第1話:生贄の少女1
「あ、あの、何か御用でしょうか?」
こんな辺境の田舎町には不釣り合いな騎士の集団に向けて私は尋ねた。
完全無視とは、恐れ入ります。
農作業から帰って来てみれば、妙な人達が家を囲んでいたので話し掛けてしまったのが運の尽きだ。
「あ、あの、ここ私の家なんですけど……」
精一杯の気遣いを込めて『邪魔だ! 退け!』と、伝えてみたのが功を奏したようで、騎士の一人から反応があった。
「お前がここの家主か?」
「は、はい。エナと申します」
顔を見合わせて話し合う騎士達を横目に、平静を装いながらも私の心の中では、『何したんだ?! 私!!』の自問自答タイムが繰り広げられている。
生まれてこの方、悪事に手を染めた覚えはないし、家だって両親が残してくれた持ち家だ。家賃滞納とかでは断じてない!
「おい、お前!」
「は、はい⁉ な、何でしょうか」
「一緒に来てもらおうか」
え? 何処へでしょうか?
※※※
うぅ、気持ち悪い……
生まれて初めて馬車なんてものに乗せられてみたものの、揺れはヒドイし、お尻も痛い!!
やっとの思いで着いた先。それはド田舎で育った私には眩しすぎる場所だった。
「あ、あの、ここって……」
「……王都だ」
そんなに哀れなものを見るような視線を送らないで欲しい。居たたまれなくて返事してくれたのには感謝しますけど。
馬車の窓から見える街中は、町のお祭りの時と比べても、人通りがめちゃくちゃ多い。
いけない。また、気持ち悪くなって来た……
しばらく街中を進んだのに、未だに目的地に着かないなんて、一体どこに向かっているんだろう?
そんな当然な疑問を持ちつつも、馬車はどんどん街の中心部へと進んで行き、そして、馬車はこの国で最も大きな建物の前でやっと止まった。
「あ、あの、ここって……」
「……王宮だ」
ええ、ええ。流石、もう慣れていただけましたか。私もあなたの残念そうなものを見る視線には慣れましたよ! ざまぁみろ!
こんな田舎娘には絶対に踏み込めないような場違いな所に連れてこられて、卒倒しなかった私を褒めて欲しいくらいだ。
「ついて来い」
騎士の案内に従って、私はお城の中へと足を踏み入れることになった。
※※※
「あ、あの……、ここって……」
「ここで待て」
ここで待って、まさかここですか……
私が案内された場所は地下の一室だった。当然、窓もなく松明の火だけでうす暗い。周りの石壁もヒンヤリ冷たそうだ。
そりゃ、歓迎されるなんて思ってませんでしたけど……
……すみません、ちょっと期待してました。
だって、こんなに立派なお城だ。もうちょっとマシな所なんて、いくらでもあるでしょうに!
「あの、いい加減教えて下さい。私、何のために連れてこられたんですか?」
「それは、これから来る奴に聞け」
そう騎士が言うのと同時に、地下室の扉が開かれて豪華な礼装を着た司祭が現れた。
「ご苦労だったな」
「いいえ。では、私はこれにて」
騎士は司祭と入れ替わるように地下室から退出していき、この場には私と司祭の二人だけが残されることになった。
「さて、良くぞおいでくださいました」
「あ、あの、私は、その……」
「ええ、ええ。無理も有りません。突然、このような場所に連れてこられて、さぞ混乱されていることでしょう」
おお! 分かってくださいますか、司祭様!
そうなんです。私、しっかり混乱しています。
辺境の町から数日掛かりで連れてこられて、やっとの思いで到着した場所がこんな地下室なんて、誰が聞いても訳が分かりませんとも。
「心配せずとも、その不安は直ぐに無くなります」
そうですかぁ〜。それは良かったぁ!
おっと、ホッとしていてはいけない。肝心なことを聞かなければいけなかった。
「あの、私は何のために連れてこられたんでしょうか?」
「貴女、伝説やおとぎ話はお好きですか?」
うん? 司祭様、いきなり何の話でしょう?
ポカンとするこちらを余所に、司祭は話を続けるので、私はそれを黙って聞くしかなかった。
「この王宮にも、古くから伝わる伝説があるのです。王家に白髪を持つ者が生まれると、この国に災いを
「は、はぁ。い、いえ、そんなことは……」
その話、私とどんな関係がお有りですか?
「しかしね。実際に目の当たりにしてしまうと、みんな困惑してしまうものなのですよ」
「目の当たりにする?」
「ええ。残念なことに、実際に生まれてしまったのですよ。伝説の忌み子が……」
そうなんですか。でも、それは私とは全く関係ない話でしょう。私は王家とは全く関係ないですし、白髪でもございません。
「大変なんですね」
「ええ。忌み子を見た者は、みんな殺すべきだと言いました。私も、その一人ですが……」
「そうなんですか。では、その方は、もう……」
可哀想だけど、そう言うことだよね……
「いいえ、忌み子は残念ながら生きております」
「え? そうなんですか?」
「ええ。私達は知ってしまったのです。忌み子を殺す為には、それなりの手順というものが必要なのだと」
そうなんだ。でも、国に災いを齎すっていうくらいだもん。それくらいの準備は必要なのかもしれない。
って、いけない。すっかり話に飲まれ始めている。
「忌み子は通常の手段では殺せません。むしろ、そんなことをしては、国どころか世界に災いが降りかかると言われています」
その人を殺したら、世界が滅びるってこと?
そんな大袈裟な話、ちょっと信じられないなぁ。
「ええ。そんな大袈裟なと思われるでしょう」
あれ? 私、声に出てた?
「ですが、本当に起きないとも言い切れない。だから、私達は正規の手順に則って、彼を葬ることにしたのです」
確かに、ちゃんとした方法があるなら、先ずはそれに従うのが確実だよね。一か八かで、世界は滅ぼせない。
「しかし、その手順というのも一筋縄では行かないものでした。ですが、ようやくです。ようやく我々の努力が報われようとしている」
あの、司祭様。盛り上がっているところ大変申し訳ないのですが、そろそろ結論をお願いできないでしょうか。
「聞きたいですか? その方法を」
「え? ええ、是非……」
ここまで来たら、最後まで付き合ってあげようじゃないか。話を聞いてもらえないのは、やっぱり寂しい。
だから、私の話も聞いてください!
「人柱を用いて呪いを鎮めるんですよ」
「人柱?」
「生贄です」
ああ、生贄ですか。そうですかぁ。
確かに、呪いを鎮めるための生贄って聞いたことはあるけど、それと私が何の関係が……
って、こんな
「あの、その生贄って、まさか私ですか?!」
「他に誰かいますか?」
でしょうね……。
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