知らない相手と始めた交換日記。その子はクラスの金髪美少女ギャルだった。

青山有季

第1章 交換日記と2人の秘密

第1話 新学年とクラス発表

 そろそろ家を出るか……

 リビングを抜けて玄関に向かった。


「姉さん、学校に行ってくる」


「今日は出るのが遅いのね。そうそう、夕方の撮影に遅れないでよ」


「今日は始業式だけだから大丈夫」


 俺は『藤堂秋也とうどうしゅうや』今日から東光大学附属高校の三年生になる。

 

 いつもより遅い時間に出たけど、それには理由があり──クラス発表があるからだ。


 掲示板の前が混雑するのは分かっている。

 生徒数が多い学校なのに、何故か一ヶ所にしか貼り出されない。


 ……遅刻はしないし、ノンビリ行くか。


 そして最寄り駅に着くと、誰かに後ろから肩を組まれた。


「シュウ! おはよー! 今年こそ一緒のクラスになりたいな!」


「おはよう、涼介りょうすけ。相変わらず朝から元気で羨ましいよ。一緒のクラスになれたら良いな」


 俺をシュウと呼んでいるのは『神城涼介かみしろりょうすけ』。

 小学校からの親友であり、サッカー部のエースストライカーで全国大会にも出場している有名人。


 ちなみに俺は違う。

 全くの無名だし、高校三年間は目立たず過ごしている普通の男だ。





「……やっぱり人が多いな」


 予想した通り、校舎前は大混雑で全く見えない。


「そうだな、待ってろ。俺が見てくるよ」


「分かった。俺はここで待ってるぞ」


「おう! 任せとけ!」


 涼介がクラス発表の人混みに突撃して行くのを見送った。


 面倒だから任せた訳ではない。

 俺の身長は168㎝で、涼介が185㎝。

 涼介なら後ろからでもクラス発表が見えるのが理由だ。


 待っていると、涼介が嬉しそうにブンブンと両手を振りながら戻って来た。


「シュウ! 今年は同じクラスだぞ!」


「おお! 本当か! 今年は楽しそうだな」


「それに香織かおりも一緒だったからな。シュウも一緒だし、楽しみしかないぞ」


 涼介が香織と言った子は『横山香織よこやまかおり』。

 香織も小学校から同じで、昔から俺達と仲が良く一緒に遊んでいた。

 ちなみに香織は涼介の彼女で、サッカー部のマネージャーをやっている。


「香織も居るのか。偶然って凄いな。……って、あそこに居るのは香織じゃないか?」


 俺が香織を見つけると、涼介が大声で香織の名前を呼んでいた。


「涼介、大声で名前を呼ばないで。恥ずかしいでしょ! あっ、シュウくん、おはよ」


「おはよう。まだクラス発表を見てないんだろ? 香織も俺達と同じクラスだぞ」


「えー! 今年は2人と一緒なの? やったー! 1年間楽しそうだねー」


 香織も涼介と同じでノリが良く、今も2人でハイタッチをしていて、何故か俺にまで求めてくる。


「涼介に香織。早くグラウンドに行くぞ。初日から遅刻はしたくないからな」


 香織は「ノリが悪いよー」と言ってくるけど勘弁して欲しい。

 2人は1年生の時から名物カップルで、今も俺達は周囲から見られている。


 2人は知ってるだろ?



