四章 襲撃者再びー⑤
洞窟の外に出たフリックは縛ったまま放置していた二人組に近づくと、拘束を解いてやった。
「さて、貴方達は何が何だか分からないでしょうがとにかくああなりたくなければ真面目に働く事をお勧めしますよ」
フェアリーの指示でフリックが頭に穴が開いた死体を指さすと、二人組は真っ青な顔で逃げ去って行った。
「後は死体の処理と奪われた食糧と金品の捜索もお願いします軍曹」
どうせ異世界に飛ばされるのなら小隊規模で飛ばされたかったと思いながらフリックの夜通しの作業が始まった。
死体は洞窟から少し離れた所に埋め、一応墓標というか目印代わりに地面に彼の杖を刺しておいた。
洞窟内に戻り捜索すると、整理整頓はされていないが村から奪ったであろう食糧や金品を蓄えていた場所も見つかり、無事に確保することが出来た。
これで自分達が救出した女性達を加えても十分に冬を越すことが出来るだろう。
残る問題は傷ついた女性達を含めての輸送手段だったが、それも洞窟の外で荷馬車と馬を見つけたことで解決した。
車輪の轍と蹄の後から、2,3台の馬車と何頭かの馬がいた形跡はあったのだが野盗たちが逃げた時に乗っていったらしく、馬が2頭と馬車は一台しか残っていなかったが、現状あるだけ助かるというものだ。
問題が解決した後はただただ物資の整理と馬車への積み込みという単純作業にフリックは追われることになった。
フェアリーがスキャンすることで大まかに取り返した物資をリストアップし、食糧を優先して積み込んだのだが、女性たちが乗るスペースを確保する為に金品までは積み込むことは出来なかった。
結局作業が終わったのは明け方近くで、フリックはそのまま休む事無く薄暗い森を村へと向けて歩み始めた。
邪魔な捕虜二人がいない分、村への帰り道は行きの半分の時間で踏破することができ、森を抜けるとレッカが待ってた。
大よその事情はエアレーザーを通じてフェアリーが伝えていたらしく、フリックはそのままとんぼ返りで森に戻る羽目になった。
「時間が無いので軍曹、効率的な移動をする為に一度しゃがんでください」
訳も分からずにしゃがまされてフェアリーが何をさせたいのかフリックは分からなかった。
レッカもこれから森に入るというのに目の前で急にしゃがんだフリックが何をしたいのか分からずに立ち止まる。
「さあレッカ、軍曹の背中におぶさってください」
意味が分からずにキョトンとするレッカにフェアリーが捲し立てる。
「いいですかレッカ。囚われていた女性達には直ぐにでも怪我の手当とメンタルのケアが必要なのです。それに馬車での移動になるのですから日が出ている内に森を出なければならないので時間が無いのです。だから、早く、ハリーアップ!」
フェアリーの剣幕に押されて思わずフリックにおぶさってしまったレッカは、フェアリーの意図を察して身体拡張機能を起動させ、立ち上がって走り始めたフリックにしがみつくことしか出来なかった。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ!」
一度往復したので完全に道を把握しているフリックはレッカを背負ったまま森を疾走する。
だがゆっくりと走る荷馬車ぐらいにしか乗ったことが無く、スピードに慣れないレッカはずっと悲鳴を上げている。
「レッカ、舌を噛んではいけませんから口を閉じてください」
「そんなの無理でーすーーーーーー!」
フェアリーからの忠告を受けても初めてジェットコースターに乗った人のように悲鳴を上げ続けるレッカは無意識にフリックに密着する。
フェアリーは背中に当たる柔らかな双丘を感じたせいでフリックの心拍数が僅かに上がったのを検知する。
「役得ですね、軍曹」
「フェアリー、時々お前がAIではなく生身の人間の気がしてくるよ」
人の事を一々モニターしてはからかってくる程高度なAIの開発者を褒め称えるべきなのか、一体どういう意図でそんなことが出来るようプログラムしたのか問い詰めるべきか、いつもレポートを書くときにいつも悩まされる。
