星形要塞で抱く桜色の焦燥

やすだ かんじろう

第1話 Prologue

 僕は石垣に囲まれた階段をゆっくりと登った。石段をまだ登り切ってはいないが、すでに階段の向こう一面に広がる桜色が見えてきている。

「やっぱりここが、一番綺麗だ」

 脳内でだけ喋ったつもりが、あまりの高揚感のせいか、僕の口からはぬるりと言葉が漏れ出していた。辿り着いた石段の頂上から見えるのは、お堀に沿ってずーっと続いていく桜並木。ここから見ると、それはどこまでも続いていくように見える。この光景に勝る景色を、少なくとも僕の脳みそは知らない。

 気持ちが昂り過ぎたせいか、僕の足は舞い散る桜の花びらを吹き飛ばすつもりでお堀沿いを駆け出していた。足は懸命に前に前に進もうとしているが、桜の花びらを吹き飛ばすどころか、風を切る感覚すら得られない。あれ、僕の足ってこんなにノロマだっけ。

 いや、それよりも○○と一緒に来ているんだから、走っちゃダメじゃないか。そう思って振り返ろうとすると、急に頭が揺さぶられるような轟音に包まれて、意識が遠くなった。

 何故かいつもこのタイミングで終わりはやってくる。あと少しなのにな。

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