第67話 玲菜の想像力

 九条さんに連絡が終わり、荷物を持って一人で最上階に向かっていた。

 最上階は飲食店しかないフロアで、その端にある階段の前で待ち合わせをしている。


 連絡をしている時、九条さんは近くに居たけど、三階は女性物の売場ということもあり、知り合に会うと困るので、最上階まで別行動にした。


 そして、階段前で待っていたら、九条さんが息を切らせてながら走ってくる。


「『若菜ちゃんが居る』ってRINEがあってビックリしちゃった。もしかして気付かれたの?」

「少し焦ったけど、バレなかったよ」

「そっか、良かった……でも、それならどうして若菜ちゃんは藤堂くんの所に来たんだろ? 若菜ちゃんと、どんな話をしたの?」

「ああ、島崎さんとは──」


 島崎さんが居た時にRINEをしていたけど、簡潔にするため詳しく説明していないので、声をかけられた場面から話していった。

 九条さんは最初は落ち着いて聞いていたが、途中からどんどん表情が険しくなっていく。


「九条さん、顔色が悪いけど大丈夫?」

「なんでもありません。続きを話してください」

「……わ、分かった」


 最近分かったけど、九条さんが敬語になってる時は怒ってる時だ。

 怒らせた理由は分からないが、言う通りにしておいた方が良いのは分かる。

 空気が重いというか、少し寒気を感じながら続きを伝えた。


「──で、島崎さんは帰ったよ。ていうか、少し寒いよね。エアコンが効きすぎてるのかな……はははっ……」


 説明が終わっても九条さんが黙っているので、さっきより重い空気を感じている。

 ただ、怒っているというより、なにかに悩んでいる表情に見えた。


「……若菜ちゃんが……藤堂くんを……」

「島崎さんがどうかした?」


 俺の言葉で我に返ったのか、どこか遠くを見ていた九条さんの視線が俺を捉える。


「……藤堂くん、若菜ちゃんとお付き合いするの?」

「しないけど!? なんでそうなるの!?」

「だって、若菜ちゃん可愛いもん……」


 九条さんが真面目に言ってるのが、表情からも伝わってくる。

 だが、その問いかけに対して、込み上げてくるものがあった。


「……なんだよ、それ」

「えっ」


 それは若干の苛立ちだった。


「俺を可愛いければ付き合う奴だと思ってたのか? ふざけんなよ……。島崎さんにも言ったけど、俺は顔で好きにはならないし、そんなので誰かと付き合ったりしない」

「ごめんなさい。そんなつもりじゃ……」


 強く言ったせいで、九条さんがあからさまに落ち込んでいる。


「ご、ごめん、俺の方こそ言い過ぎた。九条さんには、そう思われたくなかっただけで……そうだ、九条さんが同じことを言われたらどう思う? 嫌じゃない?」

「えっ、嫌かも……だけど、男の子は藤堂くんしか知らないから想像つかない」


 そうだった。九条さんは寄ってくる男を眼中に入れてないもんな。

 他に分かりやすい例えだと……


「じゃあさ、その男が俺だったら? 俺なら想像しやすいと思うけど」

「と、藤堂くんを想像するの!? えっ、どうしよ……あの……えっと……そ、そんな、いきなり言われると……」


 九条さんがあたふたしている姿を見て、頭の中に冷めたものが走る。

 想像しやすい例えのつもりだったが、考えたら大変なことを言ってしまった。


 だけど、もし九条さんが……


 少しの期待と不安に押し潰されそうになりながら返事を待つ。


「……も、もう……り」


 九条さんが小さな声で呟いたけど、聞き取ることができない。


「想像できたの……かな?」

「うん、想像したよ。いっぱい想像しちゃったから、もう無理……」

「……えっ、無理?」

「そう、ホントに無理なの……想像したら止まらなくなっちゃって、頭の中がこんがらがってくるの……でも、それが本当だったら……あっ、今のは無しで……って、そ、そうだっ、お腹空いたよねっ! 早くご飯食べに行かないっ?」


 無理、ムリ、無理、ムリ……


 この言葉で目の前が真っ暗になった。

 九条さんがなにか言っていたけど、耳に入って来ない。

 しばらく呆然としていると、体を揺さぶられているのに気付く。


「あっ、やっと、こっちを見た」

「……ん? ごめん、途中から聞こえてなかったけど、なにか言った?」

「お昼にしないって言ってたの。この時間なら空いてると思うよ」

「もう13時か、食べに行こうか」

「うん、早く食べに行こ。お腹空いちゃった」


 そう言って、九条さんが俺の手を掴んで歩き出した。お腹が空いたと言ってたから、早く食べたいんだろう。


 ……だけど、これって、どう見ても手を繋いでるんだよな。

 無理って言われたばかりだから、この状況が理解できない。


「藤堂くん。話の途中だったけど、若菜ちゃんとどうするの?」

「大丈夫だと思うよ。俺は『彼女とデート中』と言ったし、連絡があっても同じ理由で断わるつもり。九条さんの荷物があって助かったよ。証拠として見せられたから」

「えっ、そう言ったの?」

「驚いてるけど、なにかマズかった? ごめん、他に方法が無かったんだ」

「ち、違うのっ! わ、若菜ちゃんがそう思ったってことは、他の人からも恋人同士と思われてるのかな、と思って……」

「他の人って……そうじゃないか……」


 恋人に見られるのも嫌なのか。

 じゃあ、なんで手を繋がれてるんだろ……?



──────────────────────

こっちもちょっと短いです。

コメントの返信もできてなくてゴメンナサイ。

今日の夜に返信しますねー(⁠◍⁠•⁠ᴗ⁠•⁠◍⁠)

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