下らないやり取りをしながらもレッカを背負いながら全速力で走ったおかげで、予定よりも早く洞窟に戻ってくることが出来た。
野盗たちが戻って来なかったのは監視用に残したドローンで確認しており、周囲の安全は確保できているので早速作業に移る為にフリックはゆっくりとレッカを背から降ろす。
しかし慣れない速さでの移動ですっかり目を回してしまったレッカは可愛い悲鳴を上げながら尻餅をついてしまう。
「ダイジョブカ?」
悲鳴に気づいて手を差し出してきた白馬の王子の手を真っ赤な顔で取ったレッカは、身体拡張機能のせいで思っていたよりも勢いよく起こされて再び可愛らしい悲鳴を上げた。
「二人共遊んでないで早くやることをやって下さい」
さんざんからかって起きながら今更真面目に仕事をしろとわざわざ2言語で言うフェアリーに二人揃って少し腹を立てながらも言われた通りに動き始める。
「おうレッカ!お前は無事だったんだな!」
レッカが牢屋の前に行くと、発見時は気を失っていた大女が嬉しそうに大声を出す。
「シェニーさん!思ったよりも元気そうで安心しました」
檻越しの再開を祝いながら、レッカは村から持ってきたのこぎりで柵に使われている木を切り始める。
「お前一人なのか?村長や男衆は?」
下を向いて首を振るレッカにシェニーは全てを察してそれ以上は聞かなかった。
「じゃあ外の傭兵共はどうした?」
レッカはフリックに助けられた事から始まった今まで経緯を簡単にシェニーに説明した。
「不幸中の幸いってヤツか。そいつ本当に信用できるんだよな」
「フリックさんは悪い人じゃありません!何の見返りも求めずに私たちを助けてくれた上に村を襲った傭兵達まで追い払ってくれたんですよ!」
顔を真っ赤にして怒るレッカを宥めながら、一人ぐらいなら自分が最悪何とかすれば良いとシェニーは気を引き締める。
恩人である村長夫妻の忘れ形見くらいは守りたいと思うからだ。
「それでそのフリックてのはどこにいるんだ?」
フリックは今、警戒と自身が姿を見せることでまた囚われていた女性達を怯えさせてはいけないので洞窟の外で待機している。
必死にのこぎりを動かすが、レッカの力では中々檻の破壊が進まず、シェニーが代わると言い出す。
「でもシェニーさん怪我してるじゃないですか!」
「平気だよこれくらい。俺はこんな目に会うのは初めてじゃないしな……」
ぼさぼさの頭を掻きながら苦笑いするシェニーにどういう事か聞こうとするレッカだったが、渋々レッカが渡したのこぎりを動かしながら大きな声でしゃべり始めた彼女に遮られてしまった。
「俺の事はいい!それよりアルマとリーナだ!特にリーナが不味いぜ、完全に心が逝っちまっている」
村一番の美人と言われたアルマは恐怖と疲労からか頬は窶れ、目の下には大きな隈が出来ており、その美貌は失われ何かに怯えるようにずっと震えている。
「アルマ姐さん!しっかりして!もう大丈夫だから」
「レ、ッカ、ハリーは!ハリーはどこなの!」
立ち上がって詰め寄ってくるアルマにレッカは泣きそうになるのを堪えながら、助かったのは自分達姉妹とここにいる三人だけだと告げる。
夫が死んだという辛い現実を突きつけられたアルマの足から力が抜け、倒れそうになったのをシェニーが受け止める。
アルマはそのままシェニーの胸で泣き始めるが、何とか会話の受け答えは出来た。
しかしリーナの方はずっと小さな声でブツブツと呟き続け、何度話しかけても反応が無い。
「とにかくここを出ましょう。なんとか村は最低限生活は出来ますからまずは皆しっかりと体と心を癒さないと」
アルマは未だに泣いてはいるが自力でシェニーがあっという間に壊した牢屋から出て歩き始める。
だがリーナは立ち上がる事さえ儘ならず、仕方なくシェニーが抱き上げて牢屋から連れ出した。
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