第18話:兄弟喧嘩3
どうしてこんなことになったんだ?
いつの間にか椅子に縛り付けられた私は、闘技場の真ん中に座らされています。
「ちょ、ちょっと、シドハル! ちゃんと説明しなさいよ!!」
「勝者に賞品が無いと、盛り上がらないでしょう?」
「それが、なんで私なの⁉ それに、どうして縛られてるの!!」
「だって、縛らないと逃げるだろ?」
そりゃ、逃げるでしょうよ⁉
何だったら、このまま椅子を持ってでも……、って、椅子が固定されてるじゃないか!!
「
なんて余計な気を回してるんだ、ハルさん!
「まぁまぁ、せっかく特等席で見られるんだからさぁ」
そんなこと頼んでないぞ、シドさん!
それに、周りを見渡すと兵士達や一般の人達など結構な人が集められている。
「な、なんでこんな大々的なことになってんの?」
「わざわざ闘技場を用意したんだ。立会人が多い方が後腐れないだろ?」
そ、それはそうかもしれないけど、その人達に今の私はどう思われているんだ⁉
そんなことを考えていると、準備を終えた二人の王子が闘技場に姿を現し、観客からは盛大な声援が巻き起こった。
お互いにしっかりと鎧を着込んで、手には短槍と盾まで装備してまさに完全武装だ。
「ちょ、ちょっと、張り切りすぎじゃないの⁉」
「刃は付いてないし大丈夫だって。それに、観客の手前、中途半端なことは出来ないだろ?」
確かに槍の先端は木で出来ていそうだけど……。
二人は闘技場の真ん中に進んで来ると、私の目の前で対峙した。
お互いに言葉は無いけど、緊張感はこっちまでヒリヒリと伝わってくる。
「それでは、アルマ王子とザイル王子の両名による決闘を執り行う!」
「け、決闘⁉」
私の声は観客の大歓声にかき消される。
「では、始めぇ!!」
※※※
序盤から戦いは想像以上に激しかった。
アルマは短槍の持ち方を変えたかと思うと、ザイルに向けて物凄い勢いで投てきした。
「え? 槍って投げるの⁉」
私は突くものだと思ってましたけど……。
「そりゃそうだろ。距離も威力も違うしな」
どうやら常識らしい。もう、戦い方に口出しするのは止めよう。
ザイルは投げられた槍をギリギリで躱すと、負けじと槍を投げ返していたがアルマの勢いには遠く及ばないと素人の私にも分かる。
そして両者はお互いに木剣を構えた。
アルマの木剣、私には大分短いように見えるが、アレにも理由があるんだろうか?
「アルマは機動力を活かした戦闘スタイルを好みますから、取り回しがよい武器を使っているんです」
ハルさんが何も言わずに説明してくれた。
……私、また顔に書いてありました?
リーチを活かしたザイルが、素早いアルマに翻弄されている。
このアルマの戦いを見て、私はアルマの評価を上げざるを得なくなった。
アルマのヤツ、メチャクチャ強いじゃん……。
そして、徐々にアルマが圧倒し始めて、戦いが終盤に近づいたのを感じた観客からの歓声は激しさを増している。
そこで急に、司祭の言っていた言葉が脳裏を過った。
あれ? 確か司祭が言ってた条件って……
そして、この戦いの最後にそれは起こった。
アルマの攻撃に圧倒され、防戦一方だったザイル王子の足元に序盤に投げあっていた短槍が突き刺さっていたのだ。
ザイルはその槍を手に取ると、アルマに向けて力一杯に投てきした。だが、その射線は何故かアルマの方ではなく、私の方へと飛んできた。
例え刃が付いていなくとも、尖った槍の先が当たればタダでは済まない。逃げようとしても、私は椅子に縛り付けられたままだ。
投げられた槍はどんどんと突き進み、命中すると私が確信した刹那、槍と私の間に何かが立ちはだかった。
それが盾を構えたアルマだと認識出来た時には、轟音と共に槍が構えられた盾に突き刺さっていた。
呆気にとられていた私の視界がたまたまザイルを捉えると、彼も何が起こったのか分かっていない様子だ。もしかしたら、槍の飛んで行った方向も彼の意図したものでは無いのかもしれない。
しかし、その後のアルマの動きは速かった。盾を捨てたアルマは、あっという間にザイルに肉薄すると、そのまま木剣をザイルに叩き込んで彼の意識を奪い去ってしまったのだ。
「勝者、アルマ王子!」
こちらの気持ちが戻って来る前に、シドさんがアルマの勝利を宣言すると、観客からは割れんばかりの歓声に包まれた。
「では、勝者には賞品を」
「はぁ? それって……」
そんな疑問を口にする前に、私達はシドハルによって闘技場から連れ出されたのだった。
※※※
私はアルマと一緒に彼の部屋へと押し込まれてしまった。今思えば、これはハルさんの策略なのではと思ってしまう。
私の純潔さえどうにか出来れば、相手は誰でも良いってことなのか⁉
「クッソ! あいつ等……」
さっきから文句を言っているアルマだけど、何だか彼も必要以上にこっちに絡んで来ようとしない。
と、言うか、目すらこっちに向けようとしない。
「ねぇ、私、何かした?」
「あぁ? 別に何でもねぇよ……」
「ウソ! だって、いつも見たいに悪態ついてこないじゃない」
「お前、俺を何だと思ってんだよ」
それでも全然顔を見せないアルマに、少し悪戯してやろうと思い立ったのがいけなかった。
気配を消してアルマの後ろに迫り、彼の間合いに入った途端に私はベッドに放り投げられてしまった。
「ちょっと! イタズラしようとしただけ……」
文句を言った先に立っていたアルマは、今までの彼とは別人の様だった。
「戦いで昂ってんだ。正直抑えられる自信がねぇ」
「え⁉ ちょ、ちょっと!!」
ベッドに横たわる私の上に、アルマの重みが加わる。私の両手は、片手で簡単に押さえ込まれてしまって身をよじるくらいしか抵抗する術が無い。
あっ、私、コイツに……
「……はぁ、やめだ」
え? 何で急に……。
「そんなボロボロ泣いてるヤツを抱けるほど、鬼畜じゃねぇよ」
「えっ?」
――本当だ。
泣いているつもりなんてなかった。なのに、なのに何でだろう。目から自然と涙が溢れてくる。
「……すまなかったな、つまんねぇことに巻き込んじまって。俺のこと、本当は嫌いなんだろ?」
「え、い、いや、これは……」
しかし、即座に否定できない私が居る。
この涙は乱暴にいきなり迫られたから?
だったら、状況が状況なら良かったの?
分からない。私が彼をどう思っているのか。
「もういい。出て行ってくれ」
アルマに部屋からそっと追い出された私は、自室でしっかりと泣いてしまった。
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