第15話 遺跡の森の秘密

 カイオ王子のそばに行くと、先ほどの矢が脇に落ちており、カイオ王子は苔のようなものがびっしりとついた小ぶりの石を見ていた。


「ほら、これを見てみろ。これは何かの記号だ。誰かが何かのためにこの石にしるしたに違いない」

レオも横にしゃがみこんで石を見てみる。たしかに矢が当たって苔が剥げた個所に意味不明の記号が刻まれている。

「本当に面白い記号だな。ちょっとこの石を掘ってみるか?下に壺(つぼ)に入った金貨なんかが隠されているかも知れないぞ?」

「まさか!」

レオは笑ったが...


 結局、好奇心の方が勝って、二人は木の枝を切って作った棒きれや手を使って、枯れた落ち葉の混じった土をどけて、その石の根本を掘り起こした。

 その石は頭が刻まれた首像だった。地上に出ていたのは額から上の部分で、それも苔などが生えていたので首像だとは今まで誰も気づかなかったらしい。


 もうとっくに夕暮れであり、帰りが遅くなると城でもフィッシュベイの村でも騒ぎになるので、その日は帰ることにし、翌日、シャベルやクワなど道具を用意してもどることにして、首像は木の枝や葉でかくして帰った二人だった。




 翌日から運悪く雨が5日ほど降り続いた。

カイオもレオも早くあの首像の下に何が埋まっているのか知りたくて待ちきれなかったが、雨の中たいした用事もないのに出かけるわけにはいかない。


 6日目にようやく雨が止んだが、カイオ王子は城で何やら用事ができたらしく数日現れず、ようやくフィッシュベイ村に来たのは昨日の朝だった。

 さっそくカイオ王子の馬に二人乗りして森のあの場所へ行き、カイオ王子がもって来たシャベルとクワを使ってていねいに首像の下を掘ってみたところ、その下部は大きな、幅1.5長さ2メートルほどの長方形の石につながっていることがわかった。

 正しくはつながっているのではなく、一つの石の塊から首像と長方形の台が彫り出されているらしかった。


 それから二人は苦労して土を取り除いた。

首像のある台の下はまた石材でできていて、ちょうど台の両端にあたる部分の石材に溝らしいものが切ってあることから、カイオは

「きっとこれは台を横に動かせる仕組みに違いない」

と言い出し、レオもその考えに同意した。


 二人は森の中の手頃な大きさの木をカイオの剣で切り、梃子の原理を使って首像の台を横方向に押してみた。最初はビクともしないようだったが、二人が渾身の力を込めてテコを動かすと、「ゴッ!」と音がして台が横に動いた。


 それで勇気づけられた二人は、とうとう石の台を最後まで動かすことに成功したのだが、その下からは目もまばゆい光を放つ金貨がザクザクと入った壺― などは出てこず、少々気味の悪い穴が開いていただけだった。

 もっとも、それはただの穴ではなく、石段があって下に降りれるようになっていることから、どこかへ続く地下通路らしかった。

その日は松明もランプも持ってきてなかったので翌日用意して来ることにしたのだった。




「ふーん。そうだったの…」


上品に皿のパンをちぎって食べながらイザベルは二人から話しを聞いていた。

テーブルの上にはメイドがもってきた昼食が置かれている。

今朝食べたピザみたいなパンが10枚ほど乗った大皿に、柔らかそうな肉を薄く切ったものの上からタレみたいなソースがかけられている肉料理の皿。


 さらに何か少し大きめの焼き鳥のような、こんがりと美味しそうに焼かれた肉片が積まれた皿。その横にはサラダらしい大雑把に切った緑や黄色や赤い野菜が盛られた大皿があり、脇にはサラダ用のドレッシングらしいものが入ったちょっと深い小皿にスプーンのついたものがあった。

 それぞれの前には皿とコップがあり、テーブルの中央にはガラス製らしいジュースポットがあり、赤っぽいジュースで満たされている。


 カイオもイザベルもなれているらしく、勝手にピザみたいなパンを自分の皿にとり、その横に肉料理をおき、サラダをとってドレッシングをさっさと好きなだけかけ、ポットからコップにジュースを注いでパクパク食べ、飲んでいる。

 レオも同じようにパンや料理を自分の皿にとり、ジュースをコップについで、時間も時間なのでかなり空腹なのもあり、旺盛な食欲にまかせて食べたり飲んだりしていたが


「王子さまって言っても、豪勢な食事をとっているわけじゃないんだな」とつぶやいた。

「あのなー、王侯貴族と言っても、レオが想像ているような豪勢な料理を三度三度食べているんじゃないんだよ。まあ、ボクの父上や母上の食事はこれよりもう少しマシだけどな。豪勢な料理ってのは、ほかの国の王や元首を迎えた時の晩餐会とか、何か結婚式とか戴冠式などがあったときに開かれる盛大な宴のときだけなんだよ」

「ふーん。そうなのか...」

「ボクはふだんは、こういうような手軽でバランスのとれた食事の方が好きなんだ。たぶん、イザベルなんかの方がふだんはこれよりもマシな料理を食べているんじゃないかな?」

