第37話 新設部署

 翌週から、私は病院勤務を再開することになった。

私が治療した妊婦の少女は無事に回復へと向かっているらしい。


 このまま順調に行けば元気な赤ちゃんを産んでくれることだろう。


 そして、今日は私の勤務する王立中央病院の院長からお呼び出しを受けていた。


「呼び出しちゃってすまんね」

「いえ、お気になさらず」


 院長は椅子から立ち上がると、院長室の中央付近にあるソファーへと移動した。


「まあ、座ってくれ」

「失礼します」


 私は、院長の対面にあるソファーに腰を下ろす。


「それで、今日、サクラ先生に来てもらったのは他でもない。頼みたいことがあるからです」

「頼み、ですか」

「ああ、今度うちの病院に新たな救命救急の専門部署を作ることになった。必要とあればこちらから現場に出向いて救命措置を行う。そんな部署だ」


 それは、まさに救命救急の理想とも言えるものではないだろうか。

医師は搬送されてきた患者さんを治療するのが一般的であると言える。

しかし、中には搬送途中に息を引き取る患者さんも居る。

病院に運ばれてきた時には、もう手遅れだったという状況を私は何度も目にしてきた。


「サクラ先生には、その特別医療事案救命救急室の室長として就任してもらいたい」

「私が、室長ですか……」


 確かにこれは、私にとってはいい話でしかない。

手遅れになる前に誰かの命を救うことができるのだから。


「もちろん、陛下の許可はもらってある。危険のある部署だから無理にとは言えないが、私はこの部署を任せられるのはサクラ先生、あなたしかいないと思っている。頼まれてくれんか」


 そう言って院長は頭を下げた。

サクラは医師としての技術はずば抜けて高い。

それに加えて、国王陛下より癒しの宮廷魔術師に推薦されるほどの高い魔術の技術も持ち合わせている。

これほどの適任者は居ないであろう。

 

 どんな時も冷静に対処、適切な処置を施す。

簡単そうに思うかもしれないが、これをできる医師は珍しい方だろう。


 救命救急というのは、一分一秒を争う世界なのだ。

スピードはもちろん、丁寧さも求められる。


「頭を上げてください。私でよかったら、ぜひやらせてください」

「ありがとう。サクラ先生が引き受けてくれるというなら安心だ。これが、サクラ先生率いる特別医療事案救急救命室のメンバーだ」


 そう言うと、院長は一枚の紙を手渡してくれる。

そこには、医師3名、看護師3名の名前が書かれていた。


「全員救命医療の専門技術を学んできた者たちだ。サクラ先生との相性もいいだろう」


 メンバーの中にはジンの名前もあった。

騎士団直属の医師であったジンは救命医療の技術は優れているのだろう。


「これが新しいサクラ先生の身分証です」


 身分証には名前と医師証明、特別医療事案救命救急室室長という肩書きが書かれていた。


「ありがとうございます」

「特別医療事案救急救命室は一階の東側に新設したから好きに使ってくれ。大体の必要な医療器具は揃えてあるつもりだが、必要なものがあれば随時言ってくれ」

「助かります。それでは、早速行ってみます」


 そう言うと、私は院長室を後にした。

院長の話だと、今後メンバーは増員されていくらしい。


 確かに、この人数だとカバーしきれないことも出てくるだろうから、それはありがたい話であった。

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