第32話 パイオン辺境伯騎士団
寝起きに超イケメンの寝顔を間近で目視する事になったり、その後起きたカエルムと背を向けあってのお着替えタイムを昨日に引き続き再びやる事になったりと、朝から心臓への負担がひどいわ……。
タピの町まで、パイオン辺境伯騎士団の馬車が迎えに来てくれることになっているので、今日の移動は馬車になる予定だ。
そのパイオン辺境伯騎士団のお迎えの馬車ががタピに到着するのは、昼前くらいの予定なのでそれまでは、カエルムと一緒にタピの町を見て回る事になった。
立ち寄った雑貨屋でカエルムが、黄色い石の付いた可愛いヘアピンをプレゼントしてくれた。
お礼に何かお返しをすると言ったら、キラキラの金髪を隠す為に付けてるバンダナがくたびれてきたので、バンダナが欲しいと言われた。何色にしようか迷ってると、ラベンダー色と白ののちょっと可愛い感じのバンダナをお店の人に勧められて、カエルムもそれがいいと言ったので、それにすることにした。
カエルムに貰ったヘアピンで、早速前髪を留めてみた。
カエルムも新しいバンダナに付け替えてたけど、ちょっと可愛すぎない? それでも似合ってるから、イケメンはズルイ。
大きくない宿場町なのでお店は少ないけど、お土産屋や雑貨屋を見て回ったり、買い食いをしているうちに、すぐに時間は過ぎた。
予定の時間が近くなったので、待ち合わせ場所の町の入口に行くと、黒いスレイプニルが二頭繋がれている紋章付きの箱馬車が止まっていた。
デレクの鎧にも付いていた紋章だ。パイオン辺境伯騎士団の馬車に間違いなさそうだ。
馬車の傍に、いつもの白灰色のスレイプニルを連れたデレクがいる事に気付いて歩み寄ると、デレクもこちらに気が付いて手を挙げた。
「やあ、リア嬢。それとカエルム君も、待ってたよ」
「こんにちは、デレクさん。お迎えありがとうございます。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる。
「こっちからしたら大事な取引先だし客人だから、本当ははサリューまで迎えに行くべきだったのだが」
「そんな、わざわざ申し訳ないです。ここまで迎えに来ていただいただけで、十分ありがたいです」
「わ、ホントに若い子なんだ」
デレクと話していると馬車の御者台から、赤毛の騎士がひょっこと顔を出した。
「ソイル、初対面の女性に対して礼儀がなってないぞ」
「えー? 固い事言うなって。 魔の森の魔女さん、リアちゃんだっけ? ポーションすごいねー、助かってるよ。俺はソイル、デレクと同じ部隊の騎士だよ。よろしくね」
すごくコミュ力高そうな赤毛の騎士が、パチンとウインクをした。
「リアです、こっちは助手のカエルムです。よろしくお願いします」
「うんうん、そんな畏まらなくていいよ、俺平民だし。それよりリアちゃん馬車乗れる? 手伝おうか?」
言われてみれば、ちょっと高いわね。それに、箱馬車に乗るのは始めてだ。
「俺が手伝うので大丈夫ですよ。リア、手を」
「え? うん」
にっこりと微笑むカエルムに手を取られて、馬車のドアの前まで行くと、デレクが馬車のドアを開けて、馬車に乗る為のステップを出してくれた。
なんか、二人ともすごく慣れてるわね。どっちも、いいとこの坊ちゃんオーラ出てるわ。
そんな事を考えながら、カエルムと馬車に乗り込んだ。
デレクが馬車のドアを閉めてくれ、馬車はタピを出発した。
ソイルは御者で、デレクは護衛としてスレイプニルで馬車に並走するようだ。
馬車の中には、私とカエルムだけ。
そして、馬車の中、案外狭いわ。
向かい合って座ってると、馬車が揺れた拍子に時々膝が当たる。
思ったより近くない? ダリまでこの状態だよね?
狭い馬車の中、カエルムと二人っきりで緊張するかと思ったが、すぐに馬車の窓から見える景色に夢中になってしまった。
サリューからタピを経由しダリへと向かう街道は、西には街道に沿うように北のケイモーン山脈まで魔の森が続き、ダリ付近では街道を挟んで東側には耕作地帯が広がっている。
タピから出てしばらく続いていた田園風景は、春蒔きの種の麦がちょうど収穫時期を迎え、視界いっぱいに広がる黄金の穂波が風に揺れていた。
サリューから離れるのは、魔の森に住むようになってから始めだった。
始めて見る風景の広大さと美しさに、しばらく見入って行った。
前世で住んでいた国も小さな国だったし、住んでいたのも自然の少ない都会だったので、視界いっぱいに広がる田園風景など前世から通して始めてだった。
「カエルムみたい」
「え?」
あまりに綺麗な金色の風景に、つい言葉に出てしまった。
「あ、ごめんなさい。あまりに綺麗な金色だったから、カエルムの髪の毛と瞳みたいだなって。まるで、太陽が地上に降りて来たみたいで神々しいなって思って」
「……っ」
思った事を素直に口にすると、カエルムが右手で顔を抑えて俯いてしまった。
「ご、ごめんなさい。変な事言ったわ。そうようね、農作物の色と同じみたいって、例え悪かったわよね」
元は身分の高そうなカエルムことを、麦畑の色と似ていると言ったのは失礼だったかもしれない。失言だったわ。
「いや……、太陽か、リアがそういうならこの瞳も悪くないな」
「え? 何?」
「……何でもない」
カエルムがぼそぼそと何かを言ったのが聞き取れなくて、聞き返したけどカエルムは横を向いたまま、こっちを見てくれなかった。
やっぱり、麦畑と一緒にしたのはまずかったわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます