色褪せて
水野スイ
色褪せて
色褪せるものほど美しい。
失われていく記憶の破片を拾い上げようと、もがき溺れるのさえも。
忘れてしまったことを、ただ静かに受け止め、深呼吸する。
それはただ思い出せないだけであると、どこかで聞いた気がする。
変わらないものを、普遍も、どこかできっと変わっているのだ。
そのものが変わらなくても、それを取り囲んだかつてのものたちが、ささやいている。やつらを取り込んだすべてが、きっと知っている。
ぬるまゆの風に吹かれながら、遠い空を見つめる。何もなく、流れていくものに身をまかせるのは気持ちがいい。カタチなく、あいまいな世界で生きる私達に、自らの心の奇形を思わせるような、毒々しい残酷さを添えて。
それが人間の常であると私達は知っている。
そうやって、人は生きようとする。自らを変えようとせず、世界を変えていく。
色褪せていくものたちに別れも告げずに、覚えている太陽のカタチを、必死に描きながら。私達はもうとっくに失って、忘れている。色褪せているのではなく、もう色褪せてしまったこの世界を。
それでもなお美しいと思うのは、私達が人である常で、それが常である贖罪なのではないか。それでよい、そのまま、自らを枯らしてしまえばいい。
それでこそ、この残酷な世界に生きる人間であり人であるからだ。
色褪せて 水野スイ @asukasann
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