二章 燃え盛る村の姉妹ー①
王国の外れ、近隣に街や村も無い辺鄙な場所にある開拓村ザッケ村。
20年前に夢と希望と共に第二次開拓民としてこの地に移り住んだ人々は、役人から聞いていた話とは違う土地に絶望した。
作物が育ちにくい痩せ細った土地の所為でどれだけ働いても大した収穫は得られず、獲物を求めて森に入れば果実がなる木が無い所為で獣はおらず、村は何年も貧しい生活から抜け出すことが出来なかった。
それでも村人達は諦めずに一所懸命に痩せ細った土地を耕し、第一次開拓時の無計画な植林のせいで荒れ果てた森を整備して甦らせることに成功した。
今年はそんな村人達の努力の成果と、天候にも恵まれたおかげで畑の作物はよく実り、森に入れば丸々と太った獲物が闊歩し、冬の保存食を作ってもまだ有り余るほどの糧を得ることが出来た。
冬備えと畑の収穫がひと段落したこの日、村人たちは村の中央の広場に集まって大量の収穫と森からの恵みを祝ってお祭り騒ぎを始めた。
男達は皆開拓以来初めての満足のいく貯えと売る用の作物と毛皮の山に喜びを抑えきれず、口々に次に行商人が来た時にどれだけの儲けになるか楽しみだとか新しい農具が欲しいだとか言い合い、誰かが倉庫から持ち出した酒のおかげでさらに祭りは盛り上がる。
女達も大騒ぎする男達に呆れながらも外に調理器具を引っ張り出してきてふんだんな食材で豪華な料理を作る。
そんな大人達に混じり、少し赤みがかった肩まで伸びた髪をポニーテールに纏めた少女、レッカも母と一緒に大鍋で作ったシチューを村人に振舞っていた。
彼女が鍋をかき混ぜる傍らではレッカと同じ髪色の幼い少女がどこからかせしめてきた串に刺した肉にかぶりついている。
「もう、アッカ!口の回りがベタベタじゃないの!ほら、吹いてあげるからじっとして」
村でも有名な面倒見の良いしっかりとした姉と評判のレッカは、懐からハンカチを取り出すと、わんぱくな妹が汚した口回りを綺麗にする。
姉妹の仲睦まじい様子に周りの村人達は皆嬉しそうな顔をしている。
長年貧しく生活が厳しいせいもあってか、中々子宝に恵まれる夫婦がおらず、子供ができても子育ての為にと村を離れる者も多かった。
その為、村に今いる子供は村長夫婦の娘であるこの姉妹だけで、村の大人達は皆自分の子のように思っていた。
大量の収穫に仲の良い姉妹、ずっと苦労してきた村人達は村を開拓して以来一番かもしれない幸せを噛み締めていた。
だが、村人達の細やかな幸せは馬の蹄の音と男達の怒号によって打ち砕かれることになる。
村外れから突如現れた野盗たちによって村の広場はお祭りムードから一転し、悲鳴飛び交う惨劇の現場へと変わってしまった。
「うはははははは!野郎共!食い物、金目の物、女!欲しいもんは全部奪っちまえ!」
リーダー格の太鼓腹の男の言葉が引き金となり、広場に乱入してきた野盗達は次々と村人を惨殺しながら家々に押し入っては手当たり次第に目当ての物を奪っていく。
若い女たちはその場で服を引きちぎられて所かまわずに犯され、中には気に入った女を連れ帰る為に縛って馬に括り付ける者までいた。
レッカとアッカの二人も両親と共に逃げ惑うが、どこに逃げても広場から村人達を逃がさないように野盗達が行く手を阻み、広場から逃げることが出来ない。
「キャア!お姉ちゃん痛いよ―!」
無理に手を引かれて走っていたアッカが足を縺れさせて転んでしまった。
慌ててレッカが助け起こそうとした瞬間、風を切る音共に肉を貫く音がした。
背中越しに血を浴びた感触にレッカが振り向くと、両親の体に二人を庇って幾本もの矢が深々と突き刺さっていた。
自分達が助からないことを悟った両親は最後の力を振り絞って姉妹を隠すように覆いかぶさる。
「お父さん!お母さん!」
手当てをする為に両親の下から抜け出そうとする娘を父の大きな手が押し留める。
「動くんじゃない!俺達はもう助からん!せめてお前達だけでも生き残るんだ」
「レッカ、アッカの事、頼むわね」
両親からの最後の言葉に、レッカは大声で泣きたい衝動を必死に堪えながら訳も分からずに泣くアッカの口を押える。
近くで同じ様に剣で斬りつけられて地面に伏しながらも辛うじて意識を保っていた村人も、村長夫妻の行動を見て被さっても隠し切れていない隙間を埋める様に這って移動して姉妹を隠す。
同じ様に他の村人達も動き、村で一番価値のある物を必死で隠す。
野盗たちは少しずつ大きくなる死体の山を不思議には思いながらも、不気味だと思い調べようとはしなかった。
村中から奪い、犯し、殺しつくした野盗達は満足したのか、村から引き上げていく。
「頃合いだな。先生、お願いします!」
部下たちの撤退が終わったと判断したリーダー格の男は、高い金を払って用心棒として雇っている魔法使いを呼ぶ。
「分かった。ヴォルケレイン!」
森の木々の暗闇から現れたローブを纏った魔法使いは杖を取り出し魔法を放った。
杖から飛び出した大きな火球は村の空高く上ると弾け、火の雨をまき散らす。
降り注いだ火の雨のせいで村の家屋は次々に燃え、どんどん連鎖してあっという間に村中が火の海に包まれた。
家が、人が焼ける匂いを嗅ぎながら、レッカはこんな悪夢から早く目覚めたいと必死に祈る。
しかしこれは悪夢ではなく現実であり、祈りが届くことは無かった。
段々と体温を失い冷たくなる両親を感じながら、精神の限界を超えてしまった姉妹の意識は次第に薄れていった。
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