第46話 もう一つの力
「聞こえますかー? 医師のサクラと言います」
声をかけても反応が返って来ない。
額や首には大量の汗をかいているし、熱もあるようだ。
「熱中症の症状もあるようですね」
長時間走り回ってここで力尽きたのだろう。
「解毒にはこのポーションを使ってください! 直接飲めない場合は点滴で流し込みましょう」
私はジンとネネに指示を出す。
「ライムントさん、ここから森を抜けるには何分かかりますか?」
「25分……いや、20分で行けます」
「それじゃあ、間に合わない……」
やはりここで処置するしかなさそうだ。
私たちが処置にあたっていると、騎士団の応援が到着した。
その中には一際目立つ赤髪の男がいた。
「あなたは相変わらずのようだ。誰かを救うことにいつも一生懸命だ」
「クルトさん、お久しぶりです」
彼は以前、私が赤龍との戦いで負傷した傷を癒した人物だ。
あれから、随分と私を信頼してくれている。
「ご無沙汰しております。私たちも手伝います」
クルトの後ろには第二騎士団の面々が待機していた。
「ありがとうございます。では、これを高い位置で持っていてください」
私は解毒の点滴の入ったボトルを渡した。
「なんとかなりそうですね」
「ええ、解毒用ポーションを持ってきて正解でした」
その場にいる六人の生徒たちは無事に一命を取り留めた。
しかし、まだ安心はできない。
見つかって居ない生徒があと七人もいるのである。
「とりあえず、捜索を続けましょう。クルトさん、この子たちを下に居るコーム先生たちの所まで搬送していただけますか?」
「もちろんです。ここは我々に任せてサクラ先生たちは捜索に向かってください」
「ありがとう」
私たちはその場をクルトに任せると、再び捜索へと向かった。
「ここから奥がまだ捜索していないエリアになりますね」
ライムントが地図を片手に言った。
「では、そっちに行きましょう」
そして、しばらく捜索をしていた時である。
「サクラ先生! あれ!」
ジンが大きな声と共に指差した。
その方向には黒髪の少女がうつ伏せで倒れていた。
私は急いでその少女の元に駆け寄る。
「大丈夫ですかー? 起こしますね」
そっと少女を仰向きに直す。
すると、その少女は口元から血を流し、苦しそうに表情を歪めていた。
「サクラ先生、これって……」
ジンが恐る恐る口にした。
「ええ、魔力が暴走してます」
おそらく、ブラックウルフの神経毒が体内に入ったことにより、魔力が暴走状態になっているのだろう。
まだ、魔力操作が完璧ではない魔術師なら稀にあることだ。
しかし、この子は魔力の暴走がかなり大きい。
元々、魔力が多い子なのだろう。
「それって、かなりまずい状態ですよね?」
魔法には素人のライムントでさえ、この状態の危険性を理解しているようである。
「そうですね。魔力が暴走して肉体が付いて来れていな状態ですので、このままだと体の内側から破壊されてしまいます」
『ヒール』
私は回復魔法をその少女にかけた。
「効果がない……」
通常の回復魔法では、この状態を打破できないようである。
「やるしか、ありませんね……」
私は小さめの声で口にした。
「ライムントさん、今から見たものは他言無用でお願いできますか?」
「わ、分かりました」
私の真剣な表情にライムントは頷いた。
それを確認すると、私は少女の胸に右手を付けた。
『光の精霊に願い奉る。使用者は我なり。ここは聖域にして我が領域。彼女に癒しの力を浄化の加護を授けたまえ』
詠唱を終えると、少女の全身が光に包まれた。
「あ、あれは、最上級精霊術……」
ライムントさんは私が何をやったのかが分かっているようだ。
そう、私が使ったのは魔法ではなく『精霊術』と呼ばれるものだ。
これなら魔法では効果が見込めない症状でも治せる場合がある。
「精霊術まで使えるなんて、本当にあなたって人は何者なんですか?」
「癒しの宮廷魔術師です」
私は少しだけ口角を上げた。
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