セミを女子って嫌がらないのか?、俺は嫌だ。

「むう……鳴き声からして、アブラゼミしかいないみたいね……」

「一応、ここはさびれているとはいえ人口が多い。都会と呼べなくもないからな」


 セミ取り決行の日。(ヒルネがなぜか、セミにこだわったのだ)

 目をつけていた近所の、小さめの森林にやってきた。(俺が小さい頃に遊んだことがある)

 虫取りあみと虫かご一式を装備したヒルネは、少し不満そうだった。


「クマゼミやヒグラシは夢を見過ぎだとしても、ミンミンゼミ、ニイニイゼミくらいいて欲しかった……」


 俺にはそれらの違いが分からない。


「セミはげ物にするとおいしいんだよ? 特にアブラゼミはあぶらがのっていてね……」


 とっておきの知識を披露ひろうした、みたいな顔をするな……!


「嘘だ、絶対嘘だ。『あれ? もしかしたらそうなのかも……』と判断に迷うようなトリビアをでっち上げるな」

「今度、ごちそうしてあげるよ……」

「最大級の遠慮をしておく」


「ええ~……、というか食べたことあるんじゃない? シエスタと一文無しで、世界中を旅したんだろう? 飢えに耐えかねて、昆虫に手を出したことはないの?」

「そこまでだ、ヒルネ。忌まわしい過去の記憶がよみがえるから、その辺で……」

「やっぱりか。食べてみると意外といけると、昆虫食に目覚めたんじゃないかい?」


 お前、本当に俺をいじる時は楽しそうだな!

 姉にそっくりなサディストだよ!!


               *


 今は最高気温35度を超える、灼熱しゃくねつの真夏、真っ盛り。

 集合は、気温がようやく下がり始める午後五時にした。

 立体〇動装置ならぬ、虫捕獲装置を装備した俺たちは、半日近く、森の中を存分に駆けずり回った。(水分補給は適切に! 熱中症に注意!!)


 夏凪は平然と、斎川とシャルは童心どうしんを想い起こして、嬉々ききとして「うおりゃあー!!」「あはは~~」と森の中を駆け回り、茶色く光る戦利品を集めている。

 唯一の男子たる俺は、網で捕らえたブツをかごに移すのさえ、おっかなびっくりだっていうのに。

 え、ヒルネ? 

 ヒルネは……ノーコメント。


 日が傾く頃、それぞれの結果を見せ合う。


 夏凪5匹、斎川7匹、シャル12匹、俺3匹。

 そしてヒルネ、なんとまさかの0匹。


「言い出しっぺのくせに、やっぱり運動音痴おんちだな」

「だまれぃ」


 ヒルネは短い一言しか罵声が出てこないくらい、顔をくしゃくしゃにして悔しがっていた。


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