第14話 ストライーック! ピッチャーアウトォ!!
塔の中は、まるで遺跡のようだった。
ポケットの中身がファンタジーなゲームで言うと、リメイク版の空の柱がイメージに近い。
「要するに、この建造物はやっぱり、人の手でつくられたものじゃないわけだ」
言葉にするなら
ジュエリースライムたちを相手にしている時とはまた違う緊張感が、ぴりぴりと肌を刺す。
「……なんだ、これ。文字?」
ひたひたと遺跡内を歩いていると、砂岩のような材質の壁面に、文字らしきものが埋め込まれていることに気づいた。
象形文字でもアラビア文字でもヒエログリフでも梵字でもない。だけど自信をもって意味のある文字だと断言できる並びをしていた。
「鑑定」
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ダンジョン文字
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太古の昔に使用されていた文字
現代では完全に失伝されている
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やはりどうやら文字らしい。
言語理解さんが機能していないのは失伝してしまったからだろうか。
俺からするとロシア語もダンジョン文字も似たようなものなんだけどな。
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言語理解Lv10発動
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ダンジョン文字の解析が完了いたしました
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おっと、単純に時間がかかってただけか。
読めるようになったなら俺としてはどっちでもいいよ。
『臆する者は左の道を選び、謀らぬ者は右の道を選んだ。だが賢なるものは中間の道無き道を切り開いた。これを勇気と呼ぶ』
ヒントか何かかな?
見れば左側には平坦な道が続いていて、右側には階下へつながる道が続いている。
(考え無しに地下を目指すのではなく、臆して現状に甘んじるのでもなく、勇気をもって前に進めって話か。ということは、この壁の向こう側は――)
確認しようと手を伸ばすと、壁にぶつからずにすり抜けた。
(ビンゴ。やっぱりこの壁の向こうに道が続いてる)
懸念事項があるとすれば、この壁が邪魔で、向こう側の様子を探れないということだ。壁の向こう側に踏み込んだが最後「石の中にいる」エンドに到達する危険性だってある。
踏み込むか、踏みとどまるか。
それが問題だ。
まあ、答えは出てるんだけど。
「……っ、この感覚、転移か!」
錠前で二つの空間を行き来する際に襲ってくる浮遊感。ここ数日で何度となく経験したそれとよく似た感覚が全身を包み込む。
おぼろげになった地面の感覚を確かめるように、改めて強く一歩踏み出すと、硬い感触が返ってくる。
「あ、焦った。とりあえず、石の中にいるって落ちは無かったっぽいな」
額を手で拭うと、じっとりと汗ばんでいることに気づいた。それから、口元が緩んでいることにも。
転移と言っても同じダンジョン内っぽいけど、どの辺に飛ばされたんだろうか。窓があれば外の様子でおおよその階層を推測できるけど、外周はぐるっと石の壁に覆われている。
「いや待てよ? 階層を調べる手段ならあるじゃねえか。鑑定」
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70階/99階
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「おお、めちゃくちゃショートカットしてる」
もうダンジョンも終盤じゃないか。
やべえ、これ見つけちゃったんじゃね?
このダンジョンの攻略法見つけちゃったんじゃね?
こんだけの距離を一瞬で移動したら気圧差の変化とか気になるけど、その辺はダンジョン補正でも働いてるのかね?
未知の事象に科学をぶつけても仕方ないか。
「シュロロロロ……」
「ん? うわでっけえ蛇! なんだこいつ!?」
あ、モンスターか。
そりゃダンジョンなんだからモンスターも出るわな。
体長20メートルくらいありそうなんですけど俺でも勝てる奴ですか?
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大蛇Lv70
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【STR】201
【VIT】137
【DEX】99
【AGI】154
【INT】166
【CHA】80
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長い歳月を生きて巨大化した白蛇
高いステータスを持つが攻撃した方向と左右反対側に隙ができる
低確率で白蛇の抜け殻を落とす
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そういえば、蛇に睨まれた蛙は、実は蛇と左右二択の駆け引きをしているって研究結果があるんだったか。
それと同じことをすれば、多少力量が劣っていても勝てるってことか。
「シュロ――」
「ストライーック! ピッチャーアウトォ!!」
どーん。
大蛇が三角形の頭側から吹き飛ぶ。
「ゲームの必勝法はいつの世も一つ。『レベルを上げて物理で殴る』だ。覚えておけ」
ステータスが高い?
そんなことは全能力500前後の俺を超えてから言ってもらおうか。
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