第37話 お供のレベルが上がった

「てんてれんてってってってー!

 聞いて! 私、レベルアップしたかも!!」


 ダンジョン攻略2日目、第7層。

 牛と小悪魔を足して2で割ったような魔物を倒した時のことだった。


 茜が唐突にファンファーレを口で発し、レベルアップしたかもと口にした。


 かもってなんだよ。


「えっとねー、なんかぴろりーんって音がして、ぎゅんぎゅーんってなってずばばばばーん! って感じだよ!」

「やべえ言語理解が機能しない」

「日本語だよ!?」


 日本語だったか? 今の。

 ぴろりーんはあれかな。

 レベルアップしたときに脳内に響く電子音っぽい音のことかな。後半に至っては何言ってるかわからん。

 魔物を倒しましたっていうメッセージのことか?


「レベルアップってことはさ! ステータスが上がってるってことだよね!? 確認してみていい!?」

「いいけど、ショック受けるなよ?」

「うん! ステータス!!」


 この恥じらいの無さは本気で凄いと思う。

 俺ならステータスなんて異世界に転生しても口にできないかもしれない。それくらい恥ずかしいって思ってる。


「うーん……」

「どうした?」

「前のステータスがいくつだったか忘れちゃった!」

「……なるほど」


 言われてみれば確かに。

 考えてみれば本能だけで生きていると言っても過言ではない茜だ。レベルアップ前の数値を覚えている方がおかしいのかもしれない。


「うぅ……、今度はしっかりメモに残しておくよ。えーと、メモメモ……」


 茜が衣服をぽんぽんと叩く。

 だが彼女がメモ帳などをこのダンジョンに持ち込むだろうか。否、持ち込まない。


 必然、メモを取れる相手の方を見る。

 そして、俺も彼女も気づいた。

 ナターシャもまた、レベルが上がっているはずだと。


「じぃぃぃぃ」

『な、何よ!』

「そう言えばさ! ナターシャちゃんも一緒にダンジョンに潜ってるんだからナターシャちゃんもレベルが上がってるはずだよね!?」


 多分伝わってないと思われ……、いや、伝わってるか? 前半で茜が口にしていたのは日本語というより擬音語。言語の壁を乗り越えている可能性は大いにあり得る。


 そして何より、茜も言ったように、ここまでナターシャと茜はほぼ同じパーティで行動してきた。

 モンスターを倒すのが俺の役割である以上、ほぼ同じタイミングでレベルが上がっていると考えていいはず。

 茜の言葉でピンと来ていてもおかしくはない。


 ならばどうして彼女はレベルアップについて言及しなかったのか。その点に興味が無い? 否。もしもそうならそもそもダンジョン探索に身を乗り出したりなんかしていない。


 考えられる理由はただ一つ。


『レベルなんて、全然上がってないんだからね!!』

『上がってんじゃねえか』


 ステータスと口にするのが恥ずかしい。

 この一点に限るのだろう。


『ちょっと、何を根拠にそんなこと言ってるわけ?』

『いやだって俺鑑定持ってるし』

『んなっ』


 レベル上がってることはお見通しだ。


『待って、それってステータスも見えるの?』

『見ようと思えば見れるな』

『だったらわざわざ私があの恥ずかしい単語を口にする必要なんてなかったんじゃない!!』

『そんなプライバシーを侵害するようなことできるわけがないだろ!!』

『レベルをのぞいておいて何がプライバシーよ!!』


 ナターシャはしばらく俺を追いかけたが、ステータスの差もあり俺が捕まることはなかった。最後には疲れ果てたナターシャが弱々しい声でステータスと口にして能力を確認していた。

 最後には茜ともどもナターシャのPCにステータスをメモしていた。君ら仲いいよね。

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