キヨミズくんを酔わせたい
ミケ ユーリ
キヨミズくんを酔わせたい
第1話 ワンコ系男子
この人は本当に、あの
同じベッドに眠る黒髪の青年を見る。
月一回、おじいちゃんがひとりでやってる散髪屋さんで「いつもの」って言ってそうな、特徴のない髪型。良く言えばナチュラル。悪く言えば無頓着。
私も人のことは言えないけど。ベッドの上に体を起こし、ただ伸ばしているだけの長い髪が垂れる胸元まで布団を引き上げる。
清水くんがいつもしているメガネは、昨夜この部屋に入るなり
「俺メガネ嫌いなんだよね。必要がなきゃ、こんなもん掛けない」
と、そこに見える小さなテーブルに置いてしまった。
見るのに必要なメガネを外して私を見てたってことか。見えてたのかしら?
まあ、見えてないに越したことはないわね。いつもの清水くんと違いすぎて、驚いて私ただただボーっとしてた気がするもの。
会社で見かける清水くんは、背が高く痩せていて黒髪でメガネ、という真面目そうな外見に相反して、いつも笑っている人懐っこいイメージの絵に描いたような好青年だ。
テレビで「今人気のワンコ系男子の魅力をリサーチ! ちょっぴり天然でほっておけない、愛され力の高いかわいい男の子とは?!」っていうタイトルを観た時に、即座に「あ、清水くんだ」と思った。天然でかわいい愛され力の高い男の子、まさに清水くんだって。
総務に所属する私の仕事内容では営業の清水くんと直接の接点がなく、会社の廊下で会った時に「お疲れ様ですー」と言い合うだけの間柄だった。
でも、時折、隣接する工場に行く時に他の人と話している笑顔の清水くんを見かけ、工場から総務の部屋に戻る際に手にキットカットを持った清水くんに遭遇したりして、さっきの人にお菓子もらったのかな、と思ったりした。
私の上司である
そんな会社の人たちみんなから部署を超えてペットのようにかわいがられている清水くんが、昨夜いきなり合コンに乱入してきた時は驚いた。明らかに酔ってる様子だったんだもの。
清水くんがお酒を飲む姿が想像つかない。だって犬ってお酒飲まないでしょう。
私と同じ総務のさくらと、清水くんと同じ営業の
男女5人5人、計10人で結構盛り上がって楽しかった。
そこへ、
「片橋!」
と清水くんが結構な勢いで片橋くんに抱きついた。
「え?! 清水、ひとり? 彼女は?」
驚いた片橋くんが尋ねると、
「フラれたー!」
と叫んだ。
「げっ、嘘だろ?!」
「ええっ?」
片橋くんとさくらの大きなリアクションを見て、あら、そんなに驚くのね、と思った。
清水くんは入社した時から彼女がいると公言している。高校時代から付き合っていて、今となっては長い付き合いながらラブラブだと聞いていた。
だから私もびっくりはしたけど、私は会ったこともないからそこまで気持ちが入らない。
そう言えば、清水くんと同期のさくらと片橋くんは彼女とも一緒に遊んだって何度か言ってたわね。
「それでヤケ酒かよ。清水、普段ほとんど飲まないもんな」
片橋くんが大いに同情を含んで言うと、さくらはこの合コンをよほど邪魔されたくない気合を感じるほどに言い切った。
「フラれてかわいそうだけど、私、酔っぱらった清水と関わるのヤダ!」
「どうして?」
「だって清水、超酒癖悪いんだもん」
あら、そうなの? あのワンコかわいい清水くんが酒癖悪いなんて、意外だわ。
「
「え? 私合コンから外れて後輩の面倒見るの?」
「だって、この中に清水入れたりしたら私友達減っちゃうよ!」
私以外の女子メンバーは、全員さくらの学生時代の友達だ。私よりも付き合いの長い友達すら去っていくほどの酒癖なの? 普段の清水くんはニコニコととてもかわいいのに?
逆に見てみたいかもしれない。そんな清水くん。
「分かった。酒癖の悪い客の相手は慣れてるし」
「客?」
「あ、何でもない」
立ち上がって、
「清水くん、私が相手するからあっちで飲もうよ」
と片橋くんの背中にへばりつく清水くんに声を掛けた。
私と目が合うと、清水くんは
「こっち来いよ。俺、酒置いて来てるし」
と、さっさと歩きだした。
え? 今の、清水くん?
いつもの清水くんなら、あっち行こうよと言われれば笑顔で「はい!」って返事をして私の後をついてくるだろう。
「こっち来いよ」の言い方が絶妙に良かった。偉そう過ぎず、でも強引さを感じさせる、ちょうどいい強さの「こっち来いよ」だった。
あのワンコ系男子の清水くんが、あんな言い方するかしら。え、したよね、今まさに。
呆然と突っ立っていると、振り返って私がついて来ていないことに気付いた清水くんが戻って来て私の手首を優しくつかんだ。
「こっち来いよ」はあんなに強さを感じたのに、私の手に触れる清水くんはとても力加減に気を遣ってくれているみたい。ただ私を自分が座っていた席に案内するためにつかんでいるだけで、まるで強引さは感じない。
なんて、ちょうどいいギャップなの。
たったひと言で、ほんの一瞬で私はすっかり清水くんに心を奪われてしまった。
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