四章 襲撃者再びー②
「なあ、俺らだけで勝手に動いて後でお頭にどやされねえか?」
「そんなこと言ったってよ、俺ら下っ端は分け前が少ねえんだからこうでもしないといつまでも素寒貧だぜ」
どうせ辺りには誰もいないと高を括って大声でしゃべりながら背の低い歯抜けの男と背の高い瘦せ細った男が森から出てきた。
二人はそのまま村の中へと入り、手近な焼け跡に入り何やら物色し始める。
「やっぱもう何も残ってねえって。おまけに用心棒の先生が火まで付けちまったんだからやっぱり無駄足だろ」
「うだうだ言ってねえで探せって!なんかしら取り残しがあるはずだ」
長身の男は愚痴も多くあまりやる気がなさそうだが、低い方は舐め回すように焼け跡の中を探し、焼け焦げた箪笥と壁の間から銅貨を見つけ出しどうだとばかりに長身に見せつける。
「必死こいてそれだけかよ」
「うるせえ!塵も積もれば山となるって奴だ。いいからお前も探せって」
二人は先日村を襲った野盗たちの一味である。
元々だだのギャンブル好きだった彼らは、連敗続きで借金で首が回らなくなり、最近一味に加わった。
新参者の彼らは襲撃の際も村の外で見張りをさせられたせいでおいしい思いが出来なかったうえに、ボスからの報酬も少なかった。
そこで彼らは仕方なく僅かな取り残しに期待を込めて火事場泥棒に来たのだ。
借金の返済期限が迫っている彼らは必死に焼け跡から金目の物を探し回るが、大した物が残っている訳も無く、収穫は芳しくないなかった。
「ち!やっぱり駄目じゃねえか。なんか他の方法を考えようぜ」
「諦めんじゃねえよ。絶対なんか残っている筈だって……」
諦めきれない背の低い方の目に、焼けて壊れたまま放置されている家々の中に一軒だけ修理されている家が映った。
「おい!あの家補修されてねえか」
「みたいだな。どうやら俺達にもようやくツキが回ってきたんじゃんねえか」
顔を見合わせて下卑た笑いを浮かべた二人は、下手な補修がされた家に入ろうとした瞬間、体に電流が走って意識を失った。
「対象の無力化に成功。他に敵影はあるか?」
「ありません軍曹。見事な不意打ちでしたね」
二人をロープで縛り上げたフリックは、フェアリーからの報告に安堵する。
物陰を利用して二人が村中を物色する間ずっと尾行していたフリックは、このまま彼らがこちらの存在に気づかず村を出ていくなら放置するつもりだった。
しかし補修した家に気づかれた時点で彼らを見逃すわけにいかなくなったので、銃の出力を最低にして撃ったのだ。
フリックの持つ銃は、威力を調整することで発射できる弾数を増やすことが出来る機能が付いており、最低にすればテーザーガンの様に非殺傷武器としても利用できる。
動けぬように縄で縛った二人を手近な焼け跡に放り込み、監視カメラ代わりにヘルメットを設置した彼はエアレーザーを置いてあるキャンプまで戻る。
「フェアリー、もう大丈夫だ。彼女たちを下ろしてやろう」
何も無い空間にフリックが話しかけると、突如エアレーザーが姿を現した。
もしもの事態を想定して、姉妹を守る為にエアレーザーのコックピットに詰め込み、さらに光学迷彩機能で機体自体を隠したのだ。
エアレーザーに搭載された光学迷彩機能は完成度自体は高くレーダーに探知されないどころか有視界でも完全に姿を消せる優れものなのだが、大量にエネルギーを食うので戦闘中は使えないという本末転倒な機能で、正式採用はされることはないだろう役立たずな装備だとフリックは思っていた。
しかし使いようによっては役に立つと思い直し、元いた世界に帰還したら提出予定の評価レポートを改めることにした。
機体をギリギリまで地面に近づけてから姉妹を下ろしてやると、事情を知らないアッカはコックピットに興奮してようで楽しそうだが、レッカは侵入者の存在に襲撃の際に負った心の傷が開いたのか青ざめた顔をしている。
「フリックさん、もう大丈夫なんですか?」
フリックは侵入者を捕らえたことを伝えて安心させようとしたが、彼女はまだ少し震えていた。
レッカを落ち着かせるにはどうしたらいいか分からず、フェアリーに助けを求めるフリックに帰ってきた答えは全く理解出来ないものだった。
