さえずり街の瑠璃亭

夏宮 蛍

第1話 出会い

 困った。

 ひっじょーに困っている。

 今、鈴村すずむらりんはある店のカウンター席に突っ伏している。

 今日は学校終わりに髪をほどいたので、ゆるふわパーマのかかった茶髪ロングヘアが、カウンター全体に広がってホラー映画の様に少し怖い光景だ。

 頭のてっぺんには白い体にチャーミングな赤いほっぺのオカメインコを乗せている。

 凛は女子高校生の平均よりも少しだけ背が高く、細身のモデル体系だ。

 高校の可愛いブレザー制服にチェックのミニスカート、頭に可愛い動物を乗せていたら、結構いい絵になるはず。

 だが、可愛いオカメインコは、さっきから奇声を上げて凛の顔面に尾羽を下ろし、後頭部を激しく突きまくっていた。


 オカメインコってもっと可愛いもんじゃなかったっけ?


 かわいく歌う姿をよく動画で見るが、本性は結構荒いのかもしれない。現実逃避したい凛は、視界にちらほら見えるオカメインコの尾羽に触れる。


「ピギャー!!」


 火に油を注いでしまったのか、より強くつつかれた。


「痛いっ!!ごめん、ごめんてっば!」

「ピーコが嫌がることをするからだ。で、君はどうするんだ?」


 ピーコと呼ばれたオカメインコは、気が済んだのか「ヘッヘッ!!」と凛を威嚇してからご主人様の方に飛んでいく。


「えーっと、どうするって、何を?」


 解っていながら、勘違いであってほしいという意味を込めて、聞き返す。


「何を?君が壊した、この皿を、どう弁償するかと聞いているんだ」


 彼の手には見事に真っ二つに割れた、ヨーロッパ風おしゃれなガーデンの風景が描かれた、いかにも高級そうな皿が握られている。


「あははは……ですよねぇ」


 頭を大げさにかいてごまかす。


「ホープだって痛かったんだ。皿の弁償代と、ホープの病院代も上乗せさせてもらう」

「ホー」


 凛の態度にいらだつ彼の背後にいる大き目のミミズクが、体を低くし、獲物を狙う体制で凛を見ていた。

 凛がミミズクをドアで跳ね飛ばしてから、ずっと威嚇されっぱなしだ。

 猛禽類の本気って怖い。

 フクロウに狙われたネズミの気持ちを疑似体験しながら、恐る恐る聞く。


「え、マジで?ちなみに、おいくらですかぁ……?」

「ざっと見積もって、六百万」

「ろ、六百万んんんー!?」


 今をトキメク女子高校生には法外な数字を請求され、凛の人生はここから奇妙な方へ走り始めたのだった。

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