第4話 めちゃくちゃイケメンを拾ったようです
森で綺麗な顔をした男の人を拾って五日目、まだ目を覚まさない。昔、オウルが使っていた部屋が空いているので、その部屋で眠っている。
一通り手当はしたが、深い傷が多く、化膿している傷もあったので、意識が戻ったとしても、自由に動き回れるくらいに傷と体力が回復するには、少々時間がかかるかもしれない。
ナベリウスと一緒に朝食ととった後、そんな事を考えながら、薬やポーションを作る為の調合部屋で、薬草をゴリゴリとすりつぶしていると、コトリという物音と、ミシっという床の軋む音が聞こえた。
さほど大きくない、木造の家なので、少し離れた部屋の音も聞こえてくる。
「あら?」
薬草をすり潰す手を止め、すり鉢を棚にしまって、調合部屋を出て、二階の元オウルの部屋に向かった。
コンコンと部屋の扉をノックするが、返事が無いのでそのまま扉を開けて中に入った。
中に入ると、ベッドで寝ていたはずの金髪の男が、ベッドの脇の床に座り込み、ベッドに突っ伏していた。ベッドから出たが、すぐに動けなくなったのだろう。
「目が覚めたのね? 大丈夫? まだ動かない方がいいわ」
声を掛けると、男は苦しそうに「うっ」と小さく声を発した。
「ちょっとごめんね?」
一言かけて、目の前の金髪の男の背中と膝の後ろに腕を入れて、重力操作の魔法を掛けながら、ひょいっと横抱きで持ち上げて、ベッドに寝かせた。
「え……」
男は小さな声を漏らして、目を見開いてこちらを凝視した。始めて見たその目は、瞳その物が輝いてるかのような、美しい金色の瞳だった。
「綺麗……」
無意識に言葉が出て、吸い込まれるようにその金色の瞳を見つめてしまい、そのまま見つめ合った状態で目を逸らせなくなった。
金色の瞳が、困惑で揺れている事に気付いて、慌てて目を逸らす。
「ご、ごめんなさい! 綺麗な目だったからつい…えっと、喉乾いてるよね? お水を持って来るわ」
「あ、あぁ……」
取り繕って離れると、掠れた声の返事が返って来た。
うひゃー……綺麗な顔だとは思ってたけど、めちゃくちゃイケメンだった。髪の毛もキラッキラだったけど、瞳もキラッキラで眩しかったわ。イケメンすぎて目が潰れるかと思った。ていうか目力すごっ!
前世は彼氏いない歴歳の数の紛うことなき喪女。今世も森引きこもりで彼氏どころか、人付き合いもたまに町に買い出しにいく程度にしかない私に、キラッキラのイケメンは刺激が強かった。
水と薬を用意しながら心落ち着けて、再びキラキラのイケメンのいる部屋へ。
キンキラキンのイケメンが寝ている部屋の前まで戻り、深呼吸をしてドアをノックして中に入った。
「はい、お水。いっきに飲むと咽るかもしれないから、ゆっくり飲んだほうがいいわ」
ピッチャーからコップに水を注いで、ベッドの上で上体を起こして座っている、イケメンに手渡す。
「……ありがとう」
少し間があったけど、イケメンはコップの水に口を付けた。
ゆっくりと水を飲み終えた彼が、コップをサイドテーブルの上に置いて、こちらに視線を向けた。
「ここはどこだ? 君が手当してくれたのか?」
思ったより落ち着いた口調で尋ねられた。今までに森で拾って来た人は、目が覚めると混乱気味で取り乱す事が多かった。
「ええ、ここは魔の森のサンパニア帝国側よ。貴方は国境の川の近くで倒れてたの。五日ほどずっと眠ってたのよ」
「そうか、助けてくれたのか。礼を言う、ありがとう。ここはサンパニア帝国側ということは王国から出れたということか」
「セルベッサ王国の人?」
「あぁ、事情があって魔の森を越えて、こちらの国に来た」
イケメンは言葉を濁して俯いた。詳しい話なんて聞いても、私にはどうする事も出来ないし、どうせ回復するまでの間の面倒を見るだけだから、あまり個人の事情に深入りする気もない。
「王国に帰りたい? 帰りたいなら、怪我が回復したら、安全な街道経由で帰るといいわ。家族に連絡したいなら、近くの町から手紙くらいなら出せるわよ」
拾った時に、外套の下にはかなり質のいい衣服を身に着けていたので、おそらく上流階級の人間だと思う。そうなると家族が探してるかもしれない。
「いや、国には帰れない。家族に連絡する必要もない」
眉間に皺をよせて俯く姿すら様になるからイケメンはズルイ。
「そっか、なら回復したら近くの町まで送るわ。それまで、ここで養生するといいわ」
「いいのか? 俺の素性もわからないのに? それに世話になっても、返せる物を持ち合わせてない」
「でも、貴方その体じゃ満足に動けないでしょ?」
「あぁ……」
イケメンが悔しそうにうなずいた。
「それに素性がわからないのは貴方にとって私も同じでしょ? もしかしたら、私は悪い人かもしれないわよ?」
「仮に俺を害するつもりなら、わざわざ魔の森で行き倒れてるのを助けないだろう」
「あはは、そうね。私、リア。貴方は?」
