3 内輪話
僕はマナミさんの運転する車に揺られながら、地図と外の景色を見比べ、観察していた。
地図は、物珍し気に外の景色を眺めていた僕にマナミさんが渡してくれた。
大きな島の中の、そのまた片田舎の集落で働く訳で、島全体の地形も把握しておいた方が良いだろう。
それに・・・
「村のみんなも元気にしてる?ナッちゃんや、ショウ君は?」
「みんな相変わらずよ。ナツミちゃんはマナミが帰ってくるの楽しみにしてたわよ」
「あはは。想像できるなあ。冬馬さんや五兵衛さんたちは?」
「そうねえ。冬馬さんはあの通り超然としているけど、五兵衛さんは最近ちょっとピリピリしてるわねえ」
「えっ。そりゃまたどうして?」
・・・寒戸関の内輪話となると僕にはよく分からないので話に入りこみ難いからだ。
いや、これからそこで働くのだから、むしろ積極的に会話に入り込んで色々と村の情報を知っておいた方がいいのか?
僕は・・・
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1.積極的に会話に混ざった(現在作成中)
2.遠慮しておいた
→2を選択
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遠慮しておいた。
村の事は着いた後でも、働き始めてからでも分かるだろうし、二人とも久しぶりの再開とあって、楽しそうに会話している。何となく邪魔しちゃ悪いと思ったからだ。
僕は佐戸ヶ島の地図に目を移した。
佐戸ヶ島はシンプルに言えば、ヒョウタンのような形をしている。
島の北と南に縦方向に山岳地帯が広がり、その真ん中を国仲平野が広がっている。
今、車が走っているのも国仲平野だ。
水田が青々と美しく続いており、所々に商店もある。
ここいら辺はまだそれ程田舎では無いのだろう。
「母さん。そう言えば今度の日曜日村祭りでしょ。そっちの方の準備は?」
「私も手が空いた時は手伝ってるけど、中川さん一家が中心に準備してくれているわ」
北に広がるのが大佐戸山地、南に広がるのが小佐戸山地、金山がある相川は大佐戸山地の西側の南側、寒戸関があるのは相川から北にかなり行った所で、大佐戸山地の西側の北側。
「今いるお客さんは?」
「今日の朝までは、大学生の団体さんがいらっしゃたわ。水泳サークルの合宿だったみたいね」
「今日の朝までかあ。もう少し早く帰って来てたら手伝えたのに。ごめんね母さん」
「良いのよう。今現在は北さんがいらっしゃってるわ」
「げっ。北さんかあ」
「前より宿に泊ってくださる頻度が増えてるわよ。今回も後しばらくはご滞在になるって」
「祝旅館をご贔屓にして下さるのはありがたいんだけどねえ。あの人どうも苦手なんだよなあ」
「お客様にそんなこと言ってはダメよ、マナミ。あ、そうそう。北さん近々知人の方もお呼びになるそうよ」
「へえ。どんな人なんだろ?」
寒戸関に行くルートは大きく分けて二つ。
今回進んでいる国仲平野を通り、相川を経由して外海府海岸(佐戸ヶ島の西側の海岸線)を北上し、寒戸関へ至るルート。
もう一つは島の東側の海岸線である内開府海岸を通って北側から外海府海岸へ移り、南下して寒戸関へ至るルート。
車は国仲平野を抜け、島の西側から回り込むようにして北上を開始する。
「母さんは、体調とか崩さなかった?さすがに一人で宿の切り盛り大変だったでしょ。今回は私とカネちゃんが中心になって働くから、母さんは出来るだけ休んでてよ」
「何言ってるのよう。母さんはピンピンしてるわよう」
ふと、僕は地図を読むのを止めた。
マナミさんのセリフに感じる物があったからだ。
そう、マナミさんの家は母子家庭なのだ。
だから当然マナミさんが東京の大学に行っている間は母親の弥栄さんが一人で祝旅館を支えている事になる。働いた事が無い僕が言うのも何だが、それはとても大変なことなのだろう。
僕に今回アルバイトの話が来たのも、少しでも弥栄さんの負担を減らして欲しいとマナミさんの想いからだった。
実は・・・僕も母子家庭だったりする。
父親の顔はよく覚えてない。
物心が付く前に離婚してしまったらしく、母親もその話はしたがらなかったため、僕も無理に聞き出そうと思った事は余りない。
マナミさんの家の事情はよく分からない。
けれどマナミさんは東京ではいくつかのアルバイトを掛け持ちしながら学業に勤しんでいる。
学費も奨学金を利用していると聞いたことがある。
マナミさんは底抜けに明るいし、弱音を吐かない人だから忘れがちだけど、実は苦学生なのだ。
それに比べると、僕は同じ母子家庭でも、お金に困った事は今まで余りない。
離婚した父親が養育費と生活費を母親に送っているのだそうだ。
父親の事を無理に母親に聞かなかった僕だが、興味が無かったかと言うと嘘になる。
昔、母親の銀行通帳をこっそり見て、定期的にお金が振り込んであるのを確認したことがある。
そして、その振込人の名前はカタカナで━━━
「カネちゃん、相川の佐戸金山跡についたよ」
僕はハッとして顔を上げた。
個人的な考え事をしている間に佐戸金山に到着したらしい。
「じゃあ母さん。また後で」
「ゆっくり楽しんできなさいなあ。うふふ」
僕とマナミさんは車を降りて、辺りを見まわした。
ここが・・・佐戸金山かあ。
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