本編

第1話 アイから始まる物語(GM:パテットPL)

その1 アイから始まる物語

……せやせや、こんなお伽噺を知っとるか?昔々、神様がふつうに地上にいた時代の話や。


その頃の人は猿も同然、今よりずっとアホやった。


神様は自分達の知恵を授けるべく、人に教えを説いて回ったんやけど、なんせ世界は広い。なかなかうまくいかん。


そこで……せや、せやったら自分を増やせばええねんとわけのわからんことを考えた神様がおった。


神様は神殿をつくり、力いっぱいブン投げた。それはどこか遠くへ飛んでいき、そこでそっくりな神様が生えてきた……教えは無事広まりました、どっとはらえ。


……な、アホらしいやろ?





「……まさか、な」


 グラスランナーの男性、セネカ・ダブネカは呟いた。

 セネカの周辺にいる仲間は、シーン神官の人間の女性、アルマ。ドルイドの魔法戦士であるリカントの女性、キュオ。そしてフラーヴィゴーレムを従えたナイトメアの男性、ラゼルであった。

 小川の向こう側。彼らの目の前にある遺跡は、まるで大地にめり込んでいる。


「きゃー」


「ん?」


 セネカは自身の目を疑った。小さな女の子が、蛮族に追われて逃げている。


「やべーぞパイセン。あの子襲われてる」


『いきなり囲まれてるし!強引にでも割り込まないとマズいよ!』


 キュオが吠えたが、あいにく獣変貌しているのでリカント語を解するアルマにしか分からなかった。


 女の子の境遇は自明の見りゃ分かる事だったので、アルマは蛮族の方に注意を向けた。


「3体ともアラクルーデルね」


 アラクルーデルは飛行する鳥のような蛮族だ。セネカがラゼルに声を掛ける。


「ラゼル、俺が2体持つ。1体はゴーレムに持たせられないか?」


「うん。オレの魔法は【アース・シールド】でいいかな」


「私は【フィールド・プロテクション】やるわ」


 アルマとラゼルが魔法を詠唱すると、セネカとフラーヴィゴーレムがそれぞれ地を蹴った。





「うわ、やっす!」

 水色髪のナイトメアの若者、ラゼルは正直すぎる感想を漏らした。他の面々も、同様の感想を抱いたようだ。


 ここはランドール地方西部の小国、シュヴード王国。その都クーダスにある冒険者ギルド支部『静かなる巨兵亭』だ。

 シュヴードという国は、はっきり言って辺境だ。しかし辺境とはすなわち最前線でもある。北のファンヴェイレン不滅帝国、南の蛮族諸侯領群に挟まれたこの国は激戦地中の激戦地なのだ。

 ゆえに、他の地では中堅といっていい冒険者もここでは格下の存在であり、いまいち楽しくなさげな依頼を受けざるを得なかった。


 その楽しくなさそうな依頼というのが、土木工事の警備兼手伝いだった。

 プリエヴィトザ山脈から流れ出したヴィトス河はクーダスの西から南へ流れ、南では蛮族諸侯領との境界線となっている。従ってヴィトス河の堤防は南への防壁を兼ねているのだが、先日の雨でヴィトス河が暴れ、崩れた堤防を修復する必要が生じた。敵の目前なので、ある程度蛮族に対応できる人材が求められるわけだ。

 報酬は驚きの500G。駆け出しの冒険者並みだ。


「確かに安いが、食費や現地へ移動する馬車代なんかはシュヴード王国…ていうかその請負をやってるウチが持つから、そんなもんだ」

 『静かなる巨兵亭』の支部長であるカラシンは反応を予想していたのか、事も無げに言った。

 

「あと仕事中に出くわした蛮族の戦利品とかも当然お前らが取って良い。更に言うとあの辺りは未踏地域も多いぞ、先の事を考えて色々調べとくんだな」


「手頃なところに都合良く遺跡があるかなぁ」


 ラゼルは肩をすくめた。


「で……だ。たまたま居合わせただけのお前らがいきなり仕事してもアレだ。ついでだから自己紹介しとけ。そうだなキュオ、お前から」


「あーうん、いきなりだね」


 カラシンに名前を呼ばれた赤褐色の髪のリカントの女性は頬をかいた。


「いくらなんでもぞんざいが過ぎない?」


 ラゼルの隣に座っている銀髪の人間の女性ーアルマは不快感を露わにした。


「この街、ここしか冒険者ギルドの支部がないからなァ……殿様商売なワケよ」


 ラゼルはアルマをなだめる。


「こんな依頼じゃ収支も赤字よ。裏方の苦労も労るべきだわ」


「まー冒険者なんてこんなもんだよ。ましてここはツワモノとキワモノが集まるシュヴード王国だし。んで、自己紹介だったね。私はキューオン・ハイランド。見ての通りリカントだよ」


