第7話 百合ハーレムができた
「いい食べっぷりね」
焼いただけのお肉をガツガツ食べるアリアを眺める。
私たちは盗賊団を殲滅した後、森の中を流れている川のそばまで移動してきた。
体力回復にはちゃんとしたものを食べるのが一番と思ってダンジョン産のフルーツをあげたんだけど、アリアは思ったよりも元気だったようで。
フルーツを食べた後、すぐにお肉を食べだした。
「アリア、しっかり食べて元気になってくださいね」
「うん! あむ!」
もともと体が頑丈な
さっきまで衰弱していたアリアだけど、そう思えないほどに元気になっていた。
たぶん後者の割合が高そうね。
「ふぅ。アリア復活!」
お肉を食べ終わったアリアが宣言する。
「ホントに元気な子ね」
「ぶい!」
一息ついた後、私は本題を切り出した。
「アリアはなんで捕まってたのよ?」
「その前にお姉様のお名前が知りたい!」
「リリスよ。先に言っとくけど、吸血鬼で指名手配されてるリリス」
「全然わからない!」
知らんのかい。
クララは私のこと知ってたから、アリアもだと思ったんだけど……。
「私たちが住んでいたのは森の奥深くのエルフの里なんです」
そんなことを考えていたら、クララがそう教えてくれた。
私は首をかしげながら聞き返す。
帝国内にエルフの里なんてなかったはずだけど……。
「エルフ?」
「はい」
クララが髪の毛をどかすと、その下から尖った耳が出てきた。
「クララはエルフだったのね」
「ですです。近くに山脈がありますよね。あれです」
クララが指さす先には山脈が広がっている。
あの辺は未開拓の地域だったかしら?
「そこに隠れ里的な感じでエルフの里があるのです!」
「へ~、全く知らなかったわ」
「エルフの里の長老たちが幻術をかけているうえに未開拓の森の中にあるので、帝国の人たちは誰も知らないでしょうね」
人族主義の帝国の中にエルフの里があったとはね。
「あれ? その言い方だと、
「そだよ。クララの両親が捨て子だった私を拾ったって言ってた!」
「そういうわけでアリアは私の家族みたいな存在なのです」
なるほど。だからそんなに仲がいいのね。
でも、匂いで居場所がわかるとかはやっぱり変態だと思う。
「で、住んでた場所は分かったけど、肝心の盗賊に捕まった理由は?」
「アリアが盗賊に捕まった理由なんですけど……」
「どうしたのよ? 言い淀んで」
「追放されたんです」
言い淀んでいたクララが、俯きながら呟くように答えた。
さらにアリアも。
「うん。クララが森に狩りに行ってる間に、
「前から長老たちはエルフの里に
「それで隠れ里を追い出されて、森をさまよっていたところ運悪く盗賊とかち合ったってわけね」
私がそう言うと、クララとアリアが暗い顔で頷いた。
「帰る場所がないのね……」
「うん……」
「私もです。里に戻るよりもアリアのそばにいたいですから……」
……追放か。
居場所がないつらさや誰にも頼ることができない苦しみは、私が一番よく知っている。
そんなものはこの三年間で何度も味わってきたわ。
「よし! 決めたわ! 二人とも私についてきなさい!」
私は勢い良く立ち上がってから、そう宣言した。
二人が驚いた顔で私を見上げてきてから。
「いいの……?」
「私的にはうれしいんですけど、その……いいんですか?」
私はフッと笑ってから。
「いい? これは命令よ。最強吸血鬼からのね。拒否権はないわよ」
二人に向かってそう言い放つ。
二人には私の仲間になってもらうわ。
仲間は多いほうが絶対に楽しいからね。
「アリアはお姉様に一生ついていく!」
「私も一生ついていきますよ、姉貴!」
「……私が言うのもなんだけど、すごく食いつきがいいわね。おせっかいかとも思ったんだけど。まっ、改めてよろしくね。私は最強の吸血鬼、リリスよ」
二人の頭を撫でてあげると、二人とも嬉しそうに私に抱き着いてきた。
