覚醒のAIー②

 結局倉庫への物資搬入作業が終わる頃には日が暮れてしまい、流石に暗い中屋根に上ったりするのは危険という事でフリックの家の補修作業は翌日へと回すことになった。


 そもそも当初は、フリックの家を用意するのは計画には入っていなかった。


 フェアリーとしては帰還の方法が分かり次第フリックは元居た世界に帰るものと決めつけていたので、物資、人員がギリギリの中で彼の為に家を用意するのに貴重なリソースを割く必要は無いと考えていたからだ。


 だが、先日の二度目の襲撃後、マルコスに詰め寄られたフリックが出した答えはこの世界への残留だったせいで計画を変更せざるを終えなくなってしまった。


 勿論パイロットであり、現状自分に対する最上位権限を持つフリックがそう決めたのならば全面的にサポートするのが自分の役目だとフェアリーは計画の修正を始めた。


 やはりこの地で生きていくとなると人間が生きていく上で必要な衣食住の内、住が欠けているのは大問題だからだ。


 フリックはエアレーザーのコックピットで十分だと言うが、帰還方法が分かったらエアレーザーを元の世界に送り返すつもりなら、その後はどうするのかという問題が出てくる。


 それこそ真冬に帰還方法が見つかってしまえば、雪も降るというこの辺りでテント生活は命に係わる可能性が高い。


 そこで前々からフェアリーは追加で住居を用意する場合、辛うじて使える可能性があると判断していた廃屋を修理する事にした。


 修理しても色々と居住に適しているかは怪しいのだが、取り敢えず最低限雨風は凌げ、倒壊する危険も無いので多少の不便はサバイバルキットに入っていたアイテムで補う事で一冬乗り越え、春先からの村全体の復興作業で正式に住む家を建てる計画で落ち着いたのだった。


「……一度私のこのエラーについて軍曹に報告した方が良いのかもしれませんね」


 翌日、フリックとシェニーが大工仕事をしているのをフリックのヘッドセット越しに監督していたフェアリーは、若干手持ち無沙汰だったのでこのところ頻発するようになったエラーについて解析していた。


 実はフリックがこの世界に残ると言い出した時、フェアリーはアッカと遊んでいた時に発生したのと同種のエラーを検知した。


 以前同様に致命的なエラーという訳でもなく、放置しても問題ない類のものだったのだが、それ以降頻発に発生するようになっていた。


 フェアリーが自己診断した結果、発生原因は分からないのだが何故かアッカを認識すると必ず発生する事までは突き止める事が出来た。


 だがそれ以上は一切分からず、高性能なAIである自分に分からないものを門外漢のフリックに伝えたところでどうこうなる訳でもないだろうが、最悪の場合自分の停止権限があるフリックに知っておいてもらうのが最善だという結論に至ったフェアリーは、報告用にフリックに分かりやすいように資料を作り始める。


「ですので一切の原因が分からないのです」


 夜、寝床であるエアレーザーのコックピットに戻ったフリックは、就寝しようとしたところをフェアリーに妨害され、アッカに出会ってから起こるようになったエラーについて長々と報告された。


 別にそのエラーが致命的なものでは無く、エアレーザーの運用やフリックのサポートに一切影響が無いのなら問題無いのではフリックは思い、適当に聞き流して眠ろうとした。


 だが、普段は自分を頼るどころか小馬鹿にしてくるフェアリーが珍しく頼ってきたのだから、一応は助けられてばかりの身としては無下にも出来ないと思い直してフリックなりに原因考えてみた。


 しばらくフェアリーの仕様書の内容や、士官学校で習ったプログラムやAI関係の知識を引っ張りだして考えてはみたものの、答えらしい答えは浮かばない。


 そもそもエアレーザーがSAで始めてAIを搭載した機体でなのだ。


 だから一般常識としての範囲内でしかAIの事など習わなかったし、仕様書を読んだ時も専門的な部分は全く分からなかった。


「ダメだ、さっぱり分からん。とにかく現状、活動に支障が無いのなら放置でいいんじゃないのか? いくら何でもそれが原因で暴走するなんてことも無いだろうし」


 やはり門外漢であるフリックに相談したところで答えは出る筈も無かったが、想定の範囲内だから仕方が無いと、フェアリーが諦めようとした時、フリック続けた言葉に衝撃が走った。


「しかし自分の事が分からないなんて、まるで人間と同じだな。前から人間臭い奴だとは思っていたが遂に感情にでも目覚めたんじゃないのか」


 いつもフェアリーに揶揄われているお返しとばかり冗談でフリックは言ったのだが、フェアリーにその発想が無かったのだ。


 急遽フェアリーはデータベース内で感情や心理学、果てはシンギュラリティや創作物内での感情を持ったAIやロボットの事まで調べ始めた。


「……フェアリー、俺は冗談で言ったんだ。本気で取るんじゃない」


 言い返すどころか黙ってしまったフェアリーが予想外だったフリックは少し狼狽える。


「いえ、軍曹のご指摘は正しいかも知れません。色々と検証したいので集中させてもらっても構いませんか? 軍曹はお休みになって頂いて大丈夫ですので」


 まさかフェアリーが暴走を始めたのかと疑いながらも、別段データベース内を漁っているだけのようなので問題ないと判断したフリックは、決して睡魔に負けた訳では無いが、フェアリーの言う通り眠る事にするのだった。

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