第43話 選考会

特別医療事案救急救命室。

通称、特医救命は現在少数精鋭で回している。


 しかし、そこに新しく一人の医師を加えることになった。

今日はその新しい医師の選考医委員会の日である。


 病院の会議室には病院長をはじめとする病院幹部たちが集まっている。

もちろん、特医救命の室長である私も選考会に参加している。


「まずは皆さんの意見を聞かせて欲しい。特医救命の特性を考慮してどんな人材が相応しいか選考して行きましょう」


 院長が言った。

参加者の手元には候補者の詳細が書かれたリストが渡されている。

それを見ながら今回の選考を進めていくのだ。


「やはり、救命救急の専門医を迎えた方がいいのでは無いでしょうか」


 副院長が口にした。

確かに副院長が言うことは最もだと思う。


 特医救命はその特性上、高度な医療技術と判断力が求められる。

そこに一番適しているのは救命救急の専門医であろう。


「しかし、救命は激務であまりなり手が居ないんですよね」


 院長は苦い表情を浮かべた。

今はどこも慢性的な医師不足に悩まされている。

その中でも救命医は特になり手が少なかった。


 激務な上に給料待遇も他の課より少し高い程度では少なくなるのも納得はできる。


 私は、渡された候補者の資料をペラペラとめくっていく。

そして、一人の候補者の資料で私の手は止まった。


「あの、私からも発言してよろしいでしょうか?」


 私は手をあげると言った。


「もちろんです。どうぞ」


 私の発言に院長は優しい声で言った。


「この方、エリカ先生を特医救命に呼んで頂けないでしょうか?」


 そう言うと、そこにいる全員が資料を確認する。


「医師になってまだ2年で経験もそんなにありませんし、救命救急の専門医でもないようですが、サクラ先生はよろしいんですか?」

「はい、それでもいいんです。今、うちに必要なのはこういう人材なんです」


 その資料の最後には医師を志した理由という欄があった。

そこにはこう書かれていた。


『人の命を救い、支えになりたいからです』


 一見、誰にでも書けそうなことだが、こうも素直に真っ直ぐに書かれていたのは彼女だけであった。

今の特医救命には彼女のような最後まで患者さんに寄り添う医師が必要だと考えている。


『無愛想でもいい、技術を磨くこともいいことだ。しかし、それを目の前の患者さんと向き合わない理由にしてはいけない』


 昔、私の師匠が言っていた言葉だ。

私はこの言葉に支えられてきた。


「分かりました。では、エリカ・ティンジェル先生を特医救命に派遣しましょう」

「ありがとうございます」


 院長の一言で選考会の幕は閉じたのだった。

 

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