 俺が目立ちたくない理由を──





 グラウンドで校長の長い話が終わり、俺達は教室に入った。


 ……えっと、座席は出席番号順か。


 俺は自分の席に座りクラスを見渡した。

 知ってる顔は何人か居るけど、半数は顔も名前も知らない人だ。


 そして教室の扉が開き、先生が元気良く入ってくる。


「皆さん、おっはよー!」


 担任まで確認してなかったけど、この人だったのか……


「はい! 私は担任の秋月優子あきづきゆうこです。担当教科は美術よ。1年間よろしくねー!」


 この人は昔からの知り合いだ。

 そして、チラッと俺を見て笑いそうになってるのけど、止めて欲しい。

 一瞬だったからバレてないけど、皆が不思議そうな顔をしてるだろ。



 今年を無事に過ごせるのか心配になる。

 色々と考えている間に、ホームルームが終わっていた。


 早くも教室内では、何組かのグループが出来上がっていて、その中にあるを眺めていると──


「シュウ、まだ帰らないのか? ……何を見て……って、あのグループか」


「涼介は知ってるのか? 派手というか、凄いグループだな」


「ハハハ、あの子達はな……俺も凄いと思うよ。人種が違うというより、完全に別の生物だと思うぞ」


 そこには、女子生徒3人が集まっていて、一際目立っている。

 3人全員がギャル系というのか知らないけど、メイクはバッチリだし、学校でも目立つ存在で有名人らしい。


「でも、全員可愛いと思わないか? シュウは誰が一番好みだ?」


「可愛いとは思うけど、派手すぎて無理だ。そもそも、あんな感じのグループとは関わらない様にしてるからな。涼介も知ってるだろ?」


「まあ、知ってるけどさ」


 そして、3人の中でも一番目立つ1人の女の子を見た。


 この学校は私立の進学校だけど、そこまで校則は厳しくはない。

 校風も生徒の自主性を重んじている。


 だけど──限度ってモノがあると思う。



 ──だって、金髪だぞ?



 髪の色を染めている生徒はクラスでも何人か居るけど、あんな金髪は1人しか居ない。


「金髪の子は凄いな。名前は知らないけど、何度か見たことがある」


九条くじょうさんの事か?」


「……九条さん? ふーん、九条さんっていうのか。目立つから知ってたけど、名前は初めて知ったよ」


「名前を知らなかったのか? 俺はシュウが知らないって事に驚いたぞ。あの子は『九条玲菜くじょうれな』って名前だ。凄く可愛いって有名だけど、本当に知らないのか?」


「顔は知ってるって言ったろ。名前を知らなかっただけだ」


 ……九条玲菜か。


 涼介が言ったけど、確かに凄く可愛い。

 ただ、かなりメイクが濃くて、制服も着崩している。

 理由は分からないけど、あんな感じは似合わないと思う。


 ……普通にすれば、もっと可愛いのに。


 どちらにしても、近付きたくないグループというのは間違いない。


「シュウは、あんなグループの子達に絶対に近付かないもんな。……それよりも、まだ続けるつもりなのか? いつまでをやるんだ?」


「『ソレ』って言うな。卒業までやるって前も言っただろ? あと1年はやるぞ。いや……あと1年の我慢だな」


 涼介は俺の言葉にため息を吐いている。


「そうか……でも、香織も言ってたぞ『シュウくんは勿体ない。高校生活を無駄にしてる』って。俺も同意見だし、元に戻してもバレないと思うんだけどな」


 学校の生徒では、涼介と香織の他にもう1人が俺の秘密を知っている。


 涼介が言ったのは俺の見た目のことだ。

 学校では前髪を下ろして目元を隠していて、周りからは『ボサボサの髪で地味な人』と思われているだろう。


「バレないって言うけど『俺だと分かる』って最初に言ったのは涼介と香織だからな?」


 そう、この2人の言葉でこうなった。


「言ったけどさ……俺達しか分からないと思うぞ。小学校の頃から毎日見てるんだし」


「この格好は外で会う時はやってないだろ。もう、この話は終わりだ。それより、香織は部室に行ったけど、涼介は行かないのか?」


「ああ、まだ俺は大丈夫だ」


 しばらくの間、2人で話ていると聞きたくない言葉が耳に入り、体が硬直した。



 それは──



「そうだ! 2人は今月号を見た? アキちゃんが出てたから買ってきたよー」


「見たー! やっぱり可愛いよね。私もあんな感じになりたいなー」


「……アキちゃんって誰?」


 さっきの目立つ3人組だ。

 1人が鞄から雑誌を取り出して、2人が覗き込んでいるのが見えた。


 九条さんだけが知らないと言っていて、説明を聞いて「へー」「うん、可愛いねー」とか言っているのが聞こえてくる。


 俺は体が硬直しながらも、聞こえてくる会話に『やっぱり人気なんだな』と思ったけど……そうじゃない。

 

 ……早く此処から立ち去ろう。


「涼介。──というわけで、俺は先に帰るからな。部活を頑張ってくれ」


「ハハハ『というわけ』の理由は分かってるよ。また明日なー」



 理由を知っている涼介は、笑いながら手を振っていた。



 だけど俺は本当に笑えない。



 あの話題の前に居るのは不味い。



 オシャレに敏感な女子生徒には、何があっても近付きたくない。


 あの女の子達が話していた『アキちゃん』というのは、人気美容室の専属カットモデルだ。


 アキちゃんがカットやメイクをしている写真が雑誌に掲載され、当時も人気だった美容室は更に人気になった。


 今ではカットの予約も取りにくく、大人気美容室としてテレビでも紹介され、キッカケとなった雑誌もテレビに映り、アキちゃんの顔が広まってしまう。




 どうして俺が詳しいかというと……




 ──俺がアキちゃんだから。




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読んでくださってありがとうございます。

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