第7話 文学少女の返事
翌日になり、午前中の授業が終わった。
青色のノートは登校する時に置いてきている。
「やっと授業が終わったー! 腹が減って仕方ないな。授業って長すぎると思わないか?」
隣を見ると涼介が立っていて、弁当を手に持っている。
「長すぎるって、涼介は途中から寝てただろ。来月は中間テストがあるけど大丈夫なのか? ……涼介、どうした?」
涼介は教室の扉を見ながら、驚いた表情をしていた。
「教室の扉に何かあったのか?」
「……いや、九条さんが凄い勢いで教室から出て行ったからさ」
「九条さんが?」
ギャルグループを見ると、九条さんの姿は無くてギャル2人組しか居ない。
「いつもの彼氏に電話じゃないか? この前、昼休みは電話してるって言ってただろ」
あの時はチャラ男が九条さんに言い寄っていて、クラス全員が見ていた。
ちなみに今も、ギャルグループにはチャラ男が来ている。
「そういえば言ってたな。本当に彼氏が好きなんだな。昨日も昼休みになったら、すぐに教室から出て行ったから」
俺には分からないけど、いつも涼介はあのグループを面白がって観察している。
「ふーん、ラブラブで楽しいんだろうな。とりあえず早く弁当にしないか?」
俺には関係ない話だ。
そんな事よりも、お腹が空いたから早く食べたい。
「……ずっと思ってるんだけど、シュウって枯れてるのか? 文学少女の事だって気になってないみたいだし」
枯れてるって失礼な奴だな。
俺は健全な男子高校生だぞ。
「あのノートは今日が最後だからな。それと、俺も男だから興味はある。ただ、アイツ等みたいに誰でも良いって訳じゃない」
ギャルグループを見ながら言った。
毎日違う男達が居るんだぞ?
それに、俺だって人を好きになった事くらいある。
「いや、アレは俺も無理だって……そうだ、シュウ。話は変わるけど、ゴールデンウィークって予定あるのか?」
「本当に急に変わったな。連休中は中間テストの勉強と、バイト代が入るからラノベを買い込んで読むぞ」
昨日は咲良に暇人だと言われた俺だけど、君達は間違っている。
朝は走り込みとトレーニング、昼はラノベを満喫、夜はテスト勉強──
この通り、完璧な予定があるんだぞ。
「予定が満載だな。いや……連休中は1日休みが貰えるから、皆で遊ぼうと思ったんだよ。シュウとも最近遊べてないだろ?」
俺以外は部活で忙しいからな。
「香織と会えば良いじゃないか。2人で遊ぶ機会は少ないだろ」
2人は強豪サッカー部の部員とマネージャーだから完全休日は少ない。
「その香織が言い出しっぺだ。咲良と和真にシュウも誘いたいって……それで、シュウはどうだ?」
「咲良は大丈夫だろうけど、和真の予定が合えば俺も行くよ。俺も和真に会いたいし」
「じゃあ、日程が決まったら教えるから。そうだ、放課後は咲良と会うだろ? その時に今の話を伝えておいてくれ」
◇
放課後、咲良に5人で集まる話を伝えて、和真への伝言も頼んだ。
今日も和真と会うと言ってたからな。
「皆で会いたいねー。連休中を逃したら次は夏休みしか無理そうだもん。和真の予定を聞いたら皆に教えるから。それと、今日も感想をありがとね」
日課となっている、咲良の書いた小説の感想も忘れていない。
ちゃんと読んでるぞ。暇だから読んでるんじゃない。
「分かった、じゃあ俺は帰るから。和真に『俺達も会いたがってた』って言っておいてくれ」
部室棟を出て、いつもの近道を通って正門へ向かって歩くと──
──木の下にアレがあった。
何故あるんだ……今日は来てないのか?