 キュオは森羅魔法を扱うドルイドの魔法戦士だった。得物はバトルメイジスタッフである。


「受益者のシンボルがあれば強力なシンボリックロアが使えるから、欲しい人は言ってね。すぐには作れないけど。あと実費いただきます」


「んじゃお願い」


「払おう」


「あんまりお金ないけどね……」


 周囲の面々があっさりと金を払おうとすると、キュオは目を丸くした。


「あ、早速注文?えーと一人当たり一時間かかるから流石に今すぐは無理かな…カラシンさん、その仕事いつから?」


「早いほどいいがどうしてもってわけでもないな。明日からにするか?」


「店主、事前準備が必要だとご丁寧に忠告したのはアンタだろう。流石に準備してから向かうだろうさ」


 四人目の一番小柄な影、銀髪のグラスランナーの青年は冒険者ではなかった。


「セネカ・ダブネカだ。セネカでいい。で、俺はアンタらと違って冒険者ではない。好きで放浪者ヴァグランツをやってる……まあ、冒険者の助っ人みたいなものだと思ってくれていい」


「部外者ではあるが……俺としては協力してくれるなら冒険者と同じように扱うさ」


 そう言うと、カラシンはラゼルとアルマの方を向いた。


「アルマ、どーする?」


「それじゃ私から。アルマ・A・ウィルソン。シーン神殿の神官よ」


 ラゼルとアルマ、この二人はクーダスのシーン神殿が運営する孤児院でシスター・アシュレイに育てられた孤児であった。


「冒険者をやってるのは、育ててくれたシーン神殿を支えるためにお金を稼いで、徳を高めるためよ」


 ラゼルはうなずくと続いて口を開いた。


「オレはラゼル・トルード。生まれてすぐシーン神殿の前に捨てられてたんで、まあ以下同文ってとこ」


 ラゼルが肩越しに後ろを見ると、ピンク色のゴーレムがひょこひょこ、と両腕を振った。


「技能はコンジャラーとセージ。フラーヴィゴーレムのゴーレム8号を操りながら支援魔法を飛ばす感じだな」


「ま、こんなとこかね。では明日、早朝に馬車が出るから宜しくな」


「りょーかい。それじゃ……あ、そういえば」


 カラシンにうなずくと、ラゼルはセネカの方を向いた。


「なんだ」


「あんた、何歳かな。グラランは分かりづらいや」


「26ぐらいだ」


「ありゃ、サーセンパイセン。オレ、18です」


 なんともふざけた反応に見えるが、表情を見るに本人は本当に申し訳ないと思っている様子だ。


「気にするな、慣れてる」


「ちなみに私は16よ16」


「私は今日の間に受益者のシンボルを作っておくよ。あと私18歳ね」


「ああ、頼む。俺は現場に関する情報と食料を調達しておこう」


 セネカが腰を上げると、ラゼルも席を立った。


「んじゃ、図書館で地理とか見とくかな」


「うーん、私はどうしようかな」


「やることが無ければついてくるといい」


 セネカはアルマに素っ気なく言うと、歩き出した。





 ラゼルはライフォス神殿付属の図書館で現地周辺の地理を調べた。

 目的地となるヴィトス河中流域は、プリエヴィドザ山脈から出てきた河がクーダス南方の平原に出てくるあたりとなる。つまり遮るものが何もなく、細かい支流や沼が入り乱れる、非常に複雑で水っぽい地域ということがわかった。


「んー……こういう場所だと警備も分散せざるを得ない……ってことは味方の援護はアテにできなさそうだな」


 生息する生き物は、と言えばワニなどの水生生物はもちろん、そのような場所でも自由に活動できる生き物、すなわち鳥などの飛行生物も居そうだとわかった。





 一方、セネカとアルマは『静かなる巨兵亭』にほど近い遺跡ギルドに来ていた。

 遺跡ギルド、というのはその実質は盗賊ギルドであるというのは公然の秘密である。

 応対したのは、いかにも、な面相の男だった。


「おう、あんちゃん何の用や?」


「南部の地理情報、それに加えて、国境・交易路状況や変わりネタがないかと思ってな」


「せやなあ、とりあえず100Gくらいもらおか?ウチでタダで情報が貰えるなんて甘い事ゆうたらアカンで?」


「もちろんだ。そっちも誠意見せてもらわないと、噂は外にも簡単に広がるからな」


 一時期は裏社会で生きていたこともあるセネカにとっては、裏社会の住人との取引など手慣れたものだ。


「まいど。さて国境の状況ときたか……この国は北をアンデッドの帝国、南を蛮族どもの領地に挟まれとるのは知っとるな?」


「ああ。隣接する二つの人族国家もその理由でこの国を潰してないのは、一般に知られている事だろう」


「昔からずっと小競り合い続きで、たまに大戦があるって感じや、それだけドンパチやってもあんまり国境線が動いとらん。東側の隣国、この二国が何かと助けてくれるからやな」


