第一話

「暑い…」

野球部のマネージャーを務める私は、今日も炎天下の中ボール出しをしていた。確か今日は35度まで上がるとか言ってたな…と思いながら、一塁にいる仲のいい先輩から投げられるボールを受け取っていた。8月上旬。夏も真っ最中で、隣の木ではこれでもかというくらいセミが鳴いている。いつも持ってきている帽子を今日に限って忘れてしまった自分に呆れながらも、早く自分の居る場所が影になってほしいと願っていた矢先、事故は起こった。

ふと、自分の目の前が真っ暗になっていった。え、と思ったときにはもう体が傾き始めていた。

(倒れる前はスローモーションに感じるって、こういうことだったんだ…)

倒れた私はすぐそこにあった鉄筋に頭をぶつけたらしい。高等部に鈍い痛みが残っていた。

美世みよ!」

聞きなれた声。先輩…?まだ少しだけ見える暗闇の中から声のする方を見ると、さっきまでの真剣な表情とはうってかわって、心配の表情を浮かべた先輩がいた。なんで先輩がそんなに悲しそうな顔するの…?口を開こうとしたけど、ダメだった。先輩にたくさん言いたいことがあるのに…。このまま死んじゃうのかな…?

「せんぱい…。」

先輩、って言うのがやっとだった。けほ、と少し咳をした私は、朦朧もうろうとする意識を手放した。

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