「俺は……カエルム」
答えるまでに少しの間があった。おそらく偽名なのだろうが、気にしない。
「じゃあ、しばらくの間よろしくね、カエルム」
「すまない、世話になる。動けるようになったら、必ず礼はする」
グウウウウウ
互いに自己紹介をしたところで、カエルムのお腹から音が聞こえた。
「……っ」
カエルムが恥ずかしそうに、頬を赤くしてパッと横を向く。
「お腹すいてるよね? 消化の良いスープを持って来るわ。痛み止めの薬とヒーリングポーション置いておくから、飲むと少しは楽になるわ」
それから三日、まだ多少は足を引き摺っているものの、ちょろちょろと動きまわれるくらいには回復していた。
むしろ、目の覚めた翌日に、フラフラしながら部屋から出て来て、階段を転げ落ちて傷を増やしていた。
調合部屋で作業をしている時に、大きな音がしたので、何かと思って見に行くと、階段の下で唸っているカエルムが転がっていた。慌てて、重力操作の魔法を使って抱え上げて、ベッドにお戻り頂いた。
何故、階段から落ちるような事をしたのかと問えば「そろそろ動けると思った、寝てばっかりだと申し訳ないから、何か出来る事があれば手伝いたい」などと、言っていたが、病み上がりの怪我人に手伝ってもらうような仕事はない、というか大人しく寝ててほしい。
その後は、様子を見に行くたびに「何か出来る事はないか?」と聞いてくるので、「怪我人の仕事は怪我を直す事だ」と何度も言ってベッドに押し込めている。
曰く、目が覚めてる時に、やる事がないと落ち着かないそうだ。ワーカーホリックかな?
それでも、怪我のせいであまり動けないので、ベッドに押し込めれば渋々ながら、大人しくはしてくれていた。昨日までは。
そして、遂になんとか自力歩行が出来るようになってしまい、朝食の準備をしているところにカエルムがやって来た。
「何か俺に手伝えることはないだろうか?」
朝早くからキッチンまで来るとは、それだけ手持ち無沙汰なのだろう。顔色も随分と良くなったし、本人の気が紛れるなら何か手伝ってもらうのもいいだろう。
「じゃあ、朝食の準備手伝ってもらおうかしら。でもその前に、寝衣は着替えましょ?」
うちには、男性サイズの服は無いので、オウルが置いていったゆったりとしたローブを、寝衣にして貰っていた。
「あぁ、その事なのだが……俺の着ていた服はどうした?」
「洗って、破れていた箇所繕ったけど、ボロボロ過ぎて直し切れずに、畳んであるわ。貴方が、出ていくまでには、なんとか着れるように直しておくから、それまではローブで我慢してもらっていいかしら」
「あぁ、そうさせてもらうよ。それとあの服はもう着ないと思うから、付いている装飾品を外して処分してくれていい。装飾品はリアが引き取ってくれ、世話になってるお礼だ。売ればそれなりの値段になると思う。その代わりに、地味なローブを一着貰えないだろうか?」
「ローブなら、貴方の寝てた部屋のクローゼットの中に何着かあるから、好きなのを着るといいわ。私の育ての親が置いて行った物だけど、私にはサイズが合わないから好きなのを使っていいわよ」
オウルは私よりずっと背が高かった。オウルがここを出て行く時に、色々な物を残して行った中には、たくさんのローブがあった。私が成長した時に、必要なら使えばいいと言われてたのだが、オウルほど背も高くならなければ、胸も大きくならなかった。つまり、オウルのローブは私には大きすぎるのだ。
カエルムはオウルより大きいが、ちょっとローブの丈が短く感じるだけで、あまり問題はないはずだ。
「それと装飾品は、全部はいらないわ。そうね、カフスボタン一つくらいで十分よ、とても高価そうな宝石のようだし、貴方もこれから生活するのに、お金に替えられる物は必要でしょ?」
カエルムの着ていた服は、とても高そうな生地で、手触りもよかった。それに服に施されている装飾には、宝石や魔石が使われており、彼がかなりの富裕層の出身なのが窺がわれた。
「ああ、そうだった。すまない、そうしてもらえると助かる」
「じゃあ、上で着替えて来て。その後、手伝いお願いするわ」
しばらくして、ローブに着替えたカエルムが戻って来た。
「すまない、ローブの類を着るのは始めてで、よくわからなかったのがこれでいいのだろうか?」
微妙にボタンを掛け違えていた。そしてどうしてそれを選んだのか、胸の辺りが大きく開いている黒いローブだった。しかも、太もものきわどい位置までスリットが入っている。そういえば、オウルは胸元の開いてたり、大きなスリットの入ってるローブ好きだったわ……オウルの胸の谷間もすごかったけど、イケメンの胸筋と太ももはそれはそれで目の毒ね。
若干、目のやり場に困りつつ、カエルムのローブを整えてあげた。
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