第48話 でもね、とっても素敵なことなんだよ!

「魔物に連れ去られた私たちの仲間を助けてほしいの‼」


 ルナが連れてきたマスコット――空間の精霊エレメンタルが言った。

 対する俺の答えは決まっている。


「え、嫌だけど」

「どうして⁉」

「え、いや、見ず知らずの他人だし、見返りもなしに危険な場所に首を突っ込むとか狂気の沙汰じゃん」

「で、でも――」

「それに、だ。もし俺がここでうなずいたとして、あんたは俺の言葉を信じれるのか? 最後の最後に裏切るんじゃないかと警戒せずにいられるのか?」

「そ、それは」

「そういう相手と一緒に行動するなら、俺だって相応の警戒をせざるを得ない。お互い息苦しいだけだ。そうだろ?」

「……っ」


 精霊エレメンタルは、きっと口を結んだ。

 そのあと口を開いては言葉を紡ごうとしたが、すぐに力なく首を振り、うなだれた。


 できるだけ穏便に済ませたかったんだけどな。

 遠回しな言い方で伝わらないなら、真正面から現実をたたきつけるしかない。

 仕方のないことなんだ。


「お互いに苦しいだけじゃ、ないと思うよ」

「……ルナ?」

「確かに、マスターの言ってることも正しいと思う。信じた仲間が明日は敵になっている。そんなこと、戦いの中に身を置くものとしては至極当然の話。……でもね?」


 ルナは両ほほを人差し指で上に押し上げると、白い歯を見せて微笑みかけた。


「困っているときに助け合えるのって、とっても素敵なことなんだよ!」


 ……ふと、思い出した。

 俺がまだブラック会社に勤めていたころ、手を差し伸べてもらったとき、すごくうれしかったこと。


「ねえマスター。マスターが私を塔から連れ出してくれた時、私がどれだけうれしかったか知ってる?」

「……」


 ……あの時、俺は別に、合理だとかなんだとかを考えていなかった。

 ただ、ルナの境遇に勝手に同情して、気ままに手を差し伸べただけ。


 だったら、この精霊エレメンタルとの違いは何だろう。

 どうして俺は嫌だなって思ったんだろう。


 ……まあ、理由はわかるか。


 俺、多分この精霊エレメンタルが好きじゃない。

 高飛車だし、人のこと愚物って見下してくるし、どこか少しだけ課長の影が重なるんだ。


 でも、気に食わないって理由だけで、手を伸ばせば届く手を取らないのは、課長と同じなんじゃないだろうか……。


 俺は、どうすればいいんだろう。

 いや、どうしたいんだろう。


 自分のことなのに、よくわからない。


「ぷにきゅあってね、困っている人がいたら絶対に駆けつけてくれるの! もしもどれだけ傷ついても、何度でも立ち上がるの。それでね、それでね?」


 ルナはわっと手を広げた。


「最後にはみーんな笑顔になるの! それって、とっても素敵なことだと思わない⁉」


 最後には、みんな笑顔に……か。


 俺が取るべき行動は、いや、取りたい行動は。

 もう、決まったな。


「悪かった」

「……へ?」

「正直、俺は妖精フェアリー精霊エレメンタルの違いもあんまり分かってない。でも、精霊エレメンタルからすれば屈辱だったってのはわかった。だから、ひどいこと言って、ごめん」

「わ、わかれば――」


 精霊エレメンタルは腕を組んでぷいと顔をそらして、言葉を詰まらせた。


「――私の方こそ、ごめんなさい。感情的になって、あなたを見下すような発言をしてしまったわ」


 だから、ごめんなさい。

 そう言って、精霊エレメンタルは頭を下げた。


「じゃあ、仲直りってことで」

「ええ」

「俺は灰咲はいざき一真かずま

「アイ。精霊エレメンタルのアイよ」


 なんだろう。

 少し、心が軽くなった気がする。

 わだかまりが、ほどけていくような感じだ。


「アイ。もう少し詳しい話を聞かせてくれるか?」

「……助けてくれるの?」

「おいおい、何のために仲直りしたと思ってんだよ」


 言わせんなよな。


「……ありがとう。灰咲。でも、どこから話しましょうか?」

「できれば最初から」

「……そうね。じゃあ、少し、昔話をしましょうか」


 私たち精霊エレメンタルが生まれた理由と、生きる目的を。

 アイはそう前置きして物語を紡ぎ始めた。

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