その3 コルボーへ向かう
<ここまでのあらすじ>
『神々の扉』を用いた旅に備える一行。そこに、セネカの支援者であるエデルガルトの使者リーゼロッテが依頼のため訪れる。
依頼を請けることにした一行は、エデルガルトの屋敷を訪れた。エデルガルトはメリアの少年ファグスとソレイユの冒険者リンダを紹介する。
二人は小さな街コルボーにて不可解な冒険者遭難事件に巻き込まれ、エデルガルトに保護を求めてきたのだ。
<簡易キャラ紹介>
【アルマ】(人間/女/16歳):シーン神官。見た目に似合わずズケズケとした物言いをする。
【キュオ】(リカント/女/18歳):ドルイドの魔法戦士。余計な事をしゃべっては耳に煮干しを突っ込まれそうになる。
【セネカ】(グラスランナー/男/26歳):軽戦士。何よりも自由を愛する
【ラゼル】(ナイトメア/男/18歳):陽気でお気楽な操霊術士。妹分のアルマには弱い。
【ビハール】(タビット/男/18歳):西の大陸から漂流してきた神学者。今回は不在。
【アイ】(神族/女/0歳):遺跡『神々の扉』に生み出された小さな女の子。実は二の剣の女神アイリーンの分体だが、皆の努力の甲斐あって人族の神になりつつある。今回は不在。
【ゴーレム8号】(魔法生物/男?/0歳):ラゼルの使役するフラーヴィゴーレム。なんかゆるキャラっぽい。愛称は『はっちゃん』。
【カラシン】(人間/男/44歳):冒険者ギルド支部“静かなる巨兵亭”支部長。一行への扱いはぞんざい。
【エデルガルト・シュヴァルツシルト】(アルヴ/女/35歳):クーダスの富豪でセネカの支援者。セネカとはオトナの関係らしい。
【リーゼロッテ・シュヴァルツ】(ルーンフォーク/女/稼働10年):エデルガルトに仕えるメイドの一人。
【ファグス・ナヴァール】(メリア長命種/男/16歳):ナヴァール商会を営むミシエール、ルイザ夫妻に我が子同然に育てられた、冒険者に憧れる少年。
【オトゥ・スコップス】(ドワーフ/男/57歳):“白きカラス亭”の前支部長。店に入り浸るファグスを可愛がっていた。ユーリスによれば退職したというが……
【リンダ・ボイル】(ソレイユ/女/20歳):冒険者で、ファグスとは顔見知り。冒険者遭難事件を追っている。
【トム・ユーリス】(人間/男/28歳):“白きカラス亭”の現支部長。リンダに事件の不審点を追及されると、襲いかかってきた。
ユーリスの襲撃から逃れたファグスとリンダは、クーダスのエデルガルトの屋敷に保護された。一方、ヘリオポリスに向かったファグスの養母ルイザも、無事に到着したと通話のピアスで伝えてきた。
「それで私と、ルイザさんでそれぞれクーダス、ヘリオポリスの関係各所に働きかけてみたんだけど、芳しい反応はなくてね」
「ふうむ」
セネカが腕組みをすると、エデルガルトは続けた。
「コルボーにも偵察を仕掛けてみたんだけど、見かけは平穏そのもの。『行方不明になったナヴァール一家はオーガに成り代わられていた』、ということになっていたわ」
つまり、コルボーに残って神殿に通報に向かったファグスの養父ミシエールもまた、消息を絶ったのだ。
「それじゃ、ヘリオス法王国は動いていないんだ?」
エデルガルトはキュオの問いに答えた。
「ええ。法王国としてはギギナールの勇者王が疑わしいけれど、表沙汰にはしたくないようね」
ユーリス支部長は通行人やファグスを操った際、『偉大なる指導者エルヴィン』と発言した。この近くでエルヴィンと言えば、ギギナール王国の勇者王エルヴィン・クドリチュカだが。
「冒険者ギルドは当事者なんだけど……国際紛争に発展するかもってことで及び腰というわけ。スコップスからユーリスへの事業譲渡届自体は真筆だったみたい」
「どう見てもおかしい話よね。なるほど、それはヴァグランツ向きの話と」
アルマは腕組みをした。
「国と国との争いに関わりたくないというわけか」
冒険者ギルドは国際組織であるゆえに、国家間、少なくとも人族国家間の争いに介入するわけにはいかない。
「でも操る術持ってたんでしょ?」
「通行人を怪しいアイテムで操るなんて大抵の街で違法行為になるような真似をしたその支部長、何のお咎めも無いのならかなり問題だねえ」
アルマとキュオが口々に言った。
「結局、リンダの追求の結果、ダルガッツ一党が捜索しようとしていた行方不明者たちというのは存在するということでいいのか?」
「ああ。そいつらが行方不明なのまでは本当だった」
セネカの問いに、リンダはうなずいた。
「死んだかどうかは不明、と」