「そうか。名のある蛮族が国境を侵して荒らしてるといった事は、今のところ無さそうだな」


「特に東の国境の大半を接するギギナール王国は蛮族討伐に熱心やから、援軍を出すことも多いな。まあ代わりにいらんちょっかいも受けとるけどな」


「ヴィトス河の工事も人手が足りないらしいな」


「まあシュヴード王国自体があんまり人口多ないからなあ。特にここいらへんは戦が多いから、人手は誰でもええっちゅうわけやないしな」


 王都クーダス自体、人口が5000人に届かない。現在のラクシアで5000人級の街と言えばそれなりに大きい街ではあるが……


「他に変わったネタは無いか?」


「まあぶっちゃけ通り一遍の情報やなあ……せやから100Gなんやけどな。……せやせや、こんなお伽噺を知っとるか?」


 そう言って遺跡ギルドの男が話したのは、冒頭の奇妙なおとぎ話だった。




「こんなネタ、神殿とかは絶対話さんな……あまりにムチャクチャやし」


「なんて神様だ?」


「さあなあ、神様の名前までは伝わっとらんのや。既に滅んだ神か、もしかしたら……遠い遠いところの知られてない神様かも知れんなあ」


 遺跡ギルドの男は笑いながら言った。完全に与太話の類と認識しているようだった。


「なんというか突拍子がなさすぎるし、増えるなんて魔剣の類でしょそれ」


「ムチャクチャや、て言うてるやろ?姉ちゃん」


 セネカも与太話であろうとは思ったが、一応他の面々にも伝えることにした。





 翌朝早朝、馬車に乗り込み出発した一行は、ヴィトス河の本流から少し離れた支流の近くで下ろされた。


「んー、工事担当から外れて良かったね。くじをひいた私に感謝しなさい」


 キュオが胸を張った。※キュオPL=パテットPL=今回のGMである。


「ん?オレたちは警備のほうか」


「まあ全員が全員土木工事ばっかりってわけじゃないってことだね。そのかわり私ら他の人からちょっと離れた場所にいるから、危ないっちゃ危ない。今からでも代わって貰う?」


「怖じて交替する必要も無いだろう」


「ところで、私の言葉わかるひとどれだけいたっけ?」


「リカント語の会話?できるわよ」


「あー、オレはダメだ」


「俺は分からん」


 キュオがみるみる獣の顔に変わっていく。彼女は頭部のみならず全身が毛深くなる性質のようだった。


『私はこの姿の方が強いから、屋外ではほぼこれで通してる。不便なら戻るけど、いいかな』


「まァアルマがわかるならいいんじゃね?こっちから何か言う分には通じるんだし」


「翻訳分のラグがあることはお忘れなきよう」


 警備の任務には周囲の調査も含まれており……話は冒頭に戻る。





 ラゼルのフラーヴィゴーレム、『ゴーレム8号』はゆるキャラのような外見に似合わず機敏に動いた。

 浅い支流をバシャバシャと水しぶきを上げながら駆け抜け、アラクルーデルを両腕で殴りつける。


 一方、セネカは二体目に挑発攻撃でナイフを投擲し、三体目の前に立ちはだかった。


『んじゃ数を減らしに行くよ!』


 キュオが魔力を込めた一撃で杖を叩きつけ、一体目は堕ちた。


 二体目と三体目は共にセネカに襲いかかるも、嘴の攻撃と槍の追撃(2体いるので、すなわち4回攻撃)をセネカは軽々と回避する。




 アルマは【セイクリッド・ウェポン】、ラゼルは【ファイア・ウェポン】で支援。


 ゴーレム8号は二体目を殴ったものの、今回の攻撃の威力は振るわず。セネカは三体目に挑発攻撃し、キュオは二体目に重傷を負わせるも倒すには至らず。


 その間に女の子は後衛の方に逃げることに成功した。


 セネカは三体目の攻撃を今回も軽々と避け、キュオは二体目の攻撃を一発受けたが防護魔法の効果もあってかすり傷で済んだ。




 「二体目をキュオにやらせるのは勿体ないよな……収束で【スパーク】だ」


 ラゼルが二体目を黒焦げに。ゴーレム8号は三体目への左腕の攻撃を外してしまい、セネカもまさかの攻撃ミスを犯してしまうが、キュオが魔力撃で帳尻を合わせたのだった。




(つづく)

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