二人とも賑やかな子だし、これからの生活が楽しくなりそうね。
「……それはそうとして、なんで私のことをお姉様とか姉貴って呼ぶのよ?」
「なんか姉貴の見た目や雰囲気がそう呼ばせるんです!」
「そうそう! お姉様って呼びたくなる魔力があるの!」
なるほどね。
でも、それってさ。
「遠回しに私のことを悪女とか不良のボスっぽいって言ってない?」
「「……」」
「そこで黙られると少し泣きたくなってくるんだけど」
「いや、まあ、それはそうなんですけど」
「おい! そこは認めないでよ!」
「こうやってしっかり接したら、姉貴は自分の信念をしっかりと持ってる優しい人なんだなってことがビシビシ伝わってきますよ」
「うん! お姉様の本当の姿を知ってるのはアリアたちだけって考えると、なんかうれしい!」
二人が屈託のない笑顔で私を見ながら、そう言ってくれた。
気がついたら、私の目からしずくが零れ落ちていた。
「それに、いくら人族主義の帝国で追放されて指名手配されても、姉貴の本当の姿を見て好いてくれる人たちの一人や二人くらいはいるんじゃないですか?」
……確かにそうね。
マリアや師匠といった、私のことをちゃんと見てくれた人がいるわ。
私は涙をぬぐう。
「私に涙は似合わないわ」
「お姉様は悪い笑みしてるほうがカッコよくて素敵!」
「そうですよ!」
「それちょっとディスってるわよね? ……まっ、ありがとね」
吸血鬼になって早三年。
今、初めて、心の底から吸血鬼になって良かったと思えたわ。
「お姉様お姉様!」
「何、アリア?」
「吸血鬼って血を吸うの?」
「そうよ。たまに少量の血を魔物から吸うだけで一ヶ月は余裕で生きていけるわ」
体を構成する栄養素とか絶対に足りてないはずなのに、余裕で生きていけるわ。
吸血鬼の体はどうなってるのかしらね?
吸血鬼歴三年だけど、未だに自分でもわからないことが多いわ。
「じゃあ、私の血を吸って」
そう言って、アリアが首筋を私に近づけてきた。
「何言ってんのよ? わざわざ人から吸う必要はないわよ?」
「だって、血を吸われるのってなんか気持ちよさそう」
アリアが顔を赤らめながら私を見つめてきた。
変態なのはクララだけって思ってたけど、この子もだいぶ変態なのかもしれない。
「今のでさっきまでのいい雰囲気は全部消し飛んだわよ。まあいいけど……」
「ふへへ。お姉様に襲われる」
ホントになんでこんなに喜んでるのよ? この子。
「いくわよ」
差し出された首筋に、そっと八重歯を突き立てる。
「んっ」
アリアの甘い香りが鼻孔をくすぐる。
チューチューという音を立てながらゆっくり血を吸うと、甘美な味が口の中に広がる。
人の血を吸うのは初めてだけど、こんなにも甘くておいしいのね。
これは結構病みつきになっちゃうかも。
「んっ、あんっ……気持ちいい。んっ……。お姉様、もっと、もっとお願い……」
仕方ないわね。
もっと気持ちよくしてあげるわ。
「んっ、お姉様、そこは……。あっ、最高……」
十数分後。
「ごちそうさま。アリアの血おいしかったわよ」
「ん、気持ちよかった。お姉様エロくて素敵」
「ほぁ~。アリアとリリスお姉様の絡み合い……! 見てるだけで最高でした! 眼福」
鼻血を出しながらグッドポーズしてきたクララが、どさりと地面に倒れた。
「あー! クララが死んじゃった!」
「生きてますよ! 勝手に殺さないでください!」
「あ、生き返った!」
私はクララの介抱をしながら確信した。
実家を追放されてから早三年。
気がついたら百合ハーレムができていた。
◇◇◇◇
最強吸血鬼に愉快な仲間ができた少し後のこと。
帝都で、頭を切り飛ばされた閃光のハザールの死体が見つかって、大きな騒ぎとなった。
だが、結局犯人が見つかることはなかった。
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