭料理の腕前なら誰にも負けない自信があるぞ』
「確かに鮭に対する愛だけなら誰にも負けないと思うわ」
「毒が大好きな私と通じるものがありますね」
『フッ。わかってくれたか』
「ええ。わかりましたとも。同志よ」
「なんでわかり合ってるのよ?」
私たちはアスモデウスが作った料理をたっぷり堪能した後、明日の本戦に向けて早めに眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます