ワームホールに吐き出された先は異世界でした
武海 進
一章 ワームホールの先はー①
巨大な光の濁流が一隻の巨大な宇宙船を飲み込み、漆黒の空間に眩い閃光を生じさせた。
「二番艦ラーゼアン轟沈!……脱出ポッドは確認できません」
艦橋でレーダーを見ていた女性オペレーターが悲痛な顔で絞り出すように言う。
「なんという威力だ、敵新型艦の主砲は……」
無限に広がる夢のフロンティア、宇宙がそう呼ばれていたのは40年も前の話で、今では宇宙とは戦場を指す言葉でしかない。
人口増加、資源不足等の理由により、新天地や植民地を求めて地球を飛び出した人類を待っていたのは、無限に溢れる資源や未知の惑星だけでは無かったのだ。
大昔から議論が続けられながらもその実在について結論が出なかった存在、異星の生命体。
広大な宇宙で偶然にも異星の生命体、それも自分達と同じように文明を持つ異星人とも呼ぶべき者の存在を確認した人類は未知との遭遇に胸を躍らせた。
そして人類は彼らと新たな友人として交流を深めるべく友好使節団を派遣した。
だが、彼らの返答は友好では無く闘争だった。
派遣されてきた使節団を皆殺しにした異星人たちはその後次々に人類がテラフォーミングを行い植民地化した惑星を侵略し、宇宙を旅するための中継地として作られたスペースコロニーも手当たり次第に破壊していった。
宇宙での戦闘経験など無く、宇宙空間で使用できるまともな武装が無い人類は瞬く間に劣勢に立たされた。
しかし、人類もただ滅びを待つだけでは無かった。
宇宙空間での戦闘に特化した有人ロボット兵器であるスペースアーマー、通称SAの開発を成功させ、反撃に出たのだ。
こうして一方的に始まった何故起こったのか分からない異星人との戦争は一進一退の状態となり、戦争は泥沼の長期戦へと発展し、今日至る。
「シュタイナー軍曹はまだ出れんのか!」
艦長に急かされ、通信担当のオペレーターがSA格納庫へと通信を繋げる。
「こちらシュタイナー軍曹、エアレーザーに試作型反粒子ライフル装備完了しました」
異星人により大幅に版図を失った人類は共通の敵を前に国という枠組みを捨て去り一致団結し、人類連合軍を組織した。
今、出撃を急かされている彼、フリック・シュタイナー軍曹は人類連合軍の試験兵器を戦場にて運用し、実戦でのデータ収集を目的とした独立部隊、試作兵器試験運用部隊所属のSAパイロットである。
「よし、ぶっつけ本番で悪いが頼むぞ。こちらで陽動の為に発進後30秒間弾幕を張る。その隙に敵新型艦に接近し、たっぷりと予算が掛かっているそいつをぶち込んでやれ!」
「了解。エアレーザー、発進!」
フリックの合図と共に運用部隊旗艦であるタナトスの格納庫から、フリック専用機であるエアレーザーが漆黒の宇宙に解き放たれる。
機体背部のバーニヤを全開で吹かし、宇宙空間に溶け込むよう塗装された黒のSAが飛ぶ。
「軍曹、タナトスよりの援護射撃を確認。モニターに敵新型艦までの最短ルートを表示します」
「分かった。フェアリー、今回も頼むぞ」
ライフル同様、試作機体であるエアレーザーには他のSAには無い機能である、パイロットの補助を目的とした人工知能が搭載されている。
合成音声が女性声なのと名称はプログラマーの趣味の様で、再設定を一切受け付けないというこだわりぶりだ。
タナトスの援護射撃により、もう少しでライフルの有効射程距離に入るという所まで到達した途端、フェアリーが警告を発した。
「軍曹、敵艦主砲のエネルギー収束率が急上昇しています。このままでは再発射までに有効射程距離に入れません」
フリックは限界一杯まで機体を加速させるが、無情にもその時は訪れた。
「敵主砲のエネルギー収束の完了を確認。軍曹、残念ですが間に合いません」
先程、味方艦を一撃で沈めた敵主砲がタナトスへと砲塔の向きを変える。
「いや、まだだ!」
フリックは機体のコースを変え、タナトスと敵主砲の間へと機体を割り込ませるコースを取る。
「少佐、これは自殺行為です。敵主砲の攻撃と反粒子ライフルのビームがぶつかり合った場合どうなるか分かりません。直ちに機体のコースを修正してください」
「どちらにしろタナトスがやられれば俺に生存の可能性は無くなる。御託はいいからライフルに全エネルギーを回せ」
「了解しました。反粒子ライフルへのエネルギー急速充填を開始します」
なんとか敵主砲が発射される直前、タナトスとの間に割り込むことに成功したフリックは、エネルギーが最大までチャージされたライフルの一撃を巨大な砲塔から放たれたビームの奔流に向けて放った。
ビームとビームがぶつかり合い弾け、黒い戦場が白い光で塗り替えられた。
「敵主砲と反粒子ライフルによる攻撃の対消滅を確認。当機及びタナトスへの損害軽微、敵主砲のオーバーヒートを確認」
「俺の方は軽微とは言い難いがな」
敵主砲と同等の威力を発揮したライフルのおかげで、助かりはしたものの対消滅の反動で激しく揺さぶられた機体のせいでフリックはコックピット中に体を打ち付けられる羽目になったのだ。
「せいぜいが打撲傷程度なのですからあなたの損害も十分軽微です」
嫌味すら言ってくる高性能なAIにタナトスとの通信を繋げさせようとするが、ビーム同士の対消滅の影響でモニターにはホワイノイズが走るばかりだ。
「通信が繋がらない以上仕方ない。フェアリー、艦長の指示が仰げない今、ここからは俺の独断で動くぞ」
フェアリーの返答よりも早くフリックはエアレーザーのバーニヤを吹かせて機体を再び敵艦へと向かわせる。
「待って下さい少佐。対消滅地点に謎の反応を確認しました」
最大望遠で対消滅地点を確認したフリックは通常の宇宙空間ではありえない、周りを漂っているスペースデブリや隕石を吸い込む渦に絶句した。
「あれは、ブラックホールなのか……」
「否定。ブラックホールでは無いのは断言できますが、詳細は不明です」
フリックはタナトスに一旦帰還するかどうかどうか逡巡するも、機体を前へと進ませる。
しつこく警告してくるフェアリーであったが、フリックの意思が変わらないと諦めたのか、警告の代わりに謎の宇宙の渦潮を避けて通るコースをナビゲーションし始めた。
細かく操縦桿を操作し、ナビゲーション通りのコースで敵艦に肉薄しようとしていたエアレーザーが突如激しく揺さぶられ、機体のコントロールが効かなくなる。
「ぐ!どうしたんだ!機体の異常か!」
「違います。対消滅地点での異常現象が拡大し、その勢力圏に捕まってしまいました。当機の出力では脱出は不可能かと思われます」
絶望的な知らせに普段感情をあまり表に出さないフリックの顔にも焦りが見られ、何とか抜け出そうと抗うもののエアレーザーは無慈悲にも巨大な渦へと呑み込まれていった。
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