「簡単です軍曹。彼女を抱き締めてあげてください。それで問題は解決です」
理解は出来ないが、生身の人間である自分よりも人心に精通しているフェアリーがそう言うのならばそうなのだろうと納得し、行動に移す。
「シツレイスル」
「失礼っていったい何をする......キャ!」
一応一言ことわってからレッカを抱き締めると震えが収まり青かった顔も血色の良い赤色に変わったが、今度は微動だにしなくなった。
フリックの方もここからどうしたらいいか分からず固まっていると、二人の様子を面白がったアッカが姉をつついたりくすぐったりしだし、それに反応してレッカが現実に戻ってきたことで二人はようやく離れた。
「少し落ち着いたようですねレッカ」
「フェ!フェアリーさん!フリックさんにおかしな入れ知恵しないで下さい」
「おや、お嫌でしたか。では今後は控えた方がよろしいですか?」
別にそういう訳ではといいよどむレッカに、言葉が分からないフリックはただ巨人と喧嘩する少女を見守るしかなかった。
「ではこれからもあなたのお手伝いをするとしましょう。さて、お遊びはここまでです。軍曹、お客様がお目覚めのようですが如何いたしますか?」
「捕虜にすることなど決まっている。尋問だ」
「くそ!どうなってやがんだ!」
目を覚ました背の低い方が縛られた手足を解放しようと悶え動き回るが、きつく縛られたロープが解けることはなかった。
「村人は皆殺しにした筈だろ!もしかしてもう騎士団の奴等が嗅ぎ付けたんじゃ!」
長身の方はパニックなっているのか冷や汗をかいている。
「皆死んでるのに誰が街まで報せに行ったってんだ!......じゃあ俺らを縛ったのって何者なんだ」
隣で取り乱している相棒のお陰で少し冷静さを取り戻した背の低い方は考える。
村人は皆殺しにしたのでで生き残りはいない筈。
かといって治安維持組織である騎士団がこんなに早く辺境の開拓村の異変に気付く訳もない。
考えが堂々巡りを始めたところに、ぴったりとしたおかしな服を着た金髪の若者が現れた。
「あなた達がこの村に来た理由を教えてください」
男にしては女みたいな声を出すことにさらに違和感を覚えながらもとりあえず沈黙することにする。
「沈黙はあなた達の為にならないと思いますよ」
「うるっせえな!俺たちがどこで何をしようと俺たちの勝手だろうが!」
沈黙を守ると決めた背の低い方と違い、長身の方は我慢しきれずに叫ぶ。
「そうですか、仕方がありません。少々痛い目に遭って頂くしかありませんね」
言い終わるやいなや、奇妙な若造は返事をした相棒の腹を思いきり蹴りつけた。
蹴りつけられた相棒は朝飯を吐きながら噎せ返る。
「我々はあまり暴力は好みません。もう一度聞きます、貴方達はこの村に何をしに来たんですか?」
フェアリーに合わせてフリックが睨みつけると、痛みと現役軍人の威圧に負けた長身の男はズボンを濡らした。
「分かった!しゃべるからやめてくれ!」
所詮はギャンブルが好きなだけの元々はただの街の不良な彼が、この状況に耐えられる訳が無かったのだ。
背の低い方も、自分まで蹴られるのはごめんとばかりに一緒になってしゃべり始めた。
自分達は先日村を襲った野盗、元は傭兵団の下っ端であり、今日は少ない報酬の穴埋めをする為に火事場泥棒をしに来たという。
「命ばかりは助けて欲しいと泣き喚いていますがいかがいたしますか?」
フェアリーが話している彼らをモニターし、脈拍などから彼らは嘘を付いては確認できている。
流石にそんな彼らを縛ったまま撃っては私刑に当たるので、軍人であるフリックがそんな真似をする訳にはいかない。
それよりも彼には気になる情報があった。
傭兵団が何人か女性を捕虜にしていると言うのだ。
「二人に伝えろ。お前達の命は助けるが代わりに傭兵団の本拠地を吐け、と」
床に這いつくばったまま二人は助かりたい一心で必死に首を振って了承した。
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