とりあえずノートを開いてみた。
……また返事がいっぱいあるな。
しかも、どんどん文字数が増えてるし。
読んでみると、やっぱりラノベは読まない女の子だった。
恋愛小説でも純愛モノを好んで読んでいるらしい。
ラノベは王道もあるけど『ハーレム』や『ざまぁ』が多いから、文学少女は読まないだろうと思ってたからな。
でも、わざわざラノベは読まないって返事は必要ないけど……そうか、律儀な女の子なのかもしれない。
1人で日記を書いたり、本を読むのが好きな文学少女だからな。
そう思って読み進めると、返事があった理由が分かり自分の目を疑った。
『ライトノベルのオススメがあれば教えて欲しいです。興味はあるけど、種類が多すぎて分からないんです』と書かれていたからだ。
えっ、ラノベを読みたいの?
どうしよう……今は考えが
青色のノートを鞄に入れて家に帰った。
◇
──それで、どうする?
俺は今、自分の部屋の本棚と格闘中だ。
女性向けなら異世界恋愛か? 咲良も読んだと言っていたからな。
それなら俺も何冊か持っている。
……でも、純愛モノか。どうしよう。
迷いながらも一冊の本を手に取った。
翌日の朝、いつもの場所に青色のノートと一緒に昨日選んだ本を置く。
ノートには──
恋愛小説でも純愛モノが好きだと伺ったので、異世界恋愛を持ってきました。
オススメを教えても良いのですが、買っても趣味に合わないとお金が勿体ないので、僕の本を貸そうと思いました。
もう読んだ本なので、返さなくても大丈夫です。
──と、返事を書いた。
何度読んでも作文にしか見えない。
俺も本を読むのに、どうして文章を作るのが下手なんだろう。
気にするのは止めて、教室へと向かった。
◇
「そうだ、シュウくん。文学少女とはどうなったの?」
昼休みに、涼介と香織の3人で弁当を食べていると、香織から聞かれてしまう。
「涼介にも言ったけど、もう終わったぞ」
──と、2人には嘘を教えた。
今日の朝も「部室に寄ってから教室に行く」と涼介にも言っている。
なんとなく言った嘘……違うな、正直に言うと友達に知られるのが恥ずかしい──これが本当の理由だ。
今朝、木の下に本を置いたけど、趣味に合わなくて返却された……なんて結果になると笑われるのが目に見えている。
「そっか。シュウくん、残念だったね。春が遠ざかっても泣かないでね」
「どうして俺が泣くんだよ。香織の方が残念がってないか?」
「へへへ。バレたー? でも、本心だからね? ……シュウくんに好きな人ができたら良いのになって」
楽しそうな表情から一転、真剣な表情になっていた。
香織も本気でそう思っているのか。
「シュウの魅力に学校の奴は誰も気付いてないからな。まあ、そんな格好をしてるシュウが悪いんだけど」
ずっと相槌だけしていた涼介だった。
この格好を止めさせたがってるからな。
「シュウって運動神経は良いだろ。勉強もできるし、見た目も良い。……欠点は少し背が低いだけじゃないか」
「涼介、背が低いのは余計だ。俺からすると涼介が高すぎるんだよ。俺に少し寄越せ」
運動神経は良いと思うけど、陸上は限界を感じたから辞めた。
だから勉強で頑張るしかないだろ。
背が低いといっても、平均身長より少し低いだけだ。
「シュウ、それは無理だ……俺はまだ身長が欲しいからな。だから今は弁当を食うし、授業中にも寝る! 知ってるか? 寝る子は育つんだぞ」
「涼介、授業中は寝るなよ。弁当の大きさは……部活があるから分かるよ。それなら、中間テストも自力で頑張ってくれ。寝たら頭も育つみたいだしな」
涼介は大きな弁当箱を抱えながら、絶望の眼差しを俺に向けている。
いつも涼介と香織には、俺と咲良がテスト前に勉強を教えてるからな。
ただ、今回の中間テストは違う。
咲良は執筆を優先してるから、俺が3人に教える予定だ。
「そんな目をしても駄目だからな」
「……シュウ、俺の弁当を少し食うか? 大きくなれるかもしれないぞ?」
「いらん! 俺は自分の弁当がある!」
こんな感じで、いつもの昼休みが終わる。
そして放課後、木の下から青色のノートと本は無くなっていた。
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