「そうね。うちでは結構、手の込んだ料理を食べているわね」

(さすが金持ちのお嬢さんだな…)と感心するレオだった。


「で、イザベルは、いつボクたちがあの『秘密の通路』を発見したってわかったんだ?」


 今度はイザベルが話す番だ。カイオの問にイザベルは話し始めた。

イザベルが何か最近、レオとカイオ王子がほとんど毎日どこかへ出かけていると気づいたのは10日ほど前だったという。

 そして、昨日、昼過ぎからフェルナンドおじさんのところに用事があって神殿に出かけ、用事が済んで神殿の高い石段を降りている時に、遺跡からグランデの町へ向かっているらしい、馬に二人乗りした者を見たのだ。

 夕暮れ時だったので、顔はよく見えなかったが、カイオ王子とレオの二人であると直感で確信したイザベルは、見つからないように石段の両脇に並んでいる石像の後ろにかくれて二人が通り過ぎて見えなくなるまで待ち、それから急いで馬を駆って遺跡へ向かった。


 ちょうど雨が降ったあとで、馬の蹄のあとを見つけるのは難しくなかった。だいたい、このあたりに馬で来るものなんてほとんどいないのだ。

 そしていとも簡単に蹄のあとをたどって『謎の穴』がある場所を見つけることができたのだそうだ。

その日は秘密の場所を発見できたことで満足し、近い内にレオかカイオ王子に問いただすことを考えた。


「あちゃーっ、昨日の帰りにイザベルに見つかっていたなんて!」

「まったくだ。それにしても夕暮れ時でよくオレたちだとわかったな?」

「当たり前でしょう? 若い者で二人で馬に乗って歩いているっていったら、あなたたち以外にはいないでしょう?」



 イザベルは賢いのだ。

いつでもうまく隠したつもりでも必ずバレる。

小さい頃からそんなイザベルの感の良さというか直感力をよく知っていた二人は、遅かれ早かれイザベルにも話さなければならないことは分かっていた。

 しかし、今回もイザベルは先を越して二人の秘密を嗅ぎつけ、何が起こっているかを遅ればせながら説明することになってしまった。


「ということで、今日はランプやロープなども用意したから、これから『謎の穴』の探検をしようと思っているんだが、イザベルはどうする?」

「そうね…」と言ってしばらく考えていたが

「ジョージに馬車で連れて来てもらっているから、一応、家に帰ってジョージを降ろしてから『謎の穴』に向かうことにするわ。私もちょっと準備をしなきゃいけないから。ついでにお母さまが心配しないように、あなたたちとどこかへ出かけるって伝えとくわ」

「オーケー、じゃあそうしよう。レオはどうする?ボクとまた二人乗りで行くか?」

「あ、レオも私といっしょに一応、フィッシュベイに帰ったらいいんじゃない?そしてサラおばさんに私たちとちょっと出かけるって言っておけば心配もしないんじゃない?」

「うん、その方がいいな。」レオが同意すると

「じゃあ、遺跡の森に2時に集合ということで!」とカイオが集合時間を決めた。



 城を出て、すでに待っていたジョージの馬車に乗りフィッシュベイに帰る。

レオは家に顔を出し、サラ母さんにカイオ王子とイザベルといっしょに出かけることを伝えた。

 それから、家の外に立てかけてあった剣の練習用の木剣を手にするとイザベルの屋敷に向かう。高台の屋敷に着くとイザベルはすでに剣や何やら荷物を馬車に積み込んでいた。


「あら、早かったわね。これを積んだらすぐ出発するから馬車に上がっていてもいいわよ」

「オーケー」


 イザベルは剣を片手に身軽に馬車に上がると、慣れた手付きで手綱をとり馬車を走らせ始めた。

神殿や遺跡に向かう道に出ると、手綱をピシッと鳴らし馬車の速度を上げさせる。凛々しい顔をして、後ろに束ねた赤髪を風になびかせ、これからする冒険への期待感からかわずかに頬を上気させているイザベルは絵に描かれた男装の女剣士のように美しい。


「たいしたものだな。女にしておくのがもったいないような勇ましさと馬車さばきだよ」

「?!」


突然のレォの褒め言葉(?)に驚いたのか、前方を見ていたイザベルは目をレオに向けた。


「な、なにを言っているの?それって、私を男勝りって言っていることでしょう?それになに、その言い方? 16歳しかないレオが言うような言葉に聴こえないんだけど?」

(れれっ、しまった。つい、人生経験の深いオジサンの口調で言っちゃったよ…)

(美女に見惚れるのはいいけど、年相応の言葉を話さなければダメよ)

さっそくシーノからツッコミが入る。


今までずーっと黙っていたから静かにしているのに飽きたのだろう。


「難しいなぁ…」

「えっ、なによ。私を一人の乙女として見ることが難しいってこと?」

「いや、そうじゃない… って、お前、自分で乙女なんて言うなよ!そんなガラじゃないだろ?」

とぼけるイザベルに思いっきりツッコむ。

「何を言っているの?ほら、よく見てごらんなさい。この見目麗しい乙女を!」


そう言ってイザベルは誇らしげにDカップの胸を張った!


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