「つまり被害者は『消息を絶った冒険者たち』『それを捜索するダルガッツ一党』。確認が取れないのは『旧支部長オトゥ・スコップス』と『ナヴァール商会のミシエール』でいいか」
「ええ。ヘリオス法王国としては……」
エデルガルトはため息をついた。
「正直、プロミネンス地域の辺りがどうなってもそれほど困らないんでしょう。今のところ、法王国自体に目立った支障はないしね」
「化外の地ってこと?」
キュオが顔を引きつらせた。
「アンデッドが"輝く壁"を回り込んできたら困るから兵を置いているだけでね」
"輝く壁"はティダン神の奇蹟によってヘリオス法王国の西に作られた巨大な障壁で、アンデッドの侵攻を阻んでいる。
「一度見に行ってみたいとは思ってるんだけどなー、"輝く壁"」
ラゼルが暢気な事を言った。
「なんか夜でも光ってて近辺の村では寝苦しいとか聞くけどねー」
「シュヴード王国にしても、自国のことで精いっぱい。ギギナール王国は……あの王様は無茶なことはやるにしても、筋を通す人よ」
「今回みたいなセコい真似はしそうにない、か」
「それで……報酬の話はしてなかったわね。一人頭4000Gでどうかしら?」
「いいだろう」
「うん、そんなもんだと思う。戦利品を好きにしていいならって条件がつくけど」
キュオがしっかり釘を刺した。
「さて、何はともあれコルボーに行かないとね」
キュオが意味ありげに視線を向けると、エデルガルトはうなずいた。
「ええ。ライダーギルドに馬を手配しているわ」
「ファグスとリンダも同行するということでいいのか?」
セネカが問うと、二人は答えた。
「行きたいけど……いいの?」
「あたしも、あんにゃろどもには一泡吹かせてやりたいな」
「ああ。だが、二人の顔はコルボーでは割れてる」
「変装する?」
キュオは楽しげに訊ねた。
「
「隊商とか乗合馬車の護衛とか名目がつけば、武装してる私らでも違和感ないよね」
「ついでにシーン神官ならあっちもうかつには手を出せないんじゃないかな、きっと、たぶん、そうね」
セネカたちの提案にエデルガルトはうなずき、紙にペンを走らせた。
「紹介状を書いたわ。リーゼロッテ。デュバル氏の店に彼らを案内して」
「かしこまりました」
「エデル。エージェントを通じた報告は必要か? 特になければ、俺たちの生死を以て判断してほしいが」
「あら。あなたが帰ってこないとでも?」エデルガルトはいたずらっぽく片目を閉じた。
「それもそうだったな。楽しみに待っててくれ」
「なるほど……。つまり、私は皆さんに護衛される体でコルボーに向かえばよろしいのですね」
デュバル氏は薬種屋で、ナヴァール一家とも面識があった。エデルガルトからの紹介状を渡すと、彼は協力を快諾してくれた。
「まあ実際に護衛は務めるつもりだけどね」
「ああ。約束通り最後まで護衛するつもりだ」
「承知しました。よろしくお願いします」
「いいよー、護衛代もいらない。道中の食費と運賃を持ってくれるだけでいいからね」
どさくさに紛れてちゃっかりタダ飯を要求するキュオ。
「はっはっは、抜け目のないお嬢さんだ。いいですとも」
一行の馬車はクーダスからコルボーに向かう脇街道を進んでいった。
「みなさん、本日はこの辺で野営しましょうか」
太陽が大きく西に傾いてきたころ、デュバルが言った。
「はいはい」
『がう(はーい)』
キュオは『屋外なので』という理由で既に獣変貌している。どういう理由だ?
「ふぁあ……ねみぃ」
『ああ、ソレイユは日没後はしんどいんだったね。先に寝てていいよー』
ソレイユは日中元気な代わりに夜は弱い。
「前回と同じようにラゼルとアルマ、俺とキュオで不寝番を立てる。いいか?」
「はぁーい」
『じゃ私は仮眠ー』
夕食を終えると、キュオとセネカ、それにリンダ、デュバルは寝入った。
ラゼルがふと気がつくと、ファグスが興味津々という視線で見てきた。メリアは睡眠を必要としない。別に睡眠してもいいのだが、他の種族のように任意のタイミングで睡眠による体力・魔力の回復ができないというデメリットもある。
「どーした?」
「冒険の話、聞きたいな!」
「えぇ~……?」
アルマが困惑した声を上げた。
「んー、冒険の話なァ」
「私らって、あんまり冒険してないよね……」※
アルマはシーン神官としての修行を積んで強くなった。ラゼルは、と言えば妹分のアルマが心配で魔術を修めた。その点セネカは経験豊富そうだが、わりとダーティなこともしていたらしいので言いにくいかもしれない。となると、キュオが一番適任だろうか?
