第20話:危険は忘れた頃に2

「お前! この状況わかってのかよ!?」

「私に言われたって困るんですけど?!」


 さっきまでのやり取り見てた?

 私が『是非、連れてって下さい!』って、言いましたかってーの!


 アルマに首根っこを猫みたいに摘まれて、シドハルと共に部屋に連れてこられたと思ったらこれだ。まったく、たまったものじゃない!


「しかし、司祭の狙いは明らかです」

「帝国との戦闘のどさくさに、嬢ちゃんを殺害するって算段だろうよ」


 目の前の三人がとっとと話を進めてしまうが、単純な疑問が私にはあります。


「そんな回りくどい事する必要ある? こう言ったらなんだけど、あなた達が居ない間に私を襲ったほうが確実だと思うんだけど?」


 言ってる自分の方が恐ろしくなるけど、私だったらそうすると思います。


「呪いの条件は大衆の面前で貴女を殺すこと。つまり、不特定多数の認識、承認が必要だと思われます」

「王宮に一人で残った嬢ちゃんを殺しても、世間は侍女が王宮で殺された程度にしか認識しないだろ。しかし、堂々と戦場に連れ出して大衆の注目を集めさせてしまえば、後はどうにでもなるって事だろう」


 そんな事、全然思いつかなかった……。

 でも、王宮でスキだらけだった自信はあるので、襲わなかったのはそれが理由なのかも。


「しかし、司祭も一歩遅かったよな!」

「え? どう言うこと?」

「既に純潔では無くなった貴女に、生贄の資格は無いでしょう」

「へぇッ⁉」


 私のバカみたいな声に、シドハルが顔を見合わせ、そして、アルマの方を見た。


 あぁ! コイツ、露骨に目をそむけたなぁ!


 そんな見え見えな態度の私達を見て、シドさんが躊躇ったようにアルマに問いかけた。


「お、お前、まさか……」

「うっせぇ!! 悪いかよ!!」


 その言葉を聞いてたハルさんは愕然とし、シドさんは私に『本当か?』と、視線を送って来たので、そっと目をそらしたらガックリと沈んでいた。


「…………このヘタレ野郎」

「だ、誰がヘタレだ!!」

「テメェだよ!!」


 アルマのヤツ、私が泣き出したことは口に出すつもりはないらしく、横ではアルマとシドさんの楽しそうな口喧嘩が続いている。


 助ける気は無いですよ?


「そんなことより、これからどうするかが問題だろが!?」

「王の命令です。彼女を随伴させるより他ないでしょう」

「そうは言っても、あの司祭から言い出したことだぞ?」

「絶対、罠だよなぁ」


 まぁ、そうだよねぇ。

 わざわざこんなに手が込んだ準備をしておいて、何も起こらないはずがない。


「ところで、お前は何か出来るのか?」

「え? 私!?」


 そうだ。戦場に付いていくって言っても、ただのお荷物になったら、それこそアルマたちに迷惑だ。ただ、軍隊に居たことなんて無いし、何が出来るって聞かれても……


「実際に貴女が戦うわけでは無いので、そう深刻に考える必要はありませんよ?」

「そうさ! 嬢ちゃん、騎乗なんて出来ないだろ?」

「いや、それは大丈夫ですけど」


 ん? みんな信じられないって顔して、心外なんですけど。そんなに私が馬に乗れるの意外ですか?


「私の暮らしていた田舎じゃ、牧場で赤ちゃんの頃からお世話して育ててますから」

「ああ、それで……」

「食事の用意やケガの治療などは?」

「王宮で出されるようなものは無理ですけど、普通の料理は大丈夫です。ケガの治療は牧場の動物相手だったけど、応急処置とかは一通り……」


 な、なんだ⁉ その珍獣を見るような目は?

 その程度じゃ、役に立たないって言いたいのか?


「なぁ、この嬢ちゃん、実はめちゃくちゃ有能なんじゃないか?」

「実際に働きを見ないと分からん。あんまりおだててやるなよ? 調子に乗られても困る」

「どういう意味よ!?」


 いつの間にか、アルマのヤツと平気で話すことが出来ている。朝はあれだけ会うのが怖かったのに。


「そんじゃ、まぁ、気合い入れて出発の準備すっかぁ!」


 こうして私は、アルマ達と共に戦場へと向かうことになったのでした。

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