六章 来訪者と怪しい青年ー③
「そ、それでどうしましょう、フェアリーさん! このままじゃ直ぐマルコスおじさんに全部バレてしまいますよ」
オロオロとした様子でレッカは所々焼け焦げた机に置いてある半球体に話しかける。
傍から見るとレッカの気が変になったかと疑われそうな光景だが、ヘルメットを通じてフェアリーと話しているだけなので、決してレッカおかしくなった訳では無い。
現在、マルコスにどう対応するかを検討するための緊急会議が開かれているのだ。
ただ、急に自分達だけにしてほしいと言えば今から密談しますと宣言しているも同然なので、フェアリーが一計を案じた。
家でアルマとリーナの看病をしながら待機していたシェニーに指示し、レッカには看病の手伝いを、フリックには薪木の数が少なくなっているので森で取ってきて欲しいと伝えさせた。
これでレッカとフリックがそれぞれ違う方向へと行くことになる。
こうして二人が話すことが出来ない状況を作り出し、二人の間をフェアリーが通信機能で中継する事で通信という概念が無いマルコスにバレずに作戦会議が出来ると言う訳だ。
「落ち着いてくださいレッカ。動揺していると隠し事があると白状しているのと同じなのですから、余計に疑われるリスクが高まってしまいます」
フェアリーに諭されながらも、両親にすら嘘や隠し事をしたことの無いレッカには今の状況は荷が重いらしく、一向に落ち着く気配が無い。
「ホラ、大きく息吸って吐くを繰り返してみな。ちょっとは気分が落ち着くぞ」
見かねたシェニーがレッカの背中をさすりながら深呼吸をさせる。
何度か深呼吸を繰り返し、レッカがようやく真面に話を聞ける状態にまで落ち着きを取り戻したのを確認したフェアリーは、今後の対応策を話し始める。
「マルコス氏に穏便に帰って頂く為の課題が3つあります。ただ、明確な課題があると言うことは、逆に言えばそれさえ解決するだけでいいとも言えます」
フェアリーが言う課題とは、まず一つ目がエアレーザー及びフェアリーの隠蔽。
エアレーザーについては光学迷彩機能があるので視認される事は無いのだが、決して存在が消えている訳ではないので何かの拍子にエアレーザーの存在が露見する可能性が無いとも言えない。
そこでエアレーザーは深夜、皆が寝静まってからフェアリーが操作して森に隠して置く事になった。
フェアリーについてはフリックの付けているヘッドセットとヘルメットを見られない様に気を付け、フェアリーとの会話をフリックが最低限にしてなるべくマルコスがいる場所で会話しなければさほど問題はないだろうということになった。
二つ目の課題はフリックの存在をマルコスに認めさせる事。
これはマルコスの匙加減次第なので特に解決法は無い。
とにかく怪しまれない行動を心掛け、フリックがレッカ達にとって無害であり、真面目に村の復興を手伝っている姿を見せ、頼りにしても問題ないと認めさせるしかない。
そして3つ目の課題、レッカ達が村に留まることをマルコスに認めさせる。
これが最難関といえるだろう。
何故なら今の村の現状を見たら、誰だってこの先暮らしていける訳が無い言うありさまだからだ。
辛うじて修理可能だった村長宅に身を寄せ合って住んでるとはいえ、家の状態は廃墟より辛うじてマシというだけ。
更に村の設備は井戸以外は他の家屋も含めてほぼ壊滅状態。
そんな状態の村を復興する事など、負傷して心を病んだ女性達と幼い少女の面倒を見ながら、レッカと唯一働ける大人であるシェニーと正体不明のフリックだけでは誰がどう見ても不可能だ。
自分達だってマルコスの立場なら、レッカ達を街に連れ帰ると言い出すだろうと会議に参加している皆が思った。
「これに関しては私でも良案が発案できません。マルコス氏の言い分は至極全うであり、彼を説得できるだけの材料は何一つありませんから」
流石にこればかりはフェアリーですら案が無かった。
多少体力が回復し、男性であるフリックがいない事も手伝ってか、アルマもベッドから起きだしレッカとシェニーと共にヘルメットを囲み、頭を付き合わせて案を考える。
まずは休ませることを優先した為、今までアルマの意思を確認していなかったが、どうやら彼女もこの村に残りたいらしい。
思い出と夫が眠っているから、というのも勿論あるが、男性恐怖症になっている現状では人口の多い街に移住しても真面に暮らせないと思っての決断のようだ。
「ごめんなさい、こういう時こそ年長者としてアドバイスすべきなのに。まだ上手く頭が動かなくて……」
良案が浮かばないかと唸りながら頭を悩ますレッカとシェニーにアルマが申し訳なさそうに謝る。
「そんな、気にしないで下さい。きっと何とかなりますって」
ベッドから起きだしてきて自分達の手伝いをしようとしてくれただけでも十分だというのに謝るアルマに、寧ろレッカが申しわけない気持ちになる。
「そうだそうだ。つーか怪我人はまだ寝てろってんだ」
いつの間にかアルマの背後に回り込んでいたシェニーが彼女を抱きかかえると、そのままベッドへと連れて行く。
「ちょっと! 貴女だって同じ目にあった怪我人でしょうが! なんでそんなに元気なのよ!」
「鍛え方がちげーんだよ、鍛え方が」
足をバタつかせながら抵抗するアルマをシェニーはベッドに寝かして毛布まで掛けた。
流石にそこまでされてしまったアルマは大人しくしている事にしたようで、直ぐに寝息を立て始めた。
やはりまだ万全の体調には程遠かったらしく、アルマには休息が必要だったようだ。
「フェアリー、俺の方でも良い案が思いつかないが一旦そちらに戻る。あまり長時間村から離れていては怪しまれかねないからな」
通信越しにレッカ達の姦しい会議を聞きながらフリックも策を考えてはいたのだが、結局良案を思いつくことが無かった。
村に戻る為、建前として薪木を拾いに来ていたフリックは、案を考えながら無心で集めたおかげで少々集め過ぎた薪が詰まった籠を背負い、よろよろと歩き出す。
背負った籠の重みを感じながら、フリックは現地人に変装する為にとフェアリーに脱ぐように言われたパイロットスーツの身体拡張機能が恋しくなったのだった。
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