第2話:生贄の少女2
あれ? 何やらご不満な様子の司祭様。
私の反応がお気に召さなかったようです。
だって、今日一日で何度驚かせられたんだって話ですよ。少しは私の立場になって頂いてもいいと思うんですけど?
「あ、あの、生贄って……」
「ああ。貴女が選ばれた少女です。なにか不都合がお有りでしょうか?」
そりゃ、大アリなんですけど!? 生贄って、もっとこう、選ばれた人間? みたいな人がなるんじゃないんですか?!
どこかの国のお姫様とか、絶世の美人とか!
こんな町娘Aみたいな私が何で? って話です!!
あ、町娘Aさんに失礼だった。私はCで良いです……。
「ど、どうして私なんですか?!」
「知りません」
「え?」
どういう事ですか?
「生贄に選ばれる者は、ドラゴンアイと呼ばれる水晶に映し出されるのです。何故と聞かれても、私達にも皆目検討が付きません」
「そ、そんな理由で、私は連れてこられたんですか?!」
「そうです」
ああ、ダメだ。この人の話、全然分かんない。
ドラゴンアイ? 水晶に映し出されたって、魔法か何かですか?
私、魔力なんて無いんですけど! 普通の人間なんですど!
まぁ、これだけ大掛かりな方法で私を陥れようとするような人にも心当たりはないんですけど……。
「ところで、君は処女ですか?」
「え……え? あ? はぁぃぃぃ?!」
いきなり何聞いてんだ?! この人!!
「まぁ、聞かずともドラゴンアイに映された時点で間違いないとは思いますが……」
「え?」
そう言って司祭の右手が、私の服の首元をおもむろに掴んだかと思うと、その右手がいきなり凄い勢いで引き下ろされた。
ビビビィィィ!! という音と共に、私の体にスウスウとした外気が触れる。
驚きを通り過ぎて、一瞬呆然としてしまっていたが、私の服は見事に引き裂かれていたのだった。
「い、イヤあぁあッ!!」
「その反応は、間違いなく生娘のようですね」
……怖い、怖い、怖い!!
「心配せずとも何もしませんよ。儀式には純潔の少女が必要なのでね」
何もしない?
人を勝手にこんな所に連れてきて、挙げ句の果てに服を剥ぎ取って何もしない?!
いくら温厚な私でも、ここまでされたら流石にダメだ……
「どうしました? 声も出せないですか? まぁ、その方がこちらも都合がって、ウグッ!!」
私は右足を思いっきり股間に向けて蹴り上げてやった。
ざまぁみろ! 余裕そうに隙だらけで近寄って来た、あんたが悪い!
き、生娘だろうが、男の弱点くらい知ってますって話だ!
思いのほか効きすぎて、白目向きそうになってるのはちょっとだけアレだけど……
そんな司祭から祭服のマントを剥ぎ取って、羽織ると全速力で地下室の扉を目指す。
こんな小娘に、なにか出来ると思っていなかったのか鍵すら掛かっていなかった。
「お、追えぇぇ!! ぜ、絶対に逃がすなぁぁ!!」
そうは行くか! 町娘Cの脚力舐めるな!
※※※
「ど、どこに行った!?」
「いないぞ?! どうなっている?」
うわぁ、探してる、探してる。
地下室から出たまでは良かったけど、流石に初めて連れてこられた場所だけあって、まったく行き先が分からずに行き着いた先は食料庫?のような場所だった。
とっさに置かれていた空の樽に身を隠して兵士たちをやり過ごしたものの、このまま
そう思っていた時、いきなり世界が反転した。
「おい! この樽を城の入り口まで運べばいいのか?」
「ああ、廃棄予定の空樽だ」
「空樽? ちっと重くねぇか?」
ヤバい! ヤバい!!
蓋は閉めてあったけど、このまま中を調べられたら即捕まってしまう!
「チッ、廃棄予定だったからな。不用品まで樽に詰め込みやがったんだろ」
ナイスフォロー!
はい、そうです。私、不用品でございます。
「いいから、さっさと運んじまってくれ」
「ああ、それにしても何の騒ぎだ?」
「何でも脱走者らしい」
「脱走?」
「ああ、しかも若い女が裸で逃げ出したらしいぞ」
し、失礼な! 誰が裸だ! ちゃんとこうしてマントを巻いていますとも。
「若い裸の女ねぇ……」
「おいおい、変なこと考えるなよ? 手を出したら命は無いって話だ」
「何だそりゃ? 本当に犯罪者なのかそいつ? それとも、どっかのお姫様なのか?」
「俺が知るか! ただ、お姫様は無ぇだろ」
「ハッ、違ぇね!」
正解! お姫様では御座いません。ただの町娘Cです。
そうしているうちに、樽として抱えられた私は、人生最悪の乗り物に乗る羽目になった。
※※※
……ダ、ダメだ。
こ、これは、しばらく動けそうにない……。
樽として揺らされ続け、最後には城のゴミ捨て場に投げ捨てられる徹底ぶりだ。
あちこちぶつけて体は痛いし、馬車なんて比較にならないくらい気持ちが悪い……
ただ、投げ捨てられたときに外れた蓋のあった場所から外を覗くと、間違いなく外には連れ出してもらえた様だ。兵士たちもまだ地下を調べているのか、周囲からも何かを探しているような気配はしない。
体は痛いが仕方ない。兵士たちの捜索が地下から拡がればそれこそ厄介だ。
手に入れたマントを要領よく体に巻き付ければ、ちょっとしたワンピースに見えなくも……、ないよね?
やっとの思いで樽から這い出して目に映った光景は、今までに見たこともない程の立派な城と庭園だった。
改めて、別世界のような場所に来てしまったのだと感じる。
まぁ、今居るところはゴミ捨て場ですけど……
さて、まずはこのお城から逃げ出さなければ!
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