四章 襲撃者再びー④
フェアリーは木々の間に隠した3機のドローンを遠隔操作し、エアレーザーのホログラム映像をフリックの背後に投影する。
何も無かった空間に突如現れた巨人に傭兵たちはパニックになり、口々に騒ぐ。
「おい!騒ぐんじゃねえ!こんなもんどうせ幻の魔法か何かだ!ですよね、先生!先生?」
横に立っている筈の、いつも頼りになる魔法使いの用心棒が返事を返してこないので、お頭が横を見てみると用心棒は大口を開けて固まっていた。
「あ、あれは一体どうなっているんだ!魔力が全く感じられない!だとすれば本当に守護神だとでも言うのか!」
自分達の中で一番知識がある用心棒がこの有り様では本格的に不味いかもしれない。
戦うべきか逃げるべきか、判断を誤ればここで一味もろとも全滅の憂き目に会う。
いや、一味が全滅するのは別に構わない。
自分と金さえ無事ならば団などいくらでも再建できるので何も問題は無いのだから最悪捨てゴマにしてしまえばいい。
右往左往する部下を見ながらお頭がそんなことを考えていると、再び道化師が口を開いた。
「貴様達!守護神様が降臨された今、貴様達に勝ち目は無いぞ!これが最後の警告だ。まだ現世に留まっていたいと願うのならばここから全てを置いて立ち去り二度とこの地に近づかぬ事を誓え!さもなくば容赦はしない!」
混乱しながらも僅かに戦意を残していた部下達の心が遂に折れたのか、一人、また一人構えていた武器を下ろしていく。
「おいテメーら!何をビビってやがんだ!たかがデカいだけの像が何だってんだ!俺達はドラゴンモドキだって倒した腕っこき揃いだろーが!」
歴戦の猛者であるお頭の森中に響くほどの叱咤で部下達は落ち着きと戦意を取り戻し、再び武器を構え直す。
「そ!そうだ!やってやるぜ!」
「あいつもぶっ倒して焼いて食ってやる!……ドラゴンモドキ、美味かったなあ」
「え、お前あれ食ったのか!」
部下達が戦意を取り戻したおかげで少なくとも逃げるチャンスを作れる状況に事態が好転し、満足したお頭も武器を構える。
「先生もいつまでも大口開けてないで高い契約料分の仕事をしてくれませんかねえ」
ようやく開いた口を閉じた用心棒も杖を取り出す。
用心棒を生業をしている都合上、契約金分は働かないと自分の評判に関わり、今後の仕事に関わるのだから彼も必死だ。
「さっき焼いて食いたいと言ってる奴がいたな。私が手間を省いてやろう!」
用心棒は意識を集中させ、巨大な火の玉を打ち出す魔法を唱える。
当たった相手が燃え尽きるまで燃え続ける恐ろしい魔法で巨人を焼き尽くす筈だったが、火の玉は形成された瞬間に霧散してしまった。
そして同時に用心棒は糸の切れた操り人形のように地面に前のめりに突っ伏した。
後頭部には穴が開き、肉が焼ける匂いと共に煙が噴き出している。
「思わず撃ったがあれは一体何だったんだ」
木の棒を構えた男が何やら叫んだと思えば突然火球が現れ、危険と判断したフリックが即座に撃ったのだ。
それも捕縛用の低出力では無く、確実に肉体を貫く高出力で。
連合軍の白兵戦装備を付けていれば1、2発くらいなら致命傷にはならなかったろうが、生身で食らった用心棒は苦しむ間も無く天に召された。
「未知のエネルギーを検出しましたが解析する前にアナタのせいで火球が霧散してしまったので不明です」
正直なところ、フリックは装備差的に複数人相手でもまず負けることは無いと思っていたが認識を改める必要性があると痛感する。
今回は火球が発射までのタイムラグのおかげで勝てたようなものだからだ。
魔法という未知の現象に戸惑うフリック達同様、傭兵達も困惑していた。
剣や槍の間合いならまだしも、弓も持っていない道化師が離れた所から見たことも無い武器で一瞬で魔法使いである用心棒の命を奪ったのだ。
折角戦意を取り戻した傭兵たちは自分達の頭にいつ穴が開くかと再び戦々恐々とし、最早戦うどころではなくなってしまった。
流石のお頭も今度ばかりは年貢の納め時と観念し、せめて命だけは助かるように命乞いのセリフを考え始める。
「地面に倒れし者には守護神様の天罰が下ったのだ。貴様らも天罰を下して欲しければ掛かってくるがいい!」
外部スピーカーの音量を全開にしたことでお頭よりも大きい声を聞いた傭兵たちは遂に武器を投げ出し我先にと逃げ出し、総崩れとなる。
中にはお頭の指示を仰ごうとした者もいたが、肝心のお頭の姿はもうどこにも無かった。
「作戦は成功ということでいいのかこれは」
最悪の場合、傭兵たち全員を相手取る事を想定していたフリックは、蜘蛛の子を散らすように逃げていく傭兵達に少し拍子抜けする。
作戦行動中に気を抜くのは軍人失格かもしれないが、自分達や異星人相手にはまず通用しない手が最大限に効果を発揮したのだからそれも仕方がない。
まあ、負傷どころか装備の損耗すらなく傭兵達を追い払えたのだから結果的には自分の作戦よりフェアリーの作戦の方が優れていたという、プライドが傷ついた以外の被害は無いのだから良しとすべきなのだろう。
「軍曹、呆けていないで救出対象者を捜索して下さい。敵が戻って来ないかはドローンで周辺を警戒しますから」
確かにいつ正気に戻った傭兵達が戻ってくるとも限らないのでグズグズしている場合ではない。
フリックは救出対処を捜索するために銃を構え、洞窟をクリアリングしながら進んでいく。
洞窟内は空間自体はそれなりに大きいが深くは無く、救出対象たちは少し大きな窪みの部分に木で作った柵をした簡易の牢屋内に居た。
「救出対象者を確認。人数もレッカから聞いた数で合っていますね」
「ああ、だがこれでは連れ出せそうにないな」
レッカから聞いていた攫われた3人の女性を見つけることは出来たが、問題が発生した。
酷い扱いを受けたらしく全身傷だらけの上、何かうわ言を呟いていたり、フリックを見ただけでパニックを起こし怯え泣き出す者もいる。
「取り敢えず命に別状は有りませんが軍曹が連れ出すことでパニック性の発作を起こしたり暴れて自分を傷つける可能性があります」
折角助けに来たのにそうなっては元も子もない。
フリックとフェアリーが話し合った結果、夜が明けるのを待って顔見知りであるレッカを連れてきて彼女たちを落ち着かせてから村まで護送することにした。
レッカにこの状態の彼女たちを見せるのは酷かもしれないが、それしか手が無いのだ。
「軍曹、夜明けまでまだ時間があります。レッカを連れてくる前にもう一仕事しましょう」
気が進まないことをしないといけない上に徹夜で雑務までまだあるとは、つくづく単身での作戦行動が嫌になるフリックであった。
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