第24話 スーパーハッカー
これはナターシャから聞いた話なんだけど、歩きながらの話ってのは盗聴されにくいらしい。
まあ、盗み聞きする側からすればスニーキングと盗聴のマルチタスクになるわけだし難易度が上がるって話だと思う。
盗聴器を仕掛けられている場合は例外らしいけど、ナターシャはそれ対策の発見器を持ち歩いてるらしいからそっちの心配はしないでいいって言っていた。
どうしてそんなもの持ち歩いているのやら。
『どうして俺のGPS情報をナターシャが持ってる』
『質問してるのは私の方だけど……いいわ、教えてあげる』
ざっくり説明を聞くとこんな感じだった。
まず、ナターシャのスマホの位置情報を取得する。その後、その周囲のスマホの位置情報を取得し、同行している人物を割り出す。
モールから長時間一緒に行動していたことから俺のスマホが割り出されたって話らしい。
『って、ハッキングじゃねえか』
『ええ。あなたの画像フォルダも確認させてもらったわ』
『ぐおおお! 秘密ってそっちかよ! そんなのテレビ局に持ち込んでどうするつもりだよ!!』
ただ単に放送事故になるだけじゃねえか。
お茶の間がカオスな冷え込むだろ。
『ていうか、ナターシャはもっと正義感が強いタイプかと思ってたよ』
『正義ってのは悪の裏返しよ。私は私の正義のもとに動くけど、それが全員にとっての正義だなんて幻想は抱いていないわ』
また小難しい話を。
……というか、ロシアの人って背が高いし顔もシュッとしてるし、日本と比べて大人びて見えるよな。
実年齢は、俺の想定よりいくつか下のはず。
そのわりには、あまりにも大人びた思考じゃないか?
『……ナターシャ。君はいったい何者なんだ?』
疑問を投げかけたのは俺。
間の抜けた表情をしたのは、彼女の方だった。
『……ぷっ、あははっ。なにそれ。あはははは、あーおかし』
『は? 何が』
『やー。いろいろ考えてたんだけどさ、そこまでTHE普通の日本人をされるとは思ってなくて』
ナターシャはひとしきり笑うと、笑いつかれたのか顎から頬を撫でていた。
『ま、普通の日本人は関心無いもんね。海外の諜報機関の存在なんてさ』
なんてったってスパイ天国だもんね、なんて口にするナターシャ。それはつまり、ナターシャの正体は。
『FSB。それが私の所属する諜報機関の名前だよ』
*
『そんな大事なこと、言っちゃってよかったのか?』
『あはは……、本当は良くないんだけどさ、なんて言うか、カズマに隠し事するのは、心苦しいっていうか……』
ナターシャは言ってからハッと顔を上げ、耳まで真っ赤にして両手をぶんぶんと振った。
『か、勘違いしないでよね! 別に、あんたに恋愛感情を抱いてるわけじゃないから! ただ、助けてもらった恩人に嘘を吐くのは私の正義感に反するからってだけだから!』
『わかってるわかってる』
『優しい目で見るなー!!』
わかりやすい性格してるよな。
諜報員に向いてないんじゃないだろうか。
……いや。
(ハッキングできるらしいし、本来は情報を扱う部門が彼女の専門なのかな)
だとしたらどうして直接日本に足を運んでいるのかってのが気になるところだけど……。
あ、これは別に聞いてもいいや。
『聞いていいか? どうしてナターシャが直々に日本に足を運んだんだ?』
『ん? ああ、もしかして、あらかじめ世界にダンジョンが現れるって情報を入手してたと思った? 残念。ただの休暇よ。モールのテロに居合わせたのも、ダンジョンの出現も私にとっては想定外のこと』
『ふーん』
『信じなくてもいいけど、疑っても何も出ないわよ』
確かに。
仮に彼女が嘘をついていたとして、それを嘘だと見抜く手段が俺には無い。今の話を真と仮置きしたほうが、一周回って賢いか。
『それよりさ、私は私のことを話したんだから、カズマのことも教えてよ』
『何って……どこにでもいる無職だけど』
『ダウト。日本のニートはおよそ30人に1人。この時点ですでに希少種よ』
『え、ニートってそんなに少ないの?』
とおもったけど、1クラスあれば1人くらいは働かずに生きているってことか。じゃあ全然少なくないな。今は俺もそっち側の人間だけど。
『それに、あなた自身が言ったじゃない。お金には困ってないって』
『あ』
そういえば言った。
テロリストからナターシャを守るときに。
『可能性は2つ。保護者に恵まれていて働く必要が無い。すでに生涯で稼ぐべき金額を稼いだ』
ナターシャは指を一本ずつ立てながら推理を披露していく。あれ? もしかして頭脳担当……?
『だけど、あなたの住居を見て考えを改めたわ。オートロックもない。シリンダー式の鍵穴。東向きの建屋。どちらかと言えば貧困層向けよね?』
うん、あってる。
加えて言うと、いわく付き物件だ。
月額なんと1万5千円。
名古屋在住でこの価格は正直破格だ。
『じゃあいったい、どこで前提を間違えたのかしら? 答えは明白よね。
「お金には困っていない」
これ、ただの見栄だったんでしょ?』
え、あ、いや。
そこは本当に困ってないです。
や、まあ口座に預けられないってのはちょっとめんどくさいなって思ってるけど、ぶっちゃけビジネスホテルに寝泊まりするとかでも俺は全然いいし、正直どうにでもなる。
『だから、提案があるの』
ナターシャが口に指をあてて、いたずらな笑みを浮かべる。
『私のパートナーになってよ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます