ドラゴン襲来ー③
度々咆哮を上げながら、ドラゴンは我が物顔で空を飛んでいた。
ジェット機を思わせるその巨体に敵う者などいない事を知っているドラゴンは、何一つ警戒する必要が無いからだ。
そして今はその巨体を維持する為に必要な栄養を求め、鋭い嗅覚で見つけた人間が集まっている場所へと涎を垂らしながら向かっていた。
ドラゴンにとって肉ならば人間だろうと熊だろうと別に何でも良いのだが、人間は足が遅く捕らえるのが簡単で、何故か集団でいる事が多く、探す手間が省けるの主食としている。
言ってしまえば、効率よく腹を満たせるから人間を狙っているだけなのだ。
だが、今日はいつもと違った。
ふくよかな腹に何かが当たった気がしたドラゴンがその場でホバリングしながら下を見ると、人にしてはえらく大きな黒い人間がこちらを向いていた。
「良く当てましたね軍曹。こんな得意技があったとは知りませんでした」
「いや、一応照準システムで合わせはしたが、適当に投げただけだ。案外当たるものだな」
とりあえず村に行かぬ様にこちらに気を引こうと思ったフリックは、その辺に転がっている岩を投げたのだ。
丁度そこはエアレーザーがワームホールから吐き出されて不時着した地点であり、同じく吐きだれた小惑星の欠片や宇宙船、SAの破片が大量に転がっているので投擲物には事欠かかない場所だった。
「それで軍曹、この後はどうするおつもりですか?」
「決まっているだろ。奴を怒らせてこちらに引き付ける」
言うや否や、今度は確実に攻撃を当てる為にフリックは操縦桿のトリガーを引き、頭部バルカンから鉛玉をばら撒く。
しかし一発もドラゴンの肉体を貫くことは無く、全て鱗に弾かれてしまった上に鱗には傷一つ付いた様子が無い。
「やはり効かないか。それにしても頭部バルカンが効く相手は生身の人間くらいじゃないのか」
頭部バルカンが真面に効く相手は古今東西いたことが無いというのがSAパイロット共通の認識なのだ。
「ですが怒らせるという目的は達成したようですよ」
フェアリーの言う通り、ドラゴンは翼を畳み大口を開けてエアレーザー目掛け急降下してきた。
エアレーザーを素早く横っ飛びさせて避けたフリックはそのまま先の尖った宇宙船の破片らしき縦長の金属プレートを掴むと、そのまま大地を抉りながら着地したドラゴンの無防備な横っ腹に突き刺そうとするがこれも弾かれてしまう。
ドラゴンも痛みすら感じていないのかうめき声一つ出さない。
「これでもダメか。この様子ではミサイルも効かなさそうだな」
「そうでしょうね。軍曹! ドラゴンが向かってきます!」
ドラゴンは鋭い爪の付いた前足を振り上げ、エアレーザーを真っ二つに切り裂こうとしてくる。
避け切れずに真面に食らったエアレーザーは吹っ飛んでしまい、岩に衝突してしまう。
「フェアリー、ダメージ報告!」
「各部異常ありませんが装甲に傷がつきました。あの爪、生物の物とは思えない程鋭いですね」
冷静に分析するフェアリーに対して、フリックは少し焦りを感じ始めた。
こちらには相手に通用する武器が無いのに、相手はこちらにダメージを与えられる武器があるという一方的に不利な状況だからだ。
「クソ、何か武器は無いのか! この際奴に通用する武器なら何でも文句は無い!」
ドラゴンは吹っ飛んだエアレーザーが動くのを見て、自分の一撃を受けても起き上がる初めての敵に少し警戒心を持ったらしく、追撃をしてこない。
その隙にフリックは周囲を見渡すが使えそうなものは見当たらなかった。
ただ、それは人間の目で見つけられなかっただけであり、エアレーザーに搭載されているセンサー類をフル稼働させたフェアリーは違った。
「軍曹、二時の方向のSAの残骸の下に何かあります!」
フリックは体を起こしたエアレーザーをフェアリーが示す地点にドラゴンを警戒しながら走らせる。
しかし、走り出した巨人に刺激されてしまったドラゴンは、今度こそ確実に仕留める為にエアレーザーにもう一度飛び掛かろうとする。
だが、それよりも一歩早くフリックはSAの残骸の下から見つけた武器、この世界に来る原因になった武器である反粒子ライフルのトリガーを引く。
本来は装備している機体からエネルギーをチャージする事で絶大な威力を発揮する武器だが、通常射撃用のエネルギーパックが装填されている為、機体からエネルギーを供給しなくても撃つ事が出来る。
照準など合わせる間もなく、ドラゴンに向いているだけのライフルの銃口が光り、発射されたビームは偶然にもドラゴンの前足の片方を吹き飛ばした。
生まれて初めて傷を負ったドラゴンは呻きながら姿勢を崩し、倒れ込んだ。
「これで止めだ!」
照準を定めたフリックは2射目をドラゴンの頭部に撃とうとするが、今度はそれよりも早く後ろに飛びのいたドラゴンの口が開き、輝きを放ったと思った次の瞬間、口から光線が発射された。
ドラゴンの口が光るのを見た瞬間に直感で不味いと思ったフリックが、エアレーザーに回避行動を取らせたお陰で辛うじて避ける事は出来たが、掠ってしまった肩の装甲が一部真っ赤になり熱を発しながら溶けてしまう。
「アイツ生物の癖に口からビームを撃ってきたぞ! 奴の口から出てくるのは火じゃなかったのか!」
「軍曹、ドラゴンが攻撃する瞬間に例の未知のエネルギーを感知しました。恐らく奴が吐くのは火ではなく未知のエネルギーが集束した物の様です」
恐らくビームや光線という概念が無いこの世界の住人達は被弾した物体が熱で溶けたり周辺の物が燃えるのを見てドラゴンは火を吐くのだと勘違いしたのでは、というのがフェアリーの見解であった。
だが今のフリックにとってはそんな事はどうでも良かった。
ただの火ならば大気圏突入すら耐えるエアレーザーの装甲で十分に防げると想定していたのだが、未知のエネルギーのビームだと話は変わってくる。
「直撃したら装甲で防ぎ切れそうか」
「無理ですね。コックピットに直撃でもしようものなら我々は跡形もなく蒸発するでしょう」
あっさりと言うフェアリーに苛立ちを覚えながらもフリックは再びライフルの照準を合わそうとするが、エアレーザーが大きく揺れて事で体勢を安定させるので精一杯になってしまう。
揺れの原因は、ドラゴンが飛翔する為に大きな翼を羽ばたかせた事による突風だった。
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