第24話 ここは奇跡を起こす場所

「サクラ先生到着しました」


 私が治療室に入った瞬間、患者さんの心肺が停止した。


「胸骨圧迫始めます」


 私は、心肺蘇生法を開始する。

いわゆる心臓マッサージというやつである。


「体温上がってきませんね」


 心肺停止状態はしばらく続いた。

そこから心肺機能が動き出すまで、ひたすら胸骨圧迫を続ける。


 私の額や腕には汗が滲む。

胸骨圧迫をずっとやり続けるのも結構な体力が必要なのだ。


「戻りました!」


 その時、治療室にジンの声が治療室の中に響いた。


「はぁはぁはぁ」


 私は息を切らしていた。


「ここから低体温療法にて経過観察します。魔法で徐々に体温を上げて行ってください」

「分かりました。あとはお任せください」


 心臓が再び動き出した患者さんはそのまま、集中治療室のベッドに運ばれて行った。


「サクラ先生、お疲れさまでした」


 ジンがカップに入った水を渡してくれた。


「ありがとうございます」

「少し希望が見えてきましたね」


 ジンは運ばれていく患者さんも眺めながら口にした。


「どうですかね。明日まで持つかどうか」

「珍しく後ろ向きですね」

「25分を超えてからの生存。ましてや、意識を取り戻すのは奇跡です」


 運よく命は繋いだが、ここから意識を取り戻すというのはまさしく奇跡でしかない。


「低体温療法がうまく行ったとしてもよくて植物状態でしょう」

「なんか、らしくないですね」


 私の見解は医師としては間違っていないとは思う。


「これ以上、やれることがないんですよ」

「サクラ先生、目の前の患者さんをみてください。過去じゃなくて」


 ジンは優しい声で私に向かって言った。

私は、汗をかいたので着替えを済ませると、先ほどの溺水の患者さんのベッドへと向かった。


 ベッドのそばには1人の女性が座っていた。

年齢から察するにおそらく母親だろう。


「あの、お母様ですか?」

「は、はい。息子を必死に救ってくれたと聞きました。本当にありがとうございますう」


 その女性は私に頭を下げた。


「いえ、お礼は息子さんが意識を取り戻してからにしてください」

「すみません。息子は意識を取り戻すのでしょうか?」

「正直、今夜が山だと思います」


 隠してもしょうがないので、私は真実を伝えた。


「そう、ですか」

「息子さんはなぜ川なんかに入ったのでしょうか?」


 この時期に川に入った理由が私はどうしても気になっていたのだ。


「それが、私にもよく分からなくて……」

「そうですか。分かりました。息子さん、意識を戻ることを願っています」


 そう言うと私はその場を離れた。



 ♢



 翌日、私は同じように出勤した。

どうしても昨日の患者さんが気になってしまったのだ。


「サクラ先生!!!!」


 私が病院に入った瞬間、ジンが走って向かってきた。


「どうしました?」

「昨日の溺水の患者さん、意識を取り戻しました!!」


 それは、私にとっては朗報だった。

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