※メタな事を言えば初期作成ではなく高レベルスタートのため
「そうだなぁ、アイちゃんにまつわる話は聞いてる?」
クーダスの住民なら、今やアイちゃんの事を知らない、と言う人は珍しいだろう。
「んー……あんまり」
思えば、ラゼルたちがアイちゃんと知り合って色々やっている頃に、ファグスたちはエデルガルトの屋敷に避難していたのだ。それどころではなかったのだろう。
「んじゃまあ、(教育によくない部分は除いて)アイちゃんの話をしてあげようか」
あたりはすっかり闇が支配し、そろそろ8号を作り直して交替するか……という時に茂みがガサガサと鳴る。
「え、ちょっと、何」
焚き火の向こう、茂みからぬっと黒い影が出る。蛮族の群れだ。
「やっべ!」
『おきろリカント』
『夢にまで出るな!』
キュオは夢の中でゴリラに殴られて目を覚ました。
「……夜襲か?」
『はいはいまったく寝覚め悪いなちくしょう』
跳ね起きたセネカとキュオに、ラゼルは状況を伝える。
「ボルグの
「ゴブリンのシャーマンとケパラウラよ!」
「ファグス、デュバルさんと一緒に馬車に入ってろ」
「うん。気をつけて!」
「あー、ねみぃ」
ファグスと入れ替わりに、眠たげなリンダが馬車から出てきた。
「キュオ、リンダ。8号と前衛を止めてくれ。状況を見てケパとゴブの注意を惹く」
「おーう、行くぜ!」
リンダはボルグを軽々と投げた上に踏みつける。すかさずキュオが追撃を加えた。
「これ私どうしよう……」
「アルマ、暗視をくれ。後ろの奴らは焚き火の明かりでは不十分だ」
「わかったわ!」
「【インテンス・コントロール】!行け、8号!」
ラゼルに強化されたゴーレム8号が残りのボルグを足止めにかかると、セネカはその間をすり抜けてゴブリンにナイフを投げ、ケパラウラを抑えた。
「犬女!!」
「おんなぁ!」
ボルグたちはそれぞれキュオ、リンダ、8号に襲いかかるが、全てかわされてしまった。
「愚図ども!」
ケパラウラが舌打ちをする。どうやらこいつがリーダー格のようだ。
「【フレイムアロー】!」
ゴブリンシャーマンが放った炎の矢は、セネカの鼻先で
「貴様!」
ケパラウラは≪マルチアクション≫で【ブラスト】と通常攻撃の二段構えでセネカを襲うが、こちらもかわされて無効化された。
ー全員ノーダメとか、これはひどいー
『んじゃ、とどめさそ!』
キュオは無造作にボルグの一匹目にとどめを刺す。
「つーかキャッツアイとマッスルベアー寝ぼけて忘れてた!」
「ぐあっ!」
リンダに投げて踏まれた三匹目は、ラゼルの収束【スパーク】でとどめとなった。さらに8号が二匹目を殴りつけたところにアルマの【フォース】が突き刺さり、万事休す。
「ぎぎっ!」
ケパラウラはセネカの動きに翻弄されて有効打を出せず。
「ちくしょう!くらえええ!!」
頭に血の上ったらしいゴブリンシャーマンがセネカと前衛組に向かって【フレイムアロー】を放つ。
「当たり所が悪かったか」
「むう……わりと痛かった。でも次はないぞ!」
ボルグが全滅してフリーハンドになったキュオは、お返しとばかりにシャーマンを殴りつける。
「ぎゃーっ」
さらにその視界がぐるりと回転する。キュオに続いてリンダが投げたのだ。
「げ」
リンダは足を滑らせたのか、踏みつけを外してしまった。だが、シャーマンにそれを嘲笑う暇はない。すぐさま8号が殴りつけてとどめとなる。
残ったのは動きを封じられたケパラウラ。もはや助かる道はなかった。
「みんな、すげー」
目をキラキラさせるファグス。
「とーぜんだろ!……あー、もう限界だ。寝る」
『さーて、寝直すか』
「後番どーすんだよ」
寝る気満々のキュオを、ラゼルが引き留める。リンダは仕方ないとしても、セネカだけに後番を押しつけるわけにはいかない。
『あーそっか、私不寝番だった』
「うわこいつ素で忘れてやがった!」
やむなく、魔香草をセネカに使ってもらうキュオであった